第一話 ヴァンダービルトの塵
なろうではよくある話で書き始めました。┏○ペコッ
8話ぐらいで完結させます。
石造りの床は、肺の奥へ冷たさが落ちてくるほど冷え切っていた。
ここはヴァンダービルト公爵邸の地下監獄。公爵家にとって都合の悪いものを、誰にも知られず消すための場所だった。
「これを飲め、マーゴット」
婚約者ドミニク・ヴァンダービルトの声が冷たく落ちる。
差し出されたクリスタルの瓶を見て、胸の奥が静かに軋んだ。
それは私が、彼の庇護下にある少女ヴィヴィアンのために、特注したものだった。
「……中身を入れ替えたのですね」
「お前にはちょうどいい末路だ」
かつて私を見つめていた熱は彼の瞳にはもうどこにもない。
あるのは嫌悪と歪んだ正義感だけだった。
一年前。
狩り場で暴走した獣からドミニクを救った孤児の少女ヴィヴィアンが邸へ連れてこられた。
次期当主夫人となる身として、私は当然のことをしただけだ。
彼女に離れを用意し、教師と侍女をつけ、貴族社会で恥をかかぬよう礼儀を教えた。
声を失った喉に良い薬草を選び、名医も呼び寄せた。
少しでも快方に向かうようにと、できる限りのことをした。
けれど、それはドミニクには違って見えた。
「ヴィヴィアンを、お前は檻に閉じ込めた」
低い声が地下牢に響く。
「作法も言葉も、お前の都合を押しつけただけだ。あの子を自分に従う人形にしたかったんだろう」
ヴィヴィアンは何も喋らなかった。
ただ、私の前で怯えたように肩を震わせ、ドミニクの前では弱々しく俯く。
薬を差し出せば、毒でも見るように震えた。
診察を受けさせようとすれば、逃げるように顔を背けた。
沈黙は、見る者に都合のいい物語を与える。
彼女が何も言わないほど、ドミニクの中で私は“恩人を虐げる悪女”になっていった。
「公爵閣下も、お前のやり方にはお怒りだ」
その言葉に、私はゆっくり目を閉じた。
ヴィヴィアンが私の教育に耐えかね、テラスから身を投げた。
そんな嘘で、あの方まで動かしたのだ。
「これを飲めば病死として処理してやる。それが最後の慈悲だ」
毒が喉を焼いた。
這いつくばった視界の先で、ドミニクがヴィヴィアンを抱き寄せる。
その肩越しに、彼女はゆっくりとスカーフを解いた。
白い喉に、傷はなかった。
滑らかな肌が灯りを受けて淡く浮かぶ。
彼女は喉を震わせ、音もなく笑った。
(……最初から、全部)
私を悪女にするための舞台。
彼女にとって必要だったのは守ってくれる男ではなく、踏み台にする女だったのだ。
意識が遠のいていく。
(もし次があるなら)
もう二度と同じ結末は迎えない。
私を殺したあの未来を、今度は塗り替えてみせる。
ー次に目を開けた時、私は陽光の差し込む自室のベッドにいた。




