勇者16
ウェイドーナとコープラストの試合
そして次のウェイドーナとベイクルンバルの試合
これはどちらもすぐに終わってしまった
前のインセントとの試合でアニが腕を骨折し、出場できなくなってしまったからだ
あっけない幕引きにウェイドーナの四人は悔しそうだ
こちらとしてもこの結果は非常に残念で、またいつか試合をしようってことになったらしい
変わってこれが最後の戦いとなる
コープラストとベイクルンバルの戦い
お互いにインセントの騎士たちにも引けを取らない実力派ぞろいで、今年はインセント一強とはいかなかった
まずはリゲル君とプラムちゃんの戦い
プラムちゃんはずれた眼鏡を直しながら馬を位置につける
リゲル君は笑顔でプラムちゃんを見ていた
「君のような可憐な子があんなに激しい戦いを見せるなんて思いもよらなかったよ」
「私の家は酪農家で、馬も飼ってるんです。練習に余念はありませんでした」
「そっか、お互いいい勝負をしよう」
「はい」
開始のラッパが鳴ると同時に二人は馬を走らせた
勝負は静かに、そして一瞬でつく
なんとプラムちゃんの鋭い突きがうまくリゲル君のバランスを崩し、落馬させたんだ
「はぁ、まさかこんなにあっさり負けるなんてね。プラムちゃんだったかな? どうかな、今度一緒にお茶でも」
「あの、私、恋人がいますので」
「あらら、そっか残念」
突然のナンパ…
そういうとこが無ければすごいんだけどなぁ彼は
あ、プラムちゃんの恋人のガルダ君が怒ってる
アハハ、アスティラに抑えられて引っ込んで行ってるよ
次はプラムちゃんとハダル君の試合
これまでリゲル君が一人で頑張って来た、というよりリゲル君が強すぎたため出てこれなかったけど、実力や如何に、ってところだね
ハダル君が持つ武器はこん棒で、単純な武器だけど彼はそれを使いこなす
「リゲルは君みたいなおとなしい子がタイプでね。多分油断したんだろうけど、僕はそうはいかないよ。手は抜かない」
「ええ、私も全力で行きます!」
二人が位置について試合開始
リゲル君の時と同じように二人は同時に馬を走らせた
棍棒を大きく振ってプラムちゃんに打ち付ける
彼女はそれをうまくいなして突きを繰り出した
その突きは空を切る。ハダル君が上体をそらして避けたんだ
そのまま体を起こすと上から強力な振り下ろし
プラムちゃんは武器でそれを受けたけど、武器が砕けて鎧兜の頭頂部にこん棒が当たり、彼女は失神してしまった
「ご、ごめんよ!」
ハダル君が慌てて馬から降りて彼女の介抱を始めた
どうやら怪我はないみたいで、軽い脳震盪による失神だったらしい
ハダル君は技術というより力任せっぽいんだけど、速さもあるから防ぎにくい
そして次に出てきたのはマスカー
彼はゆっくりと一礼して位置につく
「早々に勝負を決めさせてもらおう」
「そんな簡単に負けてあげるわけにはいかないな」
マスカーはキリッとした顔でハダル君を睨みつける
騎士としての風格か、彼から闘気のようなものが見える気がする
二人の試合が始まり、お互いに激しい打ち合いが始まった
マスカーの力はハダル君にも引けを取らず、激しく木が打ち合わされる音が会場いっぱいに響き渡る
そして、唐突に決着はついた
マスカーが剣でこん棒を弾き飛ばし、ハダル君は負けを認めた
「いやぁ、この僕が力で押されるなんてね」
「貴殿はもう少し技を磨くといい。大振りで力任せな攻撃だけではこの先通用しない」
「ああ、ありがとう、肝に銘じておくよ」
二人は握手を交わして歓声が上がった
次はシリウスか、僕は彼とはあまり話したことがないからどういう人物なのか知らないけど、かなり無口なんだよね
シリウスが位置につく
「なるほど、セイントナイトか」
「・・・」
セイントナイト? 確か神に仕える騎士だけど、魔族はなれなかったはず
「僕は、エルフ族と魔族のハーフだ」
「ふむ、それなら合点がいく」
驚いた。エルフと魔族のハーフなんて今まで見たことない
いや、見てたんだけど気づかなかった
あとで聞いた話なんだけど、彼の母親はエルフで、人族に掴まって奴隷にされそうになっていた母親を彼の父親が助け出したことで母親が一目ぼれし、大恋愛の末に夫婦になったらしい
お互いに魔力が高いため、彼自身も魔力はかなり高いんだけど、魔法はあまり得意じゃないみたいだ
魔力が高すぎて操作が難しいらしい
彼、アスティラに指導してもらえば魔導士として化けそうな気がする
そして二人の試合が始まった
この試合は長期戦となって、お互い体力のギリギリまでせめぎ合っていた
最後にマスカーがシリウスの剣をからめとり決着
「ありがとう、いい試合だったよ」
「うむ、こちらとしても勉強になる試合だった」
またお互いに健闘をたたえ合う
見ているこっちもすっきりとした試合だったよ
さて、こっちは後がない
最後のカノープスちゃんが出てきた
彼女は清楚な姫騎士って感じかな
純白の鎧に銀色の縦ロールな髪型
優雅に剣を構える姿は、その剣が木剣ではなくいつも持ってる白銀の剣なら素晴らしく様になっていたと思う
「お互い、全力を尽くしましょう」
「ああ、よろしく頼む」
もう体力が回復したのか、マスカーは息も整って位置につく
試合が始まるとマスカーは一気に間合いを詰めた
そんな彼の攻撃を華麗に可憐に躱し、剣で逸らしながらマスカーの隙をついて攻撃していく
実力は拮抗、若干カノープスちゃんが押しているけど、マスカーはあえて打たせている感じがする
段々とカノープスちゃんの息が上がってきて、とうとう剣を弾かれて取り落としてしまった
「ま、参りました」
「貴殿はもう少し体力をつけるといい。技術は今まで戦った中で群を抜いていた」
「ええ、あなたも」
あれ? なんだかいい雰囲気
お互い後で会う約束までしてる
まぁ結果負けたけど、いいものを見れたよ




