第一章 別れ 一話 スラウ村
目が見えるようになり、2年の月日が経った。
タクシスは10歳になり大陸の最南端付近にある小さな村『スラウ村』の小さな修練場で魔法を練習していた。
「うおおおおおおお!!!!」
ポッ。
雄叫びをあげながら出た魔法は、炎にも満たない小さな黒い火であった。
それを見ていた、スラウ村のガキ大将こと『デン』とその取り巻き達は
「ちっせぇ火だな!薪すら燃やせねぇじゃんな!しかも黒い火って!炭みてぇな色して!」
「練習なんて無駄無駄!お前みたいな奴じゃ魔法使えないって!」
「しかも誰でも使えるような火魔法が個有魔法なのにそれしか出ないのかよ!」
散々な言われようをしていた。
そう。この世界では基本として火、水、草、土、風などの自然系の魔法は修練すれば基本使えるのだ。
その中でも前述の5つは五大元素魔法と呼ばれている。
得意、不得意はあれどもそれは皆が使える至って普通の魔法。
そして、個有魔法というものは一人の魔導士が使う唯一の特殊な魔法のことである。ごく稀に個有魔法が一緒に見える者もいるが、それは性質が違うものとなっている。
基本的に1人一つ発現するが、二つや三つ発現する者もごく稀にいるそうだ。
個有魔法でも珍しいものだと、重力や血を操るものもある。
しかし、タクシスは特殊な個有魔法でも無く誰でも扱えるような火魔法が個有魔法として発現してしまっていた。
この場合、元素魔法の火がかなり強化されるはずなのだが、タクシスは個有魔法である火魔法の威力が魔法を覚えたての子供ぐらいの威力であった。
変わっている点といえば、出ている火が黒色をしているということだけだ。
タクシスは、ムッとして
「うるせぇぇぇ!!お前らぁぁ!!!俺はな!お前らよりも練習して超強い魔導士になるんだぞ!!!今に見てろ!!!」
と言い放ち、家の方に帰って行った。
タクシスは悔しい表情をしながら
(なんで俺だけこんな魔法が弱いんだ…!)
と、思いながら走って家に向かっていた。
「ただいまーー!!!」
家に着き、帰宅の挨拶をする。
「「「「おかえり!」」」」
そこにはいつも通りの光景。母がおり、弟がおり、少女が2人いる。
ここは、スラウ村唯一の孤児院である。母が孤児院を開いているのだが、なかなか人数が集まるわけでも無く母と弟、少女2人と住んでいるのである。
この少女2人は、母が拾ってきた孤児の子達だ。
金髪の髪を二箇所にまとめてる小さい少女の方が『タキ』という名前で魔力はほとんどないが、その代わりに身体能力がずば抜けている。身体能力が高いせいか、男勝りな性格をしててかなりぶっきらぼうである。タクシスよりも1つ年上である。
もう1人はうねりのある白髪で高めの身長の少女が『ユイ』という名前でこっちは魔力が全くない。0。完全に魔力がないのである。そして、代わりに身体能力が高いという訳でもない。こちらはかなり大人しめの性格でタキとは真反対の性格である。同い年で、タキのことをお姉ちゃんと呼んでいる。
そして、母の名は『テイル・ガイン』。母もかなりガサツでぶっきらぼうなところがある。白髪の編み込んだ髪で、いつも手入れが大変だとぼやいてる。どんな魔法もかなりの精度でできるが、個有魔法はなんなのかはいまだにわからない。村の人たちからは、いつも慕われている自慢の母だ。
弟の名は『ジグル・ガイン』。白髪でたぶん母さんの遺伝かなんかだろう。7歳にして創生の個有魔法を扱えるスラウ村期待の天才である。創生の個有魔法は6歳になる頃に発現し、物質があればそこからあらゆるものを生み出すことができる魔法だ。生み出す魔法、という特別感満載な個有魔法のおかげで、スラウ村の人々からは神の子なんて呼ばれているが、本人は人見知りなところがある。そんな特別感満載な弟ではあるが、タクシスから見たらただのめちゃくちゃかわいい弟だ。
タキを見つけるなり、タクシスは
「今日も武術の特訓だ!!タキ!!相手してくれ!!!」
「お!いいぜ!!今日は今晩のおかずかけて勝負しようぜ!!!」
「もうやめなよタクシス…。今まで勝ったことないじゃん…。」
タクシスはまたムッとして
「うっさい!ユイ!!何万回かやったら一回は勝てるかもしんないだろ!!!」
