第113話 子鬼の山 その2 連携と誤解
スウサの大草原に入り戦闘を開始して、15分ほど経過しただろうか。
大盾を持ったダンクがモンスターの攻撃を阻み、その間にラティナがモンスターの属性や種類に応じた魔法で攻撃し、オリヴィエは回復を挟みつつ支援魔法や盾魔法で補助していて、見習い三人は息の合った連携で一体、また一体とモンスターを倒している。
ちなみに自己紹介の時や戦闘前の会話の中で、ダンクはやや強い土属性を、オリヴィエは水と弱い土を、そして驚いたことにラティナは、弱いながら火水土風の4属性を持っていることを聞いた。
いや、4属性って…。1属性でもラジクのように強い人はいるけれど、属性が多いに越したことは無いしそれだけ戦略の幅が広がるから、かなり羨ましいよ!
「見習いだと聞いていたから不安もあったけど、これだと僕の出番は無さそうだなぁ。
というか、これだけ戦えるならとっくに見習いは卒業出来そうだけど…」
「俺達は小さい頃から三人で鍛えていて、互いに補いあう形で訓練してきましたから、練兵場でやったような一人ずつの戦闘よりも、こういうパーティーで戦う方が得意なんですよ」
僕は独り言を言ったつもりだったが、ダンクには聞こえていたらしい。身体強化を使っていて聴力も上がっているのだろうか。
「じゃあその辺りも加味して先生…いや、アルテミア様も班編成を決めたのかも知れませんね」
「正直言うと、かなりありがたいです。俺達はバラバラだとここまで戦えませんから」
そう言いながらダンクがメイスを叩きつけると、動きの止まったところにすかさず魔法が命中して、見事にモンスターを倒した。
もう十体ほど倒しただろうか。三人は息が上がり始めているので、一旦休ませることにした。
今回の演習では霊樹の葉の回復薬は勿体ないのでラジクに預けておき、代わりに僕は効果は低いが値段も安い、市販の回復薬を受け取って持ち歩いている。
騎士団…特に階級の低い騎士達にはこれが御用達らしく、他の三人も同じものを持っているようで、それを飲みながら休んでいると、少し先に進んでいた小隊が慌てた様子でこちらに向かってきた。
二人の負傷者に残りの二人が肩を貸しながら、必死で逃げているその向こうには、スウサの大草原ではお馴染みのモンスターである、トライホーンが土煙を上げながら猛然と突進してきていた。
「な、なんだあれは!さっきまで戦ってたモンスターより遥かに大きい。あれがこの草原の主なのか!?」
「ひぃっ、オリヴィエちゃあん!どどどどうしよう?」
4属性持ちのラティナは、その属性の分だけメンタルが紙らしく、オリヴィエに抱きついて狼狽えている。
「ダンクもラティナも落ち着いて。このままだとあの人たちはモンスターに追いつかれるし、周りには他の小隊や引率の騎士もいないから、私たちでどうにかするしかないわ」
「で、でもあんなのとぶつかったら、ダンクはきっと潰されちゃうよぅ」
「それでもやるしかない。放っておけばアイツら確実にやられちまう。身体強化と盾でどうにか耐えるから、オリヴィエは筋力増加や盾魔法も使って支援してくれ。ラティナは俺が足止めしたら、ありったけの魔力を使って攻撃だ」
「わかったわ」
「う、うん…頑張るよっ」
僕が口を挟む間もなく、三人は次々と方針を固めて動き始めた。やる気があるのは良いことなので、万が一に備えてすぐに盾魔法を使えるようにだけしておいて、僕は三人に任せることにした。
それにしても浮き足立つ二人を冷静なオリヴィエが落ち着かせ、皆の力量を把握しているダンクが役割分担を決め、その間に立ち直ったラティナが攻撃の要として機能するのか…。こういうのってなんか良いね。
