第26話 双子と ⋯⋯
1000アクセスありがとうございます!
〜98日目〜
竜人族に待望の男の子が生まれた。
そのニュースは一夜にして広まり、現在ミゾルトの家は子竜を一目見ようと村人たちがほぼ全員集まっていた。
赤ちゃんを目にするたびキャーキャーと黄色い声が飛び交う。
まるでアイドルのおっかけみたいだ。
まだ幼そうな子たちなんかは物怖じせずに子竜を抱っこさせて抱っこさせてとミゾルトにせがむ。
小さい子にお願いされることなんか今までなかったんだろう。
ミゾルトは嬉しいでも困ったという表情をしていた。
助け舟を入れるか。
「抱っこしてもいいけど順番にな。子竜が泣いたらおしまいだからな」
この提案は失敗だったかもしれない。
村人たちが途端にざわめき、我先にと駆け寄ってきた。
「静まらんか!」
ヴァサエアさんが一喝。
「みんな道を開けろ。まずはヴァサエア様からに決まっているだろう!」
イルが取り仕切り、ヴァサエアさんがミゾルトの前までやってくる。
「よく頑張ったな、ミゾルト。いろいろとあったが、本当にお前は偉い子だ」
頭を撫でられ涙ぐむミゾルト。
「ヴァサエア様。ぜひ抱いてください」
子竜を抱き渡す。
「おーおー。元気な男の子だ」
ヴァサエアさんは村人に振り返り、
「成人してない子たちは前においで」
数人出てくる。
「ほれ、抱っこしてみな。首の下に手を入れて、しっかり支えるんだぞ」
「うわうわわわ!」
「すっごーい!」
「いいないいな。あたしもあたしも!」
「みんな静かにな。赤ちゃんがびっくりするぞ」
はーい! と幼い女の子たちは素直に従い、順番に子竜を抱っこしていった。
一通り抱っこし終えると、女の子たちはヴァサエアさんじゃなくミゾルトに子竜を返しに行った。
『抱っこさせてくれてありがとう、お姉ちゃん!』
女の子たちにお礼を言われてはにかむミゾルト。
「さ、あとは順番に並びな」
アイドルの握手会か!
そうツッコミたくなるような行列ができる。
子竜は我慢強い子なのか誰に抱っこされても泣かなかった。
そうこうしているうちに見覚えのある少女が出てきた。
ミゾルトにいつも嫌がらせをしているグループの1人だ。
「 ⋯⋯ 私も、抱っこしていいかな?」
「あたしも!」
「私も ⋯⋯ いい?」
便乗して、さらに2人加わった。
なんとなくわかってるけど、どう答える?
ミゾルトはニコッと笑い、
「もちろんです」
「あ、ありがとう!」
いじめっ子は子竜を受け取ると、
「 ⋯⋯ 今までごめんね。村に男の子が生まれないのはミゾルトの呪いのせいだってみんな言ってて」
「これからは仲良くしてくれますか?」
「ミゾルトが許してくれるなら」
「また子竜を抱っこしにきてください」
いじめっ子3人組はごめんねありがとうを繰り返した。
誤解がとけてなによりだ。
あとは ⋯⋯
抱っこの順番待ちに頑なに加わろうとしない2人の少女。
1人は気弱そうな女の子で、行きたいけど隣の女の子が怖くて動けないといった感じでそわそわしている。
もう1人──初めて会ったときにミゾルトの杖を踏んづけていた少女は憤怒の形相でミゾルトを睨んでいた。
さりげなくイルに近づく。
「あそこの2人」
「カブリラとサーサか。他の奴らと一緒に謝ればいいものの」
「 ⋯⋯ さりげなく見張っていてくれないか? カブリラって子はなにかしでかしそうだ」
「わかった。部下に見張らせておく」
「お願いな。ところでイルはもう抱っこしたのか?」
イルは無言で首を横に振った。
「最初に抱くのは我が子と決めてある。私の子にもいい名前を頼むぞ」
〜99日目〜
子竜フィーバーは止まらない。
この日も朝から村人たちが集まってきていた。
今まで嫌がらせや無視をされてきたミゾルトにとっては嬉しい悲鳴だろうな。
「せめて一目見ようかと思ったけど今日は諦めるか」
踵を返そうとしたとき、昨日仲直りした3人組とサーサの顔を発見。
3人組に押されるようにミゾルトの前に出て子竜を抱かせてもらっていた。
サーサとも仲直りできたみたいでよかった。
問題はカブリラか。
俺も目を光らせておこう。
〜100日目〜
子竜が歩き出した。
おかげで連日の人だかりが止まらない。
きみたちいい加減にしませんか?
