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迷子の…  作者: 如月冬美
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 約束の日。待ち合わせ場所に現れたカオンさんを見て驚いた。だってどう見たってカオンさんが着ているのはスーツ。それと帽子。古い映画の俳優さんのような格好だ。

「カオンさ…ん?」

「…やはりおかしいか?」

「ううん。凄く、格好いい…」

 ほぅ…と溜息が漏れた。細身だけどしっかり筋肉がついているカオンさん。ほどよく厚みもあるからスーツがよく似合う。目の色に合わせたのか灰色を帯びた紺の生地もカオンさんの誠実さを引き立てている。

「でも、このスーツ、どうしたんですか?」

「『すーつ』?」

「あ、カオンさんが着ている服の事です。レイモンではスーツって言わないんですか?」

「ああ。サフィーローと言う。少し前から王都で流行している」

「え?流行ってるの?」

 凄く意外だった。カオンさんて流行りの服とか気にしない人かと思ってた。気にしないというか、動き易さとか着心地とか機能重視って言った方が正しいかも。

「意外か?」

「え……は、い。意外、です」

 正直に答えると苦笑された。

「俺も流行には大して興味はないが…サフィーロー(これ)はマロウドが伝えたと聞いたんでな」

「マロウドが?」

「ああ。これなら間違いないかと思って。エミも気に入ってくれたようだし…良かった」

 そう言われて顔が熱くなる。見惚れていたのバレバレだったみたい。

「気に入ったというか…その……ますます好きになったというか…」

 ああ…なに言ってんだろう、私。

 恥ずかしくなって俯いた顔はすぐに大きな手に包まれて持ち上げられた。

「もう一度言ってくれ」

 正面にあるブルーグレイの目が期待で輝いている。

 は、恥ずかしい…

 目を合わせていられなくて視線を反らす。

「…………」

「エミ?」

「……ますます…好きになった…………」

 言った途端、カオンさんが凄く嬉しそうに微笑んだのが視界の端に見えた。

「俺も…何度もエミを好きになった」

「え?」

「エミが可愛いさを増すたびに…」

 額に唇が触れる。

「綺麗になるたびに、何度も…何度も」

 今度は鼻先に。

「愛してる。今までも。これからも。ずっと…ずっとずっと愛してる」

 そして唇に。

 そっと触れるだけのキスだったけど 心がほんわかとして自然に顔が綻んでくる。

「カオンさん…」

 あなたを好きになって良かった。






 日本の街並みが珍しくカオンさんに訊かれるまま、わかる範囲で説明をしながら家へと向かった。

「ただいま。カオンさん、靴は脱いでください」

「あ、ああ」

 日本の家の常識を教えているとお母さんが顔を出した。

「おかえり。そちらが?」

「うん、カオンさん。カオンさん、私の母です」

「初めまして。カオン・ウブ・ジョルジュです」

「初めまして。エミの母です。さあ、どうぞ」

 お母さんが案内したリビングには機嫌の良くなさそうなお父さん。カオンさんを迎えに行く前はここまでじゃなかった。

 お母さんに何か言われたのかな?

 とにかく気づかないフリしてカオンさんを紹介する。

「ただいま。お父さん、こちらカオンさん。カオンさん、私の父です」

「初めまして。カオン・ウブ・ジョルジュです」

「…………」

 挨拶したカオンさんにお父さんは無言で頭を下げる。

「もう、左近さんてば拗ねちゃって!ごめんなさいね〜。あ、どうぞ座って」

 お茶を用意から戻ったお母さんが場を仕切り始めた。夫唱婦随って言葉があるけど我が家は婦唱夫随なのだ。お父さん、婿養子だしね。

 どうぞどうぞと言うお母さんの勧めに従って腰を下ろしたカオンさんが帽子を脱いだ。頭の上にある犬耳をキラキラした目でお母さんが見てる。変なスイッチ入ってなきゃいいけど…。

「改めまして。エミさんと交際させていただいているカオン・ウブ・ジョルジュです。今日は…」

「犬耳!凄い!本物だ!えみが話してくれた通りね」

 カオンさんの挨拶の途中でお母さんが声を上げた。驚いたんだろう。カオンさんの犬耳が忙しなく動いている。

「お母さん!まだカオンさん、話してる途中…」

「いいわよ、挨拶なんて。あんたが選んだ人だもん。信じてるわ」

「でもケジメってものが…」

「細かい事ばかり言ってると嫌われるわよ」

「いえ、俺が嫌われる事はあっても嫌う事はありません」

「あらあら。えみ、愛されてるわね〜」

「お母さん‼︎」

「もちろん、愛しています」

「カ、カオンさん⁈」

 う、嬉しいけど…恥ずかしい。

「いいわねぇ。はっきりしてる人って好きよ。大体、日本の男は言葉が少なすぎるのよね。何も言わないくせにわかってもらおうなんて虫が良すぎるわ」

「お母さん、話変わってるから!」

 今日は結婚の挨拶なのに。

「わかってるわよ。それより、カオンさんはいつまでこっちにいられるの?」

「あまり長居はできません。夕刻まで…ですね」

「う〜ん…夕方かぁ……ちょっと厳しいか………」

「お母さん?」

「あんた達の写真、残しておきたかったのよ」

「え?」

「式も披露宴も出来ないから写真だけでもって…フォトウエディングって言ったかしら?まぁ、そういう事したかったの」

「お母さん……」

 ハチャメチャな事が多いお母さんだけど、ちゃんと考えてくれていた事がわかって言葉に詰まる。

「…次に撮ればいい」

 ずっと黙っていたお父さんがぼそりと言った。

「これで最後って事はないだろう?それとももう行き来は出来ないのかね?」

 お父さんの質問に答えたのはもちろんカオンさん。

「いえ、行き来は可能です」

「滞在時間を伸ばす事は?」

「断言出来ませんが…もう少し安定させる事が出来れば可能かと。ただ、長くても三日ほどでしょうか」

「三日……楓さん、どう?」

「そうね。三日あれば……」

 じゃあ、と三人でどんどん話を進めていく。


 えーと……私、置いてけぼり?

ご両親への挨拶。が、違う方向に話が進んでます。

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