第十話『追ってくる足音』
綾子に指をさされた少年は、ひたすらにグラウンドを走り続けていた。しかも、かなり早い。
「あ…あれが…」
「――概念体…。」
怜斗と白羽は、ゴクリと唾を飲み、その姿を注視する。
見た目は普通の少年だ。しかし、概念体である。
――いったい、どんなに凶悪なんだ…。
ふたりの脳裏にそんな疑問が生じる。
と、走っていた少年が怜斗達の方に顔を向けた。
『っ!?』
怜斗と白羽がビクッと硬直する。
概念体という存在に直面し、オカンが走った。ああいや、悪寒が走った。
ちなみに、白羽のお母さんはハイテンションだが走っていない。だが、走ったら早いだろう。
このネタはまだ引っ張るのだろうか?
それはさておき、少年は怜斗達を見て、ニヤッと笑って先ほどとは違う、全力ダッシュでなにかを呟きながら走ってくる。
意味がダブったがそれほどの走りだということだ。
――襲われるっ!?
白羽と怜斗はその勢いに恐怖を感じて身構える。
「大変大変大変大変大変大変大変大変大変大変大変大変大変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態っ!!」
少年は不審者を見つけて走ってきたのだろうか。
変態変態言いながらプールの前で急ブレーキをかける。
「変態?」
「そう、変態!!!…って、違くて。綾子が誰かと喋ってるから変態っ!!じゃなくて大変っ!!て思ってそれで!!!」
綾子の言葉に、少年がピョンピョンと飛び跳ねながら無邪気に彼女と話す。
その光景を白羽と怜斗はポカーンと見つめた。
「これが…。」
「概念体?」
呆気にとられて顔を見合わせる白羽と怜斗に、概念体の少年はただただ無邪気に応える。
「うん、ボクは概念体だよっ!!」
誰だ、概念体を凶悪で怖いものだと思わせていた奴は。
「ボクは、下村徹夜!!よろしくね??おにーちゃん、おねーちゃん!!」
「よ…よろしく…。」
「よろしくね。徹夜君…。」
ふたりは少し拍子抜けしつつ、まだ怖々と挨拶をする。
「――そっかあ、白羽ちゃんと怜斗君は七不思議を調べてるんだねー。」
現在の状況の説明をして、徹夜は納得をする。
「うん、校長先生の話とかで力が強くなるとか概念体ができたとか聞いたから。」
「確かに最近ボクに反応する人多いかも。そういえばボクって自分が『追ってくる足音』の概念体ってことは知ってるんだけど、どんな噂なんだろ…。」
「知らんのかいっ!!」
久々に怜斗のツッコミが炸裂した。
「うん、知らない。白羽お姉ちゃんたちは知ってる?」
「うん、一応…。」
「聞かせてよっ!!」
「わかった、えっとね…。」
そして、白羽は本人を目の前にサイトに書いてある噂の内容を話し始めた。
***
太陽が沈み、学校のライトがグラウンドを照らす時間帯、ひとりの少年が黙々と走っていた。
シーンとしたグラウンドには、少年の足音だけが響いている。
タッタッタッ。
グラウンドをグルグルと回っている。
タッタッタッ。
――タッタッタッ
「…ん?」
少年は、走りながら少し違和感を覚える。
タッタッタッ。
――タッタッタッ
足音が、一つ多い。
タッタッタッ。
――タッタッタッ
徐々に距離が近くなる。
その距離が近くなった時、少年は素早く後ろを振り返る。
『ツカマエタァ……!!』
――グラウンドを一人で走る時は気をつけた方がいい。
後ろから得体の知れないものが近づいてきているかもしれないぞ?
***
「…後味悪いなっ!てか注意喚起!?」
「だね、どうしてだろ…。」
「何も思いつかなかったんじゃない?」
『それを言うなっ!!』
ぼそっと呟いた綾子の失礼極まりない台詞に、白羽と怜斗がツッコミをいれる。
まったく、失礼にも程がある。
「へえ、これからボクは生まれたんだあ!!」
白羽の話をキラキラと輝く目で聞いていた徹夜は、満面の笑みでそう言う。
「徹夜君は人に危害を加えようとか思う?」
「ううん、全然思わないよ!!ボクは走れればそれでいいや!!」
徹夜のその無邪気な笑顔に嘘はなく、白羽も笑顔で応える。
「そっか。なら大丈夫だね。」
「概念体も別に悪い奴じゃなさそうだな。」
「ボクは悪い子じゃないよ!!この七不思議に悪い子はいないよ!!偏見、ダメゼッタイ。」
「何故標語風っ!?」
唐突に警察標語風の喋りをした徹夜に怜斗がツッコミをいれる。
「えへへ、何となくだよ。あ、ほかの子にも会いに行くんだよね?だったら、このくらいの時間に多分音楽室に行けば誰かはいると思うよ。」
「そうなんだ、ありがとう!よしっ、行こう?怜斗君」
「音楽室の七不思議もあったな…。行くか!」
「徹夜君、綾子ちゃん、じゃあまたね!」
「うん、バイバイッ!!」
「またね〜!」
二人は綾子と徹夜に手を振り、音楽室を目指して歩き始めた。
「ところで、悪い子いないなら調べる意味あるのかな?」
「それをいったら試合終了だぞっ!」
核心を突くような白羽の言葉に怜斗は力こぶを作るようなポーズをとりながらそう言った。
ポーズの意味も、何と試合をしているのか、白羽にはわからなかった。




