第五十八話 幸せの確認(定期)
それから数年後の話をしよう。
クロードと私は、正式に結婚した。
王宮で盛大な式が行われ、白いヴェールの下で誓いの言葉を口にした瞬間——『現実なんだ』と、やっと腑に落ちた。
シャンデリアの光、控えめに鳴る管弦楽、列席者のざわめき。
全部が眩しくて、でも不思議と怖くなかった。
セリアは泣きながら笑っていた。
式の後、私の袖を掴んだまま、情緒が完全に崩壊している。
「うぇぇっぇえ…マリアンナきれい~~~~~!!!」
「泣くほどのことじゃないでしょ」
「泣くよ!!マリアンナの結婚式だよ!!」
「私は泣いてないのに」
「マリアンナが泣かない分、私が泣く!!」
「論理がおかしい」
「おかしくない!!」
などという会話が、控室の隅で繰り広げられた。
頬に当たるセリアの涙は温かくて、なんだか可笑しくて——私は結局、笑ってしまった。
クロードのほうを見ると、彼は『好きにさせてあげよう』という顔で、少しだけ目を細めていた。
その後の数年で、周囲もずいぶん変わった。
ランベルトは騎士団の副団長になっていた。いつか団長になる日も近いだろう。彼の背中には、もう迷いがない。
エリオットは宮廷魔術師として研究に邁進し、この国の魔術体系に新たな理論を加えたと讃えられていた。変な方向へ逸れず、まっすぐ成果に辿り着いたのが、私は嬉しい。
アレクシスは結婚した相手と仲良くやっているらしく、外交の席で会う時は穏やかな顔をしていた。あの傲岸不遜が、ちゃんと『王子』の顔をしている。
カロリーナは、ライメン公爵の息子と婚約した。
式典で見かけた時に『幸せそうな顔をしてる』とセリアが言った。私も同意見。
一瞬だけ目が合って、彼女がふっと笑った気がした。昔みたいな棘は、もうない。
『影の教団』の残党は、数年かけて一掃された。
セリアへの脅威は、今はほとんどない。
護衛の数も、必要最低限まで減った。
あの頃みたいに、毎日『次の事件』を探す必要はなくなったのだ。
そしてセリアは——。
王宮付きの聖女として日々の務めをこなしながら、北方の研究を続けていた。
治癒の式、祈祷、視察への同行。表の仕事をきっちりこなした上で、夜になると机に向かう。
勤勉すぎて、たまに心配になる。
ある夜、セリアが私の部屋に来た。
寝間着のまま、でも目だけがやけに真剣で。
「マリアンナ、聞いていい?」
「なに?」
「封印が解けるまで、あと何年くらいだと思う?」
「……ゲームの設定からすると、あとまだ十年以上はあるんだよね?」
「ふっふっふ~」
セリアがにこっとした。悪だくみの顔だ。
聖女の顔でそれをやるのは反則だと思う。
「ひょっとしたら、早められるかも」
「本当に!?」
「まだ確信はないけどね。もし確信が持てたら、迎えに行こうかと思っている」
「ゲームのルシファーと、現実のルシファーは違うかもしれないよ」
「知ってる」
「それでも——」
「それでも行くよ」
セリアの目に、揺るぎない光があった。
「だって、もしかしたらゲームより素晴らしい人かもしれないじゃない。ゲームで見た時にあんなに好きになったんだから——本物はもっとすごいかもしれない」
「……かもしれない」
「楽しみじゃない?」
「楽しみというか、心配というか……」
「心配しなくていいよ。マリアンナが私のためにやってきたことを、今度は私が自分でやる番だから」
セリアが立ち上がって、伸びをした。
その背中を見て、私はふっと息を吐いた。
もう、守るだけじゃない。隣にいる。そういう感覚。
「マリアンナは、今幸せ?」
「また聞く」
「定期確認だよ」
「……幸せだよ」
「良かった」
セリアが満足そうに頷いた。
「じゃあおやすみ、マリアンナ。クロード殿下によろしく」
「……おやすみ、セリア」
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