第9話 スキル派生
〜36日目〜
「見えたぞ」
昨日の昼から夜通し歩いてようやく鳥人の村に辿り着いた。
ここに来た理由は一つ。
ワニ退治だ。
白虎を連れ去った鳥人たちは「返してほしければ鳥人の村の脅威を取り除け」と伝言を残していた。
メンバーはワニが苦手とする炎魔法の使い手の皐月、道案内役としてヘルガーさん、その護衛で如月の計4名。
睦月と弥生には獣人たちを守ってもらうことにした。特にラミーは心身ともにダウンしている。早く白虎を取り戻さないと!
「ねえパパ」
「なんだい如月」
「囲まれてるよ」
え!?
辺りを見回すがわからない。
如月の勘違いならいいけど本当なら ⋯⋯
「皐月、いつでも魔法を使えるように準備。如月はヘルガーさんから離れるな」
「あい、パパ!」
「はーい、パパ」
姉弟の返事を聞いてから3人より前に出る。
親は子供を守るものですから。
ガササ。
草が動いた。
ガサガサガサ。
あっちでも。
ガササササ。
こっちもか。
「パパ!」
「来るよ!」
草むらから飛び出してきたのは小ワニ。
「魔法『炎』」
俺に噛みつこうとしていたワニが皐月の魔法で燃えた。
「サンキュー!」
「パパ、よそ見しちゃダメ!」
今度は如月に助けられた。
蹴りを入れた子ワニが飛んでいく。
子供に守られるパパ。
情けない。
俺も負けてられない!
えいやー!
情けない掛け声とともに右拳を放ってみた。
当たった! と思った瞬間、子ワニが破裂した。
「うげげ!」
右手や顔にワニの中身や血がべっちょりとつく。
気持ち悪い ⋯⋯ 。
「本気でやっちゃ、めっ!!」
「パパは手加減しないと服が汚れちゃうよー!」
子供たちに怒られた。
す、すみません。
なにぶんろくに戦ったことがないので。
今度は軽〜く蹴りを。
当たる→破裂→ズボンにべっちゃり。
なんでだー!
これ以上力抜けないぞ!
「もう! パパはヘルガーおじいちゃんを守ってて。あたしと皐月でやるから!」
「守ってなちゃい!」
お願いします。
シュンとうなだれながらヘルガーさんの横に行くと、
「隼人様や如月様は別格としても、まさか生まれてわずかの皐月様までこんなに強くなってるとは思いませんでしたよ」
「大げさな。獣のワニぐらいならいつも狩ってるだろ」
「なにを言ってるんですか? これみんな下級ですけどモンスターですよ。オリーブダイルです」
「は?」
オリーブ=薄緑色だっけ?
普通のワニと区別つかねーよ!
「なんか見分けるコツとかあるわけ?」
「え、なにとですか?」
「いやだから獣とモンスターの見分け方?」
「見ればわかるじゃないですか」
わからないから言ってるのに!
これって獣人特有の能力?
「パパ!」
急に呼ばれた。
「あそこに青くて大きいのがいる!」
どれどれ。ってどこだ?
「あそこですよ! あれがブルーダイルです」
ヘルガーさんに指差して教えてもらった方向に、人間を丸呑みしてしまえるほど巨大なワニがいた。
ブルーダイルと目が合う。
恐ろしい顔してるなこいつ。
あ、目線外された。
なんでお前が怯えてるんだ?
逆だろ普通!!
「ゴォォォォォ!」
びっくりした。
急に鳴くなよ!
ブルーダイルの不気味な鳴き声が響くと子ワニたちが一斉に退き始めた。
「逃げりゅ!」
「追いかけるパパ?」
「やめておいたほうがいいです」
止めたのはヘルガーさん。
「あちらには確か鳥人たちの水浴び場があったはずです。今はきっと巣になってるかと。私たちを誘い出したいのでしょうね」
それは危険だ。
陸の上では圧勝でも、水の中に引き摺り込まれればオリーブダイルにも負けるかもしれない。
ここはヘルガーさんが言う通り待機だ。
ただ巣だけは確認しておきたいな。
「皐月、俺を ⋯⋯ あれが一番高そうだな。あの木の上まで連れていってくれ。如月はヘルガーさんの護衛だ」
「あい!」
「うん!」
皐月に抱っこされて木のてっぺんに移動する。思ってた以上に木は高く、おかげで鳥人の水浴び場の全貌を見ることができた。
「でかいな」
琵琶湖ほどのスケールはないがかなりの大きさだ。
そこにブルーダイルを筆頭にワニたちが潜っていくのが見えた。
「うーん、もっと小さい湖だったら皐月の炎魔法で煮えたぎらすっていう作戦もあったんだけどな」
「ぼく、できりゅ! やりゅ?」
「あれぐらいの火力では無理だよ。せめて」
頭の中に火山の噴火を思い浮かべたとき、
『スキルが派生しました』
「へ?」
こんなときになにが派生したんた? とステータス画面を開こうとしたら、皐月が呪文を口にして詠唱し始めていた。
ステータス画面を見ながら聞き取れない発音を繰り返す愛息子。
口足らずなところがかわいい。
そして──
「完ちぇい! 魔法『業火炎焔』」
そう口にした途端、前方にあった湖が爆発。
違う!
