第31話 カブリラ
〜117日目〜
馬車を借りて魚人族の集落に到着。
馬車の音を聞きつけて魚人たちが集まってくる。
ナマズ?
女性は類に漏れず人間の顔や体型に近いんだけど、男性はどこからどう見ても長いヒゲが特徴のナマズにしか見えなかった。
「何をしにきた竜人?」
長っぽい人が出てきた。
事情を話す。
無視された。
代わりにカブリラが訊ねると、
「無理だ。ここは見てのとおり20人にも満たない本当に小さな集落だ。男手も少ないので力は貸せん」
素直に教えてくれた。
人間嫌いか!?
「ですけど、あなたたちも海の主には困らされているのでは?」
カブリラの質問に、
「困っている」
「だったら協力してくれても」
「それは無理だ。我々は人間とは極力関係を持ちたくない。もちろんこの先もずっとだ」
さっさと帰れと言ってるっぽい。
そう言えば海の主を怒らせた原因ってなんなんだろうか。
この人たちは知ってるのかな?
訊ねてみるが、無視。
カブリラ、バトンタッチ。
「知ってますか?」
「 ⋯⋯ 自分で調べるといい」
カブリラでも無理か。
代弁してもらうためにカブリラに耳打ち。
「お話を聞いてくれてありがとうございました。最後にもう1つだけよろしいですか?」
「 ⋯⋯ なんだ?」
「この辺にあなたたち以外の魚人の集落ってあるんですか?」
「 ⋯⋯ 」
あからさまに顔色を変えてきた。
これは怒りか?
「それを聞いてどうする気だ?」
「ここが無理なら他の魚人さんに助力を求めようかと思いまして」
「 ⋯⋯ もうおらんよ」
俺が睨まれる。
怖いな、このおっさん。
「わかりました。あたしたちはこのへんで帰ります」
きっちりとお礼を述べてからカブリラと一緒に馬車に乗った。
「どう思う?」
「極度の人間嫌い。それに度を越す怒りとわずかな恐れ。なにか昔、人間と因縁があったようですね」
「恐れ? そんなのあったか?」
「子供たちが大人の背中に隠れながら怯えていましたし、母親は子供たちを庇っていました」
あらやだ。
できる秘書っぽい。
こいつ、よく観察してるな。
「明日は街で再度聞き込みをしましょう」
「そうだな」
〜118日目〜
二手に分かれて聞き込み開始。
「海の主が怒ってる理由? 知らねえよ」
「うーん、昼寝を邪魔されたとか」
「魚を乱獲し過ぎたからと聞いたことがあるわ」
「ただたんに虫の居所が悪かったんじゃねえの」
誰も本当の原因を知らない。
有力な情報は得られなかった。
町長にも聞いてみるか。
場所を移動しようとしたとき、
「きゃ!」
短く小さな悲鳴が耳に飛び込んできた。
そっちに向かい、咄嗟に隠れる。
カブリラが複数の人間に取り囲まれていたからだ。
「お前のせいで俺の弟は死んだんだ」
「母さんもだ!」
「あたしは旦那を失った」
「お前のせいだ!」
「お前のせいだ!」
「お前のせいだ!」
魔龍に殺された身内の人たちか。
なるほど。
彼らにしてみればカブリラが唆さなければ家族は死ななかったと考えているんだな。
身勝手な話だ。
俺からしたら、唆したカブリラも悪いけど、それにのって子竜をさらったお前たちも同罪だよ。
子竜が生きていたからこそ許してやったけど、死んでいたらきっと ⋯⋯ よそう。
子供が死んだらなんてもしもの場合でも考えたくない。
とりあえず止めに入るか。
動こうとしたとき、詰め寄られていたカブリラが地面に膝をつき頭を深々と下げた。
「あたしの後先考えない軽率な行動で、みなさんに多大なるご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ありませんでした」
「謝ればいいって
「あたしが死んで、あなたたちのご家族が蘇るなら喜んで死にましょう!」
「だったら今すぐ死に
「でも死者は生き返りません! ならば、あたしは生きて罪を償います。あなたたちだけではなく、隼人さんにも竜人族のみんなにもいつか必ず! それまではこの身を粉にしてまで働きましょう。今はあなたたちがこの街に住めるよう尽力しています」
尽力してるのは俺もだけどな!