パパが全然交流できないんですけど。
やれやれだよ。
ミゾルト親子に近寄れないので今日はイル宅で過ごすことにした。
2つの卵はかなり大きくなってきている。
生まれてくるのも時間の問題だろう。
「隼人、ここに」
自分の膝を叩くイル。
膝枕をしてくれるのか。
甘えよう。
頭を乗せて寝かせてもらう。
「急にどうした?」
「ヴァサエア様がこうしてやれば喜ぶと言ったのでな。しかし、尻を触れと言った覚えはないんだが?」
「あはは、つい」
「つい、で今度は胸を揉むな。っておい! どこに顔を突っ込んで! 待て、脱がすな。子供の前だぞ。殻で見えないから大丈夫ってそんな問題じゃやー! ダメ! そこ弱いから。待っ、もう、本当にあああああああああああああ!」
卵が1個追加されました。
〜101日目〜
イルの部下たちからカブリラが怪しい動きをしていると伝えられた。
行ってみると、確かに怪しい動き?
踊ってる?
「あれはなにをしてるんだ?」
「呪いの儀式かと思われます」
「実際にかかるわけ?」
「あの子にそういう才能があればかかるんではないでしょうか」
鑑定スキルでステータスを拝見。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カブリラ
竜人族の娘
Lv:1
HP15/15
MP0/0
攻撃7
防御9
魔力2
魔防6
速度14
幸運2
一般スキル
裁縫Lv5
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
うん、普通。
むしろ幸運の値が低すぎて可哀想なぐらいだ。
「どうしますか?」
「害はなさそうだから放っておこう」
「わかりました。私たちは一応見張りを続けておきます」
よろしく、と言って立ち去ろうとしたら。
「あ、あの!」
イルの部下に呼び止められ、
「握手してもらってもいいですか?」
「握手? 俺と?」
わけもわからないまま3人の女の子と握手してから、その場を去った。
背後から、
「今日はもう右手を洗わない!」
「ああ、愛しの隼人様」
「強くて優しくて最高です」
幻聴が聴こえてくる。
疲れてるんだきっと。
今日は大人しく帰って寝よう。
〜102日目〜
ようやく子竜ブームも落ち着きを見せたようで、久しぶりに親子水入らずで晩御飯を食べれて、しかも今は家族団欒を楽しんでいた。
他の子供たち同様、子竜の成長も早くてすでに片言なら喋れるようになっていた。
俺はパパと呼んでもらいたい派なんだけど、ミゾルトはお父さん派らしい。
「いいですか子竜。隼人様のことはお父さんって呼ぶんですよ。言ってみなさい」
「とー、たん?」
「いい子ですね」
ミゾルトが優しく頭を撫でると子竜はきゃっきゃっと喜ぶ。
幸せな時間だ。
でも忘れちゃいけない。
『スキルを選択してください』
俺にはまだ生まれていない子供がいるんだ。
ステータス画面を開いて、騎乗Lv1を選択。本来なら進化するんだけど ⋯⋯
『このスキルに進化はありません』
残念。
なら、見切りLv1を。
続いて──
『スキルを選択してください』
2人目は受け流しLv1を選択。
「さてと」
「どこか行かれるんですか、隼人様?」
「イルの子供が孵りそうだ。行ってくる」
「お手伝いしましょうか?」
「大丈夫だと思うけど、力を借りたいときは人を寄越すよ」
「わかりました。行ってらっしゃいませ」
「とーたん、行ってーませ」
2人に見送られイルの家に直行。
ノックもなしに卵が置かれている部屋に飛び込むと、
「隼人! 右の卵にヒビが!」
子竜が生まれてくるときと同じ前兆が起きていた。
「そろそろ生まれるな」
イルの横に立ち、そのときを待つ。
ヒビの箇所が広がっていき──グシャ!