底からマグマが噴き上がったんだ。
「 ⋯⋯ 」
呆然。
あ、ブルーダイルが巻き込まれて燃え尽きた。他の子ワニたちもマグマに巻き込まれ溶けていく。マグマを逃れた子ワニもいたが、あとから流れ出た溶岩流に呑み込まれていった。
こうしてブルーダイルという脅威は湖ともどもさっさと消え去った。
ちなみに派生スキルは。
子は親の背中を見て育つ。
『親の背中を見ている間、スキルを好きなだけ進化させることができる』
またチート能力増えた!!!
〜湖の上空〜
「なんだ今の爆発は!」
「俺たちの湖が消し飛んだぞ!」
「ど、どうしよう。あんな常識外れの規格外の赤ちゃん攫っちゃったんだけど」
「死んだな俺たち」
「とりあえず全力で謝りましょう!」
〜漆の国〜
「今の魔力は ⋯⋯ 業火炎焔だわ」
「そんなはずはないよ! 箱庭ではすでに失われた魔法だよ」
「あたしみたいな転移者なら可能よ」
「マニエル、なんで笑ってるの?」
「だって面白そうな相手って戦の女神が用意した勇者だけだと思ってたもの。どの女神が連れてきたかは知らないけど、前菜を用意してくれるとは粋な計らいだわ」
「行くの?」
「ええ、行きましょう。前菜を食べて、そのままメインもいただきましょうか」
〜37日目〜
「すみませんでした!」
『すみませんでした!!!』
ボクスを筆頭に鳥人総勢85名が俺に向かって土下座している。
白虎を誘拐したことに対する謝罪ならわかるけど、それにしては全員異様に怯えてないか?
あ、白虎は無事にラミーの元に戻ってきている。今は美味しそうにお乳を飲んでいた。
「なあ」
俺が声をかけるとビク! とする鳥人集団。幼い子たちなんか泣き出したりおしっこ漏らしたりしていた。
「なんで泣く?」
「すすすすみません! すぐに泣き止ますので命だけはお助けください!」
「なにそれ」
どういうこと?
ヘルガーさんに目で訴えると、わからないんですか? とばかりに驚かれた。
わからん。
首を横に振ると、やれやれといった感じで俺の側まで来て、
「昨日なにをしたのかお忘れですか?」
「なにってブルーダイルを倒しただけだろ」
「あとは湖消滅にその周辺を人が住めない死の土地に変えてしまいましたよね?」
「あー、あれね」
魔法『業火炎焔』によって生み出されたマグマはいまだに燻っていて、所々溶岩が流れたままになっている。
「地形を変えてしまうほどの魔法の使い手を怖がらない者はいませんよ。それも息子を誘拐して怒りを買っているんですから、いつ消されるかと震えるのも納得です。鳥人たちは今さらながらブルーダイルより怖い存在を敵に回したと気付いたんですよ」
「あれは俺じゃなくて皐月の魔法だぞ」
「余計に怖いです。あんな幼い子であの強さなら親になればどれほど強いんだって思われますよ」
「そういうもんか?」
「そういうものです。なんにせようまく捌いてください」
ちょ、丸投げですか!?
それ困る!
いいアイディアプリーズ!!
ヘルガーさんは少し考え、
「では、こういうのはどうでしょうか?」
ナイスな案が出た。
そのまま伝える。
一、これから先、豊月隼人本人ならびに家族に危害を加えないこと。
二、鳥人たちは虎種獣人の住処付近に引っ越し、俺の家を作る手伝いをすること。
三、毎日産みたて卵を10個用意すること。
この三か条を突きつけると鳥人たちは
「我々もここに住んでよろしいのですか! 寛大なご処置まことにありがとうございます。これから先鳥人族は豊月隼人様に絶対の服従を誓います」
『誓います!!』
わけのわからんことを言い出した。
いつ、いったい誰が、服従を誓えって言ったんだ?
もういいや。
白虎も無事だったし好きにしてくれ。
〜その晩のこと〜
俺の寝床にボクスが忍び込んで来た。
「私の全てを豊月様に捧げさせてください」
いやいやいやいや!
そんなこと望んでないから。
あ、どこ触ってんだ。
やめろこら。
え、下半身は正直ですよって。
いただきますって。
なにを食べる気だ?
わかってるけどわからなーい!
結論。
未亡人のテクはすごかった。
「待って、次で5回目ですよ! もう回復した? 早すぎです。ちょっと休憩をいれてください。あ、いれてってそれのことじゃな、あああん!」
子供が ⋯⋯
いや、卵が3つ生まれました。
戦闘シーン難しいです ⋯⋯
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