「何万回って一日1回しか勝負しないのに?何年経つのそれ…。」
「例え話だろ!近いうちに勝てるかもしれねぇし!!タキ!行くぞ!!」
タクシスはさらにムッとしながら、家の外に出ていった。
タキも後を追うように、外へ駆けていった。
「あんたら早めに…ってもういないか…笑」
夕飯時になりタクシスとタキが帰ってくる。
タクシスの顔は……
いつも通り腫れ上がっている。
半泣きになりながらタクシスは
「つびこぞは……勝づがらなぁ…。」
そう呟きながら、夕ご飯を食べ終え寝室に向かっていく。
テイルはタクシスが寝室に向かったのを見て、引き留めるように
「タクシス!明日は森で山菜採りだからね!!ユイとタキで行ってきな!!」
「はーい…。」
タクシスは力の無い返事をしてベッドに向かい就寝した。
チュンチュンチュン…
朝が来た。
タクシスは起きるなり、日課である腕立てと腹筋を始めた。そして、家の外に出て
「はぁぁぁぁぁ!!!!!」
魔術の特訓である。この爽やかな朝に響き渡る怒号にも似た声は、この家、いやスラウ村での朝の合図にもなっている。
「今日もうるせーぞー!タクシスー!」
「今日も頑張れよー!」
あちこちから、皮肉混じりの歓声が聞こえてくる。
そんなものはお構いなしにタクシスは魔術の特訓をする。
日課を終え、朝食の時間になり家へ戻る。
テーブルの上には、パンとスープ、蒸したじゃがいもがある。いつも通りの朝食だ。
タクシスの特訓での怒声を聞いて、起きてきた3人も卓につき朝食の挨拶をする。
「いただきまーーす!!!!」
「「「いただきまーす…。」」」
元気なタクシスの声と寝起きの3人の声とともに朝食をとる。
食べ終わるなり、タクシスは
「ユイ、タキ!今日は山菜採りだからな!!すぐ行くぞ!!」
「あいよー」
「うん…。」
タクシスはまだ頭が起きていない二人にお構いなしでせっせと準備していく。
準備をしていると、一人だけ遅く起きたジグルが部屋から出てきた。
「お兄ちゃん…。おはよ…。」
「お!ジグル!おはよ!!」
「山菜採り終わったらさ…。今日魔法の特訓しようねぇ…。」
「お!いいぜ!ジグル!!お前もうすぐで魔法学校通うんだもんな!!入学までに一緒に特訓だ!!」
ジグルは個有魔法の発言が人よりも早かったため、普通は10歳から通う魔法学校の初等部に飛び級で入学する予定だった。
そんな会話をしていると、少女2人の準備も終わり
「いってきまーーす!!!」
「いってらっしゃーい!」
タクシスは母と弟に元気よくそう言い、出発して行った。
山菜採りはスラウ村の外に出て行う。森で山菜を採るのだが、魔獣や不法者などがうろついている危険性もある。しかし、用心棒役のタキがいることで安全性の高い採取が可能となっている。タキは身体能力の高さから大人顔負けの戦闘力を持っている。
だが最近は、なぜか魔獣も少なく不法者もあまり見なくなっていた。
3人からすれば、面倒ごとも少なく嬉しい限りであった。
「最近は魔獣もでねーし、やべー奴も少なくなってきたよなー」
「まぁ、大体はあたしがコテンパンにしたからこの村の近くには近づきたくないんじゃないか!」
「まぁたしかにな!タキはすげぇ強ぇからな!俺も負けてらんないぜ!」
「あんまり調子乗ると、そういう時に限って変なこと起きそう…。」
「なっ!そんなこと言うなよ!ユイ!そんなマイナスに考えてっからそうなんだよ!」
「まぁ…大丈夫だと思うけど……なんか嫌な予感もする…。」
「しょうがねぇなぁ!じゃあ今日は少し早めに切り上げっから!ユイの勘は妙に当たるから怖いんだよ!」
「ありがと…タクシス…。」
そう言いつつも気づけば周りは暗くなっていき、あっという間に陽が沈んでしまっていた。
「タクシス…お姉ちゃん…。もうそろそろ帰ろう。お母さんも心配してる…。」
夢中で山菜採りをしていたタクシスとタキはハッと気づき
「おう!そうだな!忘れてたぜ!もう帰…」
ドゴォォォォォォンンン………
タクシスが言いかけてた途中でスラウ村の方から大きな音が聞こえた。
「なんだ!?村の方から聞こえたぞ!?」
タクシスは嫌な予感を感じ、真っ先にスラウ村の方へ飛び出して行った。
それを追うようにユイとタキも走っていった。




