旅の始まり15
帰ると街は大混乱していた
この街の目前まで黒い魔物の大群と、あのおぞましすぎる化け物が迫っていた
私とアルタイルはすぐに街を守るために外に繰り出した
そこで私が見てしまったのは、私の可愛い子供達がボロボロになりながらも魔物たちと戦っている様子だった
レナは下半身の大半を失って倒れ、アイは蜘蛛の手足を一部失い、エヴァは地に倒れ頭部から血を流し、セラルタは魔力のほとんどを使い果たしたのか消えかかっている
すぐに私は四人に結界を張ると目の前にいたあの化け物どもを消滅の力で吹き飛ばした
幸い化け物は以前戦った化け物ほどの力しか持っておらず、倒しきれたわ
黒い魔物の相手はひとまずアルタイルに任せて私は子供達の治療に専念する
「遅くなってごめんね。今治療する…。四人供、よく頑張ったわ」
「お、おねえ、ちゃん、魔物が」
「大丈夫、アルタイルが戦ってくれているわ。ほんとに、ほんとによく頑張ってくれた」
私は治療をしながらも一人一人を抱きしめていく
「あれ、こんな事態なら、お父様とお母様が出張るはずなのに、なんでいないの?」
「二人は、魔王都に…。あちらも襲われているみたいで」
「魔王都も!?」
「先にあちらが襲われたみたいですよ。ワタシたちはここで待ってるよう言われたのですが、ここにも魔物の大群が現れたので、なんとかワタシたちで防いでました」
さすがにセラルタは回復が早く、私の魔力を分けてあげるとすぐに起きあがっていた
「お姉さん、ワタシはすぐにでも戦いに戻ります」
「だめよ! まだあなたは完全に回復しきってないじゃない!」
「それでも行きます。ワタシは精霊、自然を守る者、そしてここにはワタシが守るべき場所があります」
「ま、待ちなさっ」
セラルタは結界から出るとアルタイルに並んで戦い始めた
まだ体も本調子じゃないのに、セラルタの戦いぶりはすごかった
体の歯車が高速で回転し始めたかと思うと、手足から銃火器やミサイルのようなものが飛び出して辺り一面に撃ち込んだ
「これがワタシの奥の手です!」
ものすごい数の魔物がその攻撃で倒されたみたい
アルタイルに向かっていく魔物の数も明らかに減っていた
「ふ、う、もう動け、ません」
プシューと体から蒸気を拭き上げてセラルタは倒れたので、私は慌てて彼女を掴んで結界に放り込んだ
そしてすぐに子供達の回復を再開する
「ふ、ひぃ、これを使うと、魔力に関係なく、しばらく動けなくなるので、うう、申し訳ないですが、リタイアです」
「大丈夫よセラルタ。あなたのおかげでアルタイルも戦いやすくなったわ」
「フシュウー、それならよかったです」
蒸気がシューシューと吹きあがってるけどもう大丈夫そう
それよりも問題なのはレナの方ね
四人の中で一番ダメージを受けてる
セラルタの話だと一番固い甲殻を持っているから他の三人に及ぶ被害をすべて受けてたみたい
頑張ったのね…
私は苦しむレナの頭を撫でる
少しずつだけど下半身は再生していってる
もう少し駆け付けるのが遅かったらと思うとゾッとするわ
「これで最後だ!」
アルタイルの声が聞こえたので顔をあげると、魔物の最後の一匹を円の力で倒したところだった
「アルタイル、大丈夫?」
「ん? ああ、少し腕に傷を負ったけど僕は大丈夫」
アルタイルの左手には切り裂かれたような傷痕ができていて、そこから血が垂れている
「診せて」
「大丈夫だよこれくらい、かすり傷だから」
「いいから診せて!」
「あ、うん」
アルタイルの傷は結構深くて、骨が見えている
私はレナの治療を左手で行ないつつ右手でアルタイルの手を治療した
「アスティラの回復魔法は凄いね。欠損まで治してしまうんだから」
「ほらもう大丈夫よアルタイル。少し周りの警戒をお願いね」
「うん」
しばらく治療し続けてレナの呼吸も落ち着いてきた
もう少しで彼女の下半身も再生し終わる
エヴァとアイの方を見るとレナを心配そうに見つめていた
「大丈夫よ二人とも、それより痛いところはない?」
「お姉ちゃん、私達はもう大丈夫」
「私、も、もう痛く、ない」
痛くないと言ったエヴァの方を見ると、彼女の体のとある変化に気づいた
「エヴァ、その手」
「え、え!?」
エヴァの両腕の爪が鋭く伸びている
しかもその爪は金属のような質感で堅そう
「な、なに、これ」
「大丈夫?!」
「何ともない、けど、これって」
エヴァの体に何が起こったのか分からない
この子はゴブリン族の新種、色々と分からないことも多い
とりあえずこの騒動が落ち着いたら魔王様に相談してみましょう
無事レナも回復したけど、目が覚めないので家のベッドで寝かせておいた
あとの三人にはギルドへの報告のため一緒に来てもらう
ギルドの冒険者もどうやら魔王都に出払ってたみたいで、この街は手薄になっていたのね
そこを狙われた
この子たちがいなかったら街の大きな被害が出てたかもと思うと、私は恐ろしくなった