そうして僕たちは追われて来た小隊を先に逃がし、トライホーンを迎え撃つ。
まずはオリヴィエが盾魔法を張り、土の壁は砕かれたもののトライホーンの勢いを削ぐことには成功した。
更にオリヴィエの支援魔法をかけてもらったダンクが、大盾を構えてトライホーンの突進を受け止めると、ガァンッ!という音と共にトライホーンの足は止まったが、衝撃に耐えきれなかったダンクも体勢を崩す。
『ミル・ファイアボール!』
そこにパリパリッと火花が散るほどに魔力を溜めたラティナが、紅蓮の火球を撃ち込んだ。
トライホーンに直撃したそれは、外皮を黒く焦がしはしたが致命傷には至らない。
魔法を受けて怯むトライホーンに、今度はダンクが力いっぱいメイスを叩き込むが、外皮は砕けたもののこちらも致命傷とはならなかった。
「くっ、何て硬さだ!」
ダメージから立ち直りつつあるトライホーンが、目の前のダンクに狙いを定めたところで、これ以上は危険だと判断した。
僕はエルフの弓でトライホーンの両目を撃ち抜くと、三人に指示を出す。
「もう視界は奪ったから、あとは角にだけ注意しながら落ち着いて行動すれば大丈夫!
オリヴィエは盾魔法でトライホーンの足止めと、ダンクに筋力増加の支援魔法を!
ダンクは外皮の繋ぎ目の弱いところを重点的に攻撃して、狭い範囲で良いから外皮を剥がせ!
ラティナは再度魔力を溜めた後、ダンクが外皮を砕いたところに炎ではなく風の刃か竜巻魔法を叩き込め!」
「「「はいっ!」」」
いきなり放たれた矢がトライホーンの両目に突き刺さり暴れるのを、呆然としながら見ていた三人は僕の指示を聞くと我に返り、すぐさま行動を開始した。
それにしても僕が最初にトライホーンと戦ったときには、外皮を貫いたり砕いたりなんて出来なかったけれど、ダンクは支援魔法がかかっているとは言え、よく砕けたものだ。
こういうモンスターには剣よりも、ハンマーやメイスのような打撃武器の方が効きやすいのはわかるけれど、それにしてもアッサリと砕いているように見える。後学のためにも、あとで何か理由があるのか聞いてみるとしよう。
僕がそんなことを考えていると、三人は指示の通りに動き見事に討ち取った。
特に驚くべきは、途中でトライホーンが闇雲に放った角が偶然、三人に目がけて飛んでいった時で、それぞれ大盾や盾魔法を使って受けるのではなく、斜めに構えて受け流して防いだ事だった。よく反応できたものである。
そして互いに信頼し合い、それぞれが自分に出来ることを一生懸命に頑張ろうとする姿は、見ていてとても心地よかったし、幼い頃からそういった仲間がいたことを、僕は少し羨ましく思った。
それぞれの詠唱も僕と戦ったゲオリグより速かったし、咄嗟の判断力もそこそこある。あとは個人的な部分が上手く鍛えられたなら、この三人は凄く成長するんじゃなかろうか。
話す機会があったら先生に、この三人について話してみようかな。
僕が色々と考えていると、戦闘を終えた三人がこちらに戻ってきた。
「適切な指示をありがとうございます。隊長のお陰で何とか倒せました」
「いえ、こちらこそ咄嗟のこととは言え呼び捨てにしたり、偉そうに指示を出してすみません…」
「そ、そんなことはないです!とても分かりやすかったですし、ジグさんは隊長なんですから気にしないでください」
「ラティナの言う通りね。それに私たちは本来、隊長の指示を待って動くべきだったのに先走ってしまった。これについてもお詫びしなきゃ」
「いやいや、あれは良い判断だと思ったので、僕も特に言うことはありません。ただ一つだけ…」
「はっ、何なりと」