え?
中から卵の殻を突き破って足が出てきた。
さらに反対側の足も突き出てくる。
胎動が激しかっただけはある。
暴れん坊な赤ちゃんだ。
「隼人、あれはどうすれば?」
「わ、わからん」
足が引っかかってもがく赤ちゃん。
どう見ても卵から足が生えてるようにしか見えない。
シュールで少し笑えてくる。
「2人ともなにしてるんですか!」
怒声とともに俺とイルの間を掻き分け、ミゾルトが片足を引きずるながら卵に駆け寄った。
「いま出してあげるからね。じっとしてて」
ヒビが入った箇所を慎重に叩いて、横から割ると赤ちゃんを取り出した。
人間の姿に近い。
つまり女の子だ。
「足痛かったね。なにもしないお父さんお母さんはあとで怒っておくからね」
赤ちゃんの足をさすりながらミゾルトはイルを呼ぶ。
「ああいう場合は助けてあげてください。ほら、足から血が出てますよ」
「本当だ。ごめん」
「私じゃなくて赤ちゃんに謝ってください」
ごめん、と赤ちゃんに頭を下げてから、イルはミゾルトから愛娘を受け取った。
「この子が ⋯⋯ 私の赤ちゃんか」
「かわいいですよね」
「ああ!」
アクシデントがあったものの無事でよかったよかった。
「というか、もう一個の卵は?」
2人同時にあ! という顔になり、みんなで近寄る。
「いっさいヒビ入ってないんだけど ⋯⋯ 」
「今日はまだ生まれないんじゃ?」
「いや、それはない」
スキル選択が出てきた以上生まれるのは確定している。
「ちょっと穴をあけてみようか?」
俺の提案に2人は首肯。
隼丸を取り出し、覗き穴を作ってもらう。
そこから中を見ると──
「むにゃむにゃむにゃ」
気持ちよさそうに熟睡している竜の姿をした男の子の赤ちゃんがいた。
「割って大丈夫そうだな」
起こさないように卵を少しずつ割っていき、赤ちゃんを取り出した。
イルに抱っこさせる。
両手に赤ちゃんを抱けて戸惑いながらも嬉しそうだ。
「隼人、名前をつけてくれ!」
「そうだな。女の子は少し落ち着いてほしいという意味を込めて文竜。男の子は見たまんま眠竜だ」
ここに新しい家族が2人加わったのであった。
──そういや。
「ミゾルトはなんでここに?」
「隼人様が呼んでいると言われましたので」
「いや、呼んでないけど ⋯⋯ 」
まさか?
いや。そんなことは。
でも ⋯⋯
「子竜はどうした?」
「その人に預けてきましたけど」
聞いた瞬間飛び出していた。
嫌な予感がする。
ミゾルトの家に戻る。
「子竜!」
狭い家の中。
子竜がいればすぐわかるはず。
その姿は、なかった。
「くそ!」
ヴァサエアさんに頼んで村中をくまなく捜索してもらったけど見つからなかった。
真っ先に疑ったカブリラは、昨日から変わらず呪いの儀式を行なっていたと見張りの兵士が証言する。
ミゾルトの記憶を頼っても、預けた人は帽子を深くかぶっていて顔が見えなかったらしい。
いったい誰が連れ去ったんだ!
イルの赤ちゃんが生まれた日に、ミゾルトの子供は誘拐された。




