◆18 ああ、マジでスッゴイ魔法じゃねぇの、魅了(チャーム)って。
驚愕の事実であった。
王国の母ともいうべき王妃様が、王宮で仕える騎士たちに、麻薬の吸引を勧めていたのである。
ワタシ、白鳥雛は、生唾を飲み込んだ。
(めっちゃ、ヤバくね!?
そんなんで、お国は大丈夫なわけ?
麻薬なんて、歌舞伎町でも、チンピラが持ってるだけでヤバいってのに……)
改めて騎士たちの心身状態を〈鑑定〉すると、みながほぼ魔石粉末|(麻薬)の中毒に罹っていた。
彼ら、王宮付きの騎士たちの多くが麻薬を手放せなくなっており、供給元の王妃様に逆らえなくなっていたのだ。
もとよりこの魔石粉末|(麻薬)には中毒性があり、脳機能を低下させるだけでなく、魅了の効果もあったから、この粉末を吸引する者たちは、ますます嬉々として王妃様に従うことになる。
だが、今は違う。
魔石の粉が持つ効果よりも、ずっと強力な〈魅了〉をワタシがかけたので、内心葛藤しつつも、騎士たちはワタシの意向に従いたく思っているようだった。
騎士たちは恥じ入って、顔を俯かせる。
立派な体躯をしたイケメンたちが意気消沈しているさまを目にして、大きく息を吐いた。
(ダサいったら、ないわ。
こんな白い粉で、ババアの言いなりになるなんて。ウゼエ。
ーーよぉし。魔法使いらしく、ワタシがアンタたちを王妃様の魔の手から解放してやろうじゃないの!)
ワタシは能力を発動させた。
「〈魔力剥奪〉!」
この能力は、あらゆる対象物から魔力を奪い取ってしまう魔法だ。
結果、粉末魔石|(麻薬)からもたらされていた魅了効果を、騎士たちから剥奪したのであった。
「あ……!」
「お、おい。なんだか久しぶりに……」
「そうだよ、頭の中の靄が晴れたようなーー」
騎士たちが互いに顔を見合わせ、夢から醒めたように、両目を見開く。
そんなイケメン男子たちに向かって、ワタシは両手を差し出した。
「さあ、その粉、全部、ワタシに差し出しなさい!」
イイ男たちが、王妃の言いなりになってるのが許せない。
現在、騎士たちが所持する粉末魔石を、すべて吐き出させることにした。
「はい。ヒナ様のご命令とあらば!」
騎士たちが腰に提げたり、鎧の中に隠していた袋を取り出し、次々と献上してくる。
ワタシは、その魔石粉末が詰められた袋をテーブルの上に山盛りにして、一気に魔法をかけた。
「〈魔力剥奪〉!」
袋の山が青白く光る。
外見はまったく変わらない。
現に、二、三個の袋からサラサラと白い粉を摘み出したが、いつも通りの魔石粉末にしか見えない。
だが、完全に魔力を〈剥奪〉してある。
もはや麻薬効果がまったくないモノに成り果てていた。
「これで、コイツは単なる白い粉よ」
手のひらで掴んだ魔石粉末を、ザザッと床に捨てる。
騎士たちは、今や憧れの対象となった女性ーー〈魔法使いヒナ様〉の振る舞いを、呆然とした表情で見つめている。
「ほんと、ワタシ、意志のない男なんて、マジで嫌いなの。
これからは、シッカリしな。
せっかく、イケメンに生まれたんだから!」
新たな女主人ともいえるヒナ様からの命令である。
騎士たちは