第一章 二話 別れ
タクシスたちが走っていく先からは、気持ちの悪いほんの少しの熱と焦げ臭さがあった。
走れば走るほど、どんどん強くなっていく熱と臭いと光。
タクシス達は全力で森を駆け抜け、先を急いだ。
村に着くとあたりは一面火の海であった。
そこら中には、殺されてしまったスラウ村の人々が転がっていた。
「なんだよ………これ…………!!」
タクシスは目を見開き、その場に固まってしまった。
ユイは声も出せず固まっている。
しばらくタキも固まっていたが、黒いモヤのかかった人間ではない何かを見て
「ダメだ!!!ここにいちゃ!!!!逃げるぞ!!!!」
と言い2人の手を引っ張ったその時
「やめろ!!!!!!!」
タクシスは掴まれた腕を振り解こうとし、火の海へ走っていこうとした。
「やめろ!!死ぬ気かよ!!!」
「うるせぇ!!!!母さんとジグルがいるんだ!!!助けなきゃいけねぇだろ!!!!」
タクシスはそう叫び、腕を振り解くと、火の海へ走っていった。
ユイはタクシスの叫びで意識を取り戻し、すぐにタクシスを追いかけて行った。
タキはその場に少し立ちすくみながらも覚悟を決め、タクシスとユイの後を追って行った。
タキはこの時、火の海に飛び込んでいくのを躊躇していたのではなかった。タクシスが腕を振り解いて叫んでいる時、タクシスの左目が真っ赤に染まり、獣のような眼をしていたのが怖くてしょうがなかったのだ。
スラウ村に入ったが、周りは死体の山。そして、今まさにタクシスの目の前で襲われている人がいた。
「やめろぉぉぉぉ!!!!!」
と叫びながら、飛び蹴りを喰らわせる。
村人を襲っていた者は吹っ飛び、火のついた建物に突っ込んだ。
「うう……ありがとよ………。」
「大丈夫か!!一体なんなんだこれは!!!」
「突然火の玉みたいなのが飛んできて……。気づいたら変な奴らにみんな襲われて……。」
襲われていたのは、ガキ大将のデンであった。少し話を聞いてると、火のついた建物から村人を襲っていた者がのろのろと出てきた。
出てきた者は、全身黒づくめのモヤで覆われ、異様な身長、異様な腕と脚の長さ、そして気味の悪い仮面をしていた。
「まだ話の途中なのによ……。なんだこいつ……。気持ち悪りぃな……。」
「こいつら……。どんなに叩いても殴っても関係ないんだよ……。おまけに魔法をぶつけても全く止まんないんだよ……!!タクシス…!お前じゃ無理だ!!!逃げろ!!」
「そうも言ってられねぇだろ…!!俺がなんとか食い止めっからお前が逃げろ…!」
人間かどうかもわからない異様な姿をしている者に、タクシスは少し立ちすくんだ。
しかし、この不気味な生物を倒さないと先にも進めない。
仮面の者は遅いながらもどんどんと近づいてくる。
タクシスは意を決し、か細い黒い炎を出し、立ち向かった。
「うおおおおおおおお!!!!!!!」
タクシスは今までの身体能力からは考えられない、恐ろしいほどのスピードで突っ込んでいき、黒い炎を叩き込もうとした。
その瞬間、タクシスの炎は大きく膨れ上がり仮面の者を包むように拡がった。
ゴォォォォォォ……………!!
黒い炎は全く消えない。
炎が突然大きくなったことと、黒い炎が全く消えないことに、タクシスも驚き
「どういうことだ…!?俺の炎が大きく出ている…!?しかも、この炎…消えねぇじゃねぇか…!?」
驚いている内に黒い炎はみるみる消えていき、仮面の者は倒れて動かなくなった。
タクシスは仮面の者が動かなくなったのを確認しにいった。
近づくと、仮面の者の黒いモヤが晴れ、その中には仮面をした人間が倒れていた。
「………。」
仮面の者はぴくりとも動かなかった。
タクシスは心の中で、人を殺してしまった…。と思った。初めて人を殺してしまったこと、村人を殺された怒り、あっけなく殺してしまった感覚、色々とぐちゃぐちゃになっている感情を押し殺し、
「お前はもう逃げてろ…!村の外に早く出るんだ…!!」
デンに顔を背けながらそう言い放つと、孤児院のある方へ走って行った。
道中は仮面の者が多数いた。それを黒い炎で走り倒しながら、先へ進んでいく。数がとてつもなくいる。しかし、黒い炎を浴びせれば即座に動かなくなる。
殺している。と言うにはあまりにもあっさりであり、罪悪感と怒りが薄れたり濃くなったりでタクシスの感情はさらにぐちゃぐちゃになっていた。
「見えてきた…!家だ…!!」
家である孤児院の前付近に着こうとした手前、ある死体を見つけた。
弟だ。
時が止まったような感じであった。はっきりと見える。右顔面の上半分がなくなっている弟の死体だ。
それを見たタクシスはそこで立ち止まり、しばらく動けなかった。ただ、死んだ弟を見て立ち尽くすだけだった。目が離せなかった。そして、今いるこの場は現実ではないような、変な感覚に襲われた。ぐちゃぐちゃになった感情もぐちゃぐちゃのまま止まってしまったかのような。
