第65話 赤ん坊
更新遅くなってしまってすみません!
次話は今週中にあげますので、よろしくお願いします。
〜163日目〜
隼丸にはめられ、シャルルにはめた次の日。
睦月が産気づいたことを知らせるメッセージがやってきた。
『スキルを選択してください』
隣で眠るシャルルを起こさないように鬼力を選択。
早ければ今日にでも生まれるのだろう──6番目の子供「水無月」が。
そして、近いうちにこの子も ⋯⋯
シャルルの大きくなったお腹を見る。
『かっかかか。さすがは相棒。百発百中だな!』
黙れ!
よくも俺を騙してくれたな。
『そんなに怒るなよ相棒。約束通りシャルルには媚薬を使わせてないだろうが。それに相棒も気持ちよさそうだったし、役得役得』
⋯⋯ どういうことだか説明はしてくれるんだろうな?
『詳しくは赤ん坊が生まれてからだ。俺様も本当なのか信じられない部分があるからな。ただし、全ては相棒のためなんだ。それだけは信じてくれ』
真剣な声色が響く。
隼丸と出会って数ヶ月。
なんだかんだ言っても、この下ネタ大魔王はいつも俺の味方でいてくれた。
俺が不利になるようなことはしないはずだ。
『信じてくれ、相棒』
⋯⋯ 騙すのはこれっきりにしてくれよ。
『もちろんだ!』
あとの問題はシャルルにどう弁明するかだな。
『その必要はいらねえぜ』
なんでだ?
『フロランティスもといアンティオキアが説明してる。相棒との行為が必要不可欠だったってことをな』
その言葉通り、シャルルは目を覚ましても俺を責めることはなかった。
ただ残念なことが1つ。
昨日のことを思い出し顔を真っ赤にしたシャルルがとても可愛かったのだが、すぐさま仮面をつけてしまった。
あの美しい顔立ちをまた見られるのはいつになることだろうか。
〜164日目〜
シャルルが妊娠したことをクレンに伝えると、滅茶苦茶驚かれた。
「それはもちろん合意の元だよな?」
「一応、そういうことになるかな」
催淫と媚薬を使いましたけどね。
「なら許す。あの男嫌いの妹をどうやって口説いたかは知らないが、これからは兄弟だな。お義兄さんって呼んでくれてもいいんだぜ!」
「遠慮しとく」
「照れなくてもいいのによ。んで、妹は?」
「出産に備えてベッドのある隠れ家に移ったよ。俺もこれから行くつもりだ」
「そうか。ならシャルルのことは隼人に任すよ。こっちのことは俺がなんとかする」
「あ、そのことでシャルルから伝言を預かってる──子供が生まれるまで誰も何も行動せずひっそりと身を潜めていてください。特に無鉄砲なお兄様は大人しくしていてくださいね、と」
「 ⋯⋯ ったく。あいつは俺のことをまったく信用してないんだな。わかったわかった。大人しくしときますよ。1週間ほどで生まれるんだろう?」
「遅くても10日以内にはな」
「了解。それまでは息を潜めて隠れてるさ」
〜165日目〜
シャルルが眠る部屋の窓から外を眺める。
いまだグレンズの兵たちが慌ただしく走り回っているものの、ここがバレた様子は感じられない。
もうしばらくは時間を稼げそうだ。
〜166日目〜
外が騒がしい。
昨日と同じく窓から外を眺めると、そこには兵士ではなく見るからに賊らしき男たちがいた。
「あれは ⋯⋯ 」
「見知った顔がいますね。ポポス叔父様の部下の方々ですよあれは」
ベッドから起きだしたシャルルが答えてくれた。
「グレンズお兄様は王城の民の信頼を損なえませんので無理はできませんが、賊に化けさせた叔父様の兵なら無茶がきくということですね」
確かに昨日までと違って一軒一軒しらみ潰しに探している。
中には金品を強奪したり、女性を連れていこうとする輩もいた。
驚きなのは、それをたまたま居合わせた風なグレンズの兵士たちが追い払う光景だ。
「ああいうのを追い払うことでグレンズお兄様の株はさらに上がります。全ては仕組まれたこと」
なんという茶番だ!
しかし、そのことを知らない民たちはみんなグレンズに感謝し、彼に次の王になってもらいたいと思うことだろう。
向こう陣営は着々と足元を固めているのに対し、こちらは──
「ここに来られるのも時間の問題ですね。場所を移しますよ、ハヤ」
逃げ隠れることしかできなかった。
〜167日目〜
次の隠れ家はシャルル陣営の好意的な貴族の屋敷だった。
「シャルル様!」
当主がシャルルの前で敬服する。
「よくぞ我が家を訪れてくれました。私の目が黒いうちはグレンズなどにあなたを引き渡したりはしませんのでご安心ください」
「頼りにしてますよ」
「ありがたきお言葉。誰か! シャルル様を部屋まで」
当主の声に数人のメイドが反応。
彼女たちに連れられて豪華な部屋へと案内された。
「ご用がありましたらお呼びください」
メイドはそう言って出ていく。
2人っきりになるとシャルルが急にもたれかかってきた。
男嫌いからツンデレに変わったのだろうか?
「なにかくだらないことを考えている顔ですけど違いますからね」
否定を入れてから、
「今夜、ここを抜け出します。あの方はとても信頼できるのですが、仕えている人たちまではわかりませんから」
〜168日目〜
逃亡は続く。
誰もが寝静まった頃合いを見計らって俺たちは屋敷を出た。
誰かが密告したかどうかはわからないが、不安があるなら安全を期するべきだ。
闇夜に紛れて移動していく。
辿り着いたのは町外れのもう使われていない廃屋同然の家畜小屋だった。
中に入ると糞尿の臭いが鼻をつき、土や埃が目をかすめる。
さすがにここはないだろう。
そう思った矢先、
「っ!」
臨月間近ほどの大きなお腹を押さえながらシャルルがうずくまった。
「お腹が痛いのか?」
「張りを感じただけです。少し休めば治ると思うのですが ⋯⋯ 」
仕方がない。
外から木々の枝などを集め、簡易のベッドを作り上げ、シャルルを寝かせた。
「申し訳ありません」
「気にしなくていいから。シャルルは元気な赤ちゃんを産むことだけを考えてくれたらいいよ」
「は、いっ!」
再びシャルルがお腹を押さえた。
「いた! っ、はぁ、はあ、はあ」
息が荒くなってきている。
まさか陣痛か?
生まれるのか?
スキル選択画面はまだ出てないぞ!?
「ハヤ。息が、しにくいので、仮面を」
「わかった!」
仮面を外すと白く美しい顔立ちが痛みで歪んでいた。額には脂汗が見えた。
「ありがくぅ!」
どうすればいい?
どうすればいい!
どうすればいいんだ!?
右往左往する俺を尻目にかけるようにシャルルの出産が始まった。
〜169日目〜
陣痛らしきもの ⋯⋯ いや、もう認めよう。
スキル選択画面が出ていなくても、この症状は陣痛だ。
子供が生まれようとして29時間。
俺とシャルルの子が産声を上げた。
元気な男の子だった。
しかしまあ家畜小屋で生まれるだなんて、
この子は──
「イエス・キリストの生まれ変わりかよ、はっははは!」
生まれたばかりの赤ん坊が喋り大笑いしたのであった。