ダンクがそう言って畏まると、ラティナとオリヴィエもそれに続いた。
うーん、短期間とは言え隊を組む仲間なんだから、そろそろ堅苦しいのは止めにしたい。
「あのですね…僕はこの中で一番年下ですし、年上の三人にそんなに畏まられると、逆にやりづらくて。
もし良かったら僕のことは名前で呼び捨てにして、出来れば言葉遣いも普通にして欲しいんです」
「それは隊長相手に不敬になるので、俺達には難しいかもしれません。それに隊長が敬語を使うのに、我々だけ態度を崩せと言われましても…」
ダンクの言葉に他の二人も頷く。
「うーん、僕の場合は周りが大人ばかりだったのと、孤児なので基本的には誰に対しても、こういう口調になってしまうんですけど…。
あ!じゃあ隊長命令ってことで、気安く接してくださいというのはダメですかね?」
「命令なら仕方がないですが、それで本当に良いんですか?」
「はい。それに今回僕が騎士や治癒術士の訓練に参加しているのも、実は年の近い人たちと仲良くなりたいって思ったからなので、その方が嬉しいです」
僕がそう答えると、どういうわけかラティナがパァァッと表情を明るくして、ダンクやオリヴィエの肩をバシバシ叩き始めた。
「ほ、ほら、やっぱり私の言った通りじゃない!ジグ君はきっと良い人だし、別に貴族や王族でもないって!」
「たしかにそうだけど私たちの知る情報は少なすぎたし、普通に考えたら騎士のラジク様やアルテミア様はもちろん、治癒術士長のレストミリア様にまで教えを受けるほどの人が、ただの孤児なわけがないって思うでしょう?」
「そうだぞラティナ。普通に接してもし不敬罪になってみろ、俺達の首なんてすぐに飛ぶんだから、慎重になるのは当たり前だ」
「で、でもお姉さんみたいなアマリアさんも、普通の子だし身分の高い人の隠し子でもないと言ってたじゃない」
「あ、あの、話がよく見えないんですけど…?」
テンションの上がったラティナを、ダンクとオリヴィエが宥めながら話していたが、僕はとうとう我慢できずに話に割って入ることにした。
事情を聞くと、どうやら僕は一部の人たちから、貴族や王族の隠し子なのではないかと思われていたらしい。
モルド神父はもちろん、ラジクやレストミリアに加えて、護聖八騎のアルテミアにまで訓練を受けているのが、彼らの疑いを深める原因になっていたそうだ。
特に魔力量は貴族や王族などの地位の高い人間になればなるほど、幼い頃からたくさん持っている傾向にあるらしく、各地の戦闘に参加していたことや、モルド神父という国内でも屈指の実力者が守り、更に最近では四人がかりで指導していたこと、それに僕の魔力量を考えると、何かしらの理由で孤児院に預けられた、高貴な身分のお子様という答えになるらしい。
モルド神父が過保護に守っていたのはアマリアなんだけどなぁ…。
すみません。前世でも今世でも僕は、しがない平民でございます…。
親がどういった人かはよく知らないけれど、転生して初めて意識を持って、教会の前に捨てられた時に見たその姿は凄くボロボロの格好で、とてもじゃないけど良い身分には見えなかったよ。
本人たちは僕に謝りながら置いていったから、そこまで冷血な人たちではないとは思うけど、子供を養えない程度には苦労していたはずだ。
魔力量だって苦労に苦労を重ねて、死ぬような思いをして鍛えた結果なんだからね。逆にそんな身分で楽に手に入るなら僕だって楽だったけど、現実はそうじゃない。
神父や師匠の無茶振りに頑張って応えたり、たまに自分から危険に首を突っ込んで獲得したものなのだ。
ということで、僕は皆が思うような存在ではありまっせん!