ま、本気で反省してることは認めてやろう。
「て、てめえ! 開き直りやがって!」
いかん。
男が蹴りをいれようとして──
「いってえ!」
言わんこっちゃない。
見た目女の子でも竜人だぞ。
兵士じゃなくても防御はくっそ高い。
それに全身の至るところに硬い鱗があるから、そこに当たるとめちゃ痛いし。
亀の甲羅を素手で殴ったり蹴ったりするようなもんだよ。
さて武器を持ってくる前に止めるか。
「お前たち、なにしてんだ?」
俺が姿を現した途端に散っていった。
「大丈夫か?」
手を貸し立ち上がらせる。
「見ていたんならもっと早く助けてくださいよ。意地の悪い人ですね」
「いま通りかかったところだよ」
「そういうことにしといてあげます」
隠れてたのバレてたかな?
「いつか、竜人族に戻れるといいな」
「え ⋯⋯ 」
カブリラはかすかに笑ってから、
「大きなお世話です」
あっかんべーをしてきた。
〜119日目〜
カブリラには朝一でもう一度魚人の集落に行ってもらった。
人間の俺がいなければなにか話してもらえるかもしれないという淡いを期待を抱いてる。
俺は俺でアポを取って昼間から町長と会えることになった。
聞きたいことは2つ。
「魚人の集落に行ってきたんですが、人間には協力できないと言われました。過去に何か揉め事でもあったんですか?」
「 ⋯⋯ 先代、先々代のときになにかあったかもしれませんが、私は存じ上げません」
本当かな?
ま、嘘だとしても聞き出す会話術もスキルもないから無理なんだけどね。
「じゃ、海の主が怒っている理由について知ってることを教えてください」
「漁船が出ると海が荒れるようになったのは半年ほど前から。その頃になにかあったのかと問われると ⋯⋯ 思い当たることがありません」
「では半年前のことをよく覚えてる人がいたら紹介してください」
「いいですけど、それが討伐となにか関係あるんですか? 私どもとすればさっさと退治してもらいたいんですけど」
「すみませんが大事なことなんです」
クズリという人を教えてもらった。
1番最初に海の主の被害にあった人らしい。
家に行ってみる。
「クズリさん、いらっしゃいますか?」
呼びかけるが返事はない。
留守かと思ったとき、
「誰だ?」
「豊月隼人と申します。半年前のことについて話が聞きたくて来ました」
「 ⋯⋯ 勝手に入ってこい。鍵はかけとらん」
「お邪魔します」
中に入るとすぐに凄まじい匂いに襲われた。
排泄物、生ゴミ、そこらへんのものが入り混じった臭い匂い。
「こっちだ」
臭い中、寝室に向かった。
ベッドには初老にさしかかろうか白髪の老人が座っていた。
その右足はふくらはぎの辺りからなくなっている。
「適当に座れ。それで半年前のなにが聞きたい?」
座れたって座れそうな場所がないし。
立ったまま会話を続けるか。
「あなたは海の主に襲われたと聞きました」
「ああ、右足を食われた」
「どういう風に襲われたんですか?」
「海中から上がってきて船ごと引っくり返された」
「なにか前兆とかはなかったんですか?」
「なにもな ⋯⋯ いや、不自然な渦ができていたな」
「渦?」
「あの日は風も穏やかで波も荒れていなかった。だから、おかしいと思っていたんだ」
海の主が上がってくるときには渦ができる。
本当ならいいことを聞いたかもしれない。
「あと海の主が怒っている理由は知りませんか?」
「 ⋯⋯ 町長はなにか言っておったか?」
「いいえ、なにも」
「だったら、わしも知らん」
クズリさんは布団を頭からかぶった。
なにか知ってるっぽいけど、話はもう終わりらしい。
お礼を述べてから家を出た。
宿屋に戻る途中でカブリラを発見。
「どうだった?」
彼女の表情が暗い。
「ここではなんですので宿屋に戻ってから」
部屋に入ってから話してもらった内容は驚愕のものだった。
「なんだって!」
「声が大きいです。静かにしてください」
「すまん。で、それは本当なのか? ここの住人が魚人を捕まえて売ってたって」
「ええ。ナマズ種魚人も子供を何人も釣(連)れていかれたらしいです。街近くの集落は全員捕らえられたとも聞きました。どうやら漁業というのは魚を捕ることではなく、魚人を捕ることを意味していたみたいですね」
人身売買。
だから人間を憎悪の目で見たり、怯えたりしていたのか。
「となると海の主が怒っている理由は捕まえた魚人を返せということか」
「いえ、それとこれとは話が別なようです。ナマズ種魚人たちも海の主には本当に困っているらしくて。ただ気になることを聞きました」
視線で続きを促すと、
「半年ほど前から魚人族の姫が姿を消したらしいです」
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