旅の始まり5
彼は最初の柔らかな印象と違って驚くほどおしゃべりが好きな人だった
何せ道中止まらないんだもの
ずーーーーっと話してる
よく話題が尽きないものだと思ったよ
レッピィと合わせたらそれこそ一週間はしゃべり続けるんじゃないかな
まぁ色々と有益な情報も聞けたわ
まずこの依頼についてなんだけど、依頼人の名前は明かされてないみたい
通常の依頼であれば依頼主の名前なんかが開示されてる場合が多いんだけど、こういった名前を隠しての依頼は裏があることが多いらしいわ
まぁギルドが身元を確認しているはずだから変な依頼ではないらしいけど
ダスティンさんは以前もこういった名無しの依頼をいくつか受けたそうなんだけど、総じて面倒ごとが多かったって言ってる
てことはこの依頼もその面倒な依頼なのかしら
「まあそう気負う必要はないと思うけどね。Eランクの依頼なわけだし。報酬はいいから受けてる人も多いだろうけど、僕が見たところCランク以上は僕を含めて三人くらいしかいないみたいだし。君たちも見たかな? 昨日の定食屋で奥の席に座ってた眼帯の女性、名前をクナ・ハートレッドって言うんだけどね、Cランクの実力者でもうじきBランクに昇格するみたいだ。彼女はソロでの活動を主としているよ。それから僕らより先に町を出たコンスタ・オルフェノウスという男、彼は普段は他に二人の男女と組んで三人組でやってるんだけど、今回は一人だけだったな」
まくし立てるような怒涛の弾丸トークだけど、なぜだか聞き取りやすい
それに情報も色々と教えてくれるから聞いていて飽きない
アルタイルも熱心に聞いてるし
そんなこんなで祠まではすぐに到着
でね、もうすでに何人かここを訪れたみたい
そこで私達は依頼書の再確認をした
猫森の祠周辺で新種と見られる魔物が度々目撃されるようになったため、その魔物の調査をする
その魔物は人を襲ってはいないが、もし危険を感じるようなら可能なら討伐、討伐できそうにないならギルドへ報告する
報告だけでもかなりの報酬をもらえるみたいだけど、討伐、もしくは生け捕りでさらに追加報酬が出るみたいだ
ダスティンさんが言うにはこういった依頼は研究者が出していることが多いらしい
魔物の研究は危険がつきものなので、自分では捕まえられない魔物を依頼して捕まえてもらったりだとかね
とりあえず私達は祠周辺の地面を調べてみた
人の足跡の他に狼魔物の足跡やゴブリンのものと思われる足跡がある
そっか、ダスティンさんが早朝に行った方がいいと言ったのはここが踏み荒らされるのを回避するためだったのね
件の魔物の姿はゴブリンで、髪が銀色の不思議なゴブリンだったらしい
体色は通常種と同じ緑色だけど、顔は人間の少女と変わらない可愛らしい顔をしていたんだとか
何それ気になる
是非とも見てみたいけど、ゴブリンってもっとこう恐ろしい顔をしていたはず
それが可愛らしい人間の少女の顔?
見間違いって可能性もあるだろうけど、人間に緑色の体表をしている者はいないし、もちろん魔族にもいない
周辺を探索しているとアルタイルが何かを見つけて来た
「これは、小さな靴?」
「子供用のくつだね。でもここを見てくれ。明らかに手作りなんだよこれ。周辺の村の子供のものかもしれないけど、ここまでは最短の村でも十キロも離れてるからなぁ」
「確かに、この大きさから察するに五歳くらいかな? そんな小さな子がこんなところまで歩いて来るとは考えにくいね。目撃されたゴブリンも人間でいう五歳くらいの見た目だって書いてあるし、この靴はほぼそのゴブリンのもので間違いないと思うよ」
ダスティンさんもそう言っていることだし、この辺りにいる可能性はかなり高まった
少し奥を探そうと三人で歩き出したらその方向からいきなり火の手が上がった
その火は魔力を感じて、誰かの放った魔法って言うのが分かる
急いでその現場に走ると、小さな女の子が怯え、その子を取り囲むように冒険者らしき男たちが取り囲んでいるのが見えた
「よし追い詰めたぞ! 一斉に攻撃しろ!」
一人は剣を構えて少女に振り下ろし、もう一人が魔法の詠唱をしている
私は思わずその子の周囲に結界を張ってこれを防いでしまった
だって、あの子あんなに怯えているんだもの
「何しやがる! 魔物を守るなんてどういう了見だ!」
「お、落ち着いてください。この子は特に何かしたわけではないんですよ? ただ目撃されただけ、危険性の確認はしたのですか?」
「お、お前、いや、あなたは…。いえ、見つけてすぐ攻撃を仕掛けました」
「みて下さい、こんなに怯えて…。まずは話してみましょう。ね?」
「しかしアスティラ様」
どうやらこの人たちは私がベルドモント公爵家の者だってわかったみたいだけど、私に権力を笠に着る趣味はない
とりあえず冒険者たちをなだめて泣きながらおびえるゴブリンの女の子に話しかけてみた
「大丈夫?」
「う、うくっ、ふえぇええん」
その子は私に抱き着くと大泣きし始めた
可哀そうに、よっぽど怖かったのね
魔力から察するに確かにこの子はゴブリンなのは間違いない
でも他のゴブリンの違って邪悪さが欠片もない不思議な子だった
ひとまず冒険者たちに自分たちの報酬を渡すということで話をつけてこの子は私が連れて帰ることにしたわ
懐いてくれたのか、素直に抱っこされてくれた