転生について話すわけにはいかないので、その辺は上手くぼかしながらこれまでの経緯を説明すると、どうやら三人は納得してくれたようだ。
「ということですので気にせず普通に接して、出来たら仲良くしてやってください」
「わかった。ジグ、改めて宜しくな」
「わ、私も仲良くなりたかったので、その、よろしくね…ジグ君」
「事情はわかったわ。でもやっぱり、隊長としての立場の時と普段との使い分けは大事よ。それに自分より上の実力者には敬意を払うべきだわ」
「ありがとうございます。立場に関しては師匠…いえラジク様も使い分けているので理解できます。
なので戦闘中に隊長として指示を出す時以外は、普通にお願いします。
それに実力とか言われても、僕だって一人で身に付けたものじゃないので、それで偉そうにするのも何か違うと思いますし」
「そう…わかったわ。じゃあジグ、改めて宜しく」
「はい、よろしくお願いします!」
お互いの考えや知っていること、そして自分たちの希望を話したことで誤解は解け、僕たちはようやく小隊としてスタート出来た気がする。
その後はすぐに交代の時間になったので、僕たちは他の小隊と入れ替わって本隊に戻ると、ちょうどアマリアのいる隊も戻ってきていた。
「もう!だから無茶しないでくださいって言ったのに!」
「はぁ…はぁ…。ア、アマリアさんの言う通りだ。ゲオリグは気をつけた方が良い…」
「あの、アマリアちゃん、そんなに手荒くしたら…」
「ぎゃあっ!痛いではないか!?もっと優しくしてくれっ」
「ゲオリグ様だけが怪我をしているわけではないのです!フレデリカさんの魔力も尽きている今、次はラントラさんの治療も控えているんですから、これくらい我慢してくださいっ!」
あちらは修羅場だ。アマリアがお怒りなので僕は近付かないようにしようと思ったが、その瞬間にバッチリ目が合ったせいでアマリアに捕まり、結局はオリヴィエを巻き込んで、アマリアの仲間の治療を手伝うことになった。
ゲオリグはアマリアが治療を終えると、魔力切れの影響なのかすぐに眠ったが、アマリアと仲の良い治癒術士のフレデリカや、騎士見習いのラントラとも少し話をして仲良くなれたので、結果オーライだ。
ゲオリグも隊長として仲間を守るために無茶をしたらしく、厳しい態度で接していたアマリアではあったが、事情を聞けば悪い人ではないらしい。
自分のところもそうだが、アマリアの所も仲間に恵まれたようなので、僕は少し安心した。
そうして各小隊が戦闘を終えて戻ると、アルテミアの指示のもと再び街道に沿って僕たちは、目的の山の麓に広がる比較的大きな森を目指した。
途中でグレートホーンがトライホーンの群れを率いて襲ってきたが、これには退屈していたラジクとアルテミアが張り切って迎撃に出ると、矢の雨を降らしてトライホーンを殲滅し、グレートホーンを一刀両断に斬り伏せ、見習いたちを大いに驚かせた。
群れを倒したのがその日の野営地に近かったこともあり、皆で肉を運んで夜の食材にした。
焼き肉パーティー会場となった野営地では、まだ初日という事もあって皆元気に食事を楽しんでいたが、腹が膨れると戦闘の疲れが出たのか、早めに眠る人が多かった。
僕は大した働きもしていないので、ちびちびと肉を食べながら焚き火を眺めて過ごした。
六人で各地を回った前回の旅も楽しかったけど、たくさんの人とこうして過ごすのも悪くないと思った。
小隊としての初戦闘は、見事な指示と連携のお陰で無事に終わりましたし、仲間の誤解もとけて今回の訓練が楽しくなってきたジグです。
アマリアのところも苦戦はしたようですが、レストミリアの指導をしっかりと身に付けていたため、大事には至らなかったようです。
ちなみにゲオリグについてですが、自分に自信のある憎めないお馬鹿キャラ的なイメージで書いてますが、上手く伝わってるでしょうか…。
大人たちは割と退屈な思いをしていますが、道中が無事な証なので、ここは我慢してもらうしかありません。今回のグレートホーンは完全にガス抜き要員でした(笑)