あたりは一面火の海、涙すら一瞬で乾いてしまう。涙を流せているかもわからない。
タクシスは絶望と怒りで感情がぐちゃぐちゃになっていた。
「あぁ……ああぁ………!!あぁぁぁぁぁ!!!!」
感情がぐちゃぐちゃになりながら、その場にうずくまり、事の重大さにタクシスは気づいた。
「なんで……!!!なんでなんだよ…!!!!!あぁぁぁぁぁ!!!!!」
タクシスの左目はより一層赤く染まり、右目にもその兆候が見られ、両目とも徐々に獣のような瞳孔になっていく。
怒りと憎悪の感情がどんどん湧き出て、大きくなっていく。どんどんと闇に呑まれる感覚。自分が自分じゃなくなっていく感覚。感じたことのない感覚に喰われ、我を忘れそうになっていた。
その時だった。
「ごめんな。タクシス…。」
声の方を振り返ると全身ボロボロで血まみれの左目が焼けこげた母が立っていた。
タクシスは、ハッと意識を取り戻し、テイルにすがるように
「母さん……!!母さん!ジグルが…!!!ジグルが!!!!」
「すまんな…タクシス…。守りきれなかった…。あたしの責任だ……。ほんとうにすまん……。」
タクシスは謝る母を見て、絶望感が押し寄せた。
いつも頼りになる母がこうなっているのかと。こんなボロボロになってでも弟は守れなかったのかと。
そして、ぐちゃぐちゃな感情の中、ボロボロの母をやっと認識し、震える声で
「母さん…。母さんもすごい怪我をしている…。手当…。手当しなきゃ…!!!」
心配をよそに、テイルは笑みを浮かべながら
「大丈夫だ…!こんくらいじゃあたしは死なないよ…!こんなのは怪我に入らんよ…!」
と言い放った。
後を追っていた2人も到着し、その様子を見て2人は絶句した。
「すまないな…。タクシス…。ユイ…。タキ…。あたしも精一杯戦ったが、ダメだった…。お前らだけでもいい…。逃げるんだ…!」
テイルはタクシス達にそう言っていると後ろから
「おい。まだ終わってないぞ。」
謎の男が話しかけてきた。
背は高めだが、顔は幼く、頭には獣人族特有の耳が生えていた。両手の甲には3枚の刃がついている。
魔力も溢れ、その場にいるだけで死の危険があるような、背筋が凍る。そんな男だった。
「あんた…。まだいたのか。あんたの探し求めてるものはここにはないよ!!」
「………。そうか………。この村もだめそうか…。しょうがない。あの眼はまた別のところにあるのか…。まぁこの村はどのみち潰しておいた方がいいか…。」
男が独り言を言っていると、テイルは土魔法を使い攻撃を仕掛けた。
男は軽く攻撃を避け、テイルの懐に潜り込み、手の甲の刃を突き刺そうとする。
それをかわし、3人の方に向かって
「あんたら!!!にげろ!!!!」
とテイルが言い放った瞬間、一瞬の隙をつかれテイルの体に刃が突き刺さる。
「かはっ……!!!!」
「母さん!!!!!!!」
テイルは刺されながらも、魔力を込めた拳で謎の男をぶん殴り吹き飛ばした。
テイルは苦しそうに
「ぐっ………!!かはっ………!!!」
と血を吐きながら膝をついた。
3人はテイルの元に駆け寄るとテイルは
「あー、だーめだこりゃ…。死ぬな…。もうこれ使うしかないか…。」
と独り言を言いつつ、小さな魔道具を取り出した。
「母さん!!母さん!!!ダメだ死んじゃ!!!!」
「大丈夫だ…。あたしはこいつぶっ飛ばすまで死なねぇから…!あんたらはこの魔道具で逃すから…。あとは任せな…!!」
「なんでだよ!!!ダメだ!!!俺も戦う!!!!」
テイルはグッと堪えて
「それはダメだ…。あんたはまだ子供だ…。母さんの言う事くらい聞きな…!」
「やだよ!!!だって母さんこのままじゃ…!!!」
不意を打つように魔道具を展開し、水色の泡のようなものに3人は包まれていく。
「え!?ええ!?なんだこれは!!?」
「それは、輸送系の魔道具だ…。目的地に着くまでは割れない魔道具…。あたしの知り合いにもしものことがあったらって頼んでる…。ほとぼりが冷めるまではそこに滞在しな…!」
「なんでだよ!!!母さん!!!ダメだ!!!一緒に逃げよう!!!!」
先ほどの謎の男も吹き飛ばされた先から、這い出て歩いて近づいてきている。
時間がない。
テイルは、奥に込めてる感情を押し殺し、笑顔で
「ダメだ…。タクシス…。あたしはこの村をどうにかして救わなきゃなんない…。しばらくのお別れだ…。また会えるさ…。だから…元気でいろよ…!」
と言い放った。
水色の泡はどんどん上に昇っていく。
「母さん!!母さん!!!」
「じゃあな…!また会おう…!!!」
「母さん!!!!母さぁぁぁぁん!!!!」
水色の泡は上昇しきると、とてつもないスピードで村から出て行った。
村が見えなくなるまでそう時間はかからなかった。
ユイとタキは言葉も発することができず、泡の中で座ることしかできなかった。
タクシスもしばらく泣き止まなかったが、疲れ果ててしまい3人とも気付けば眠ってしまっていた。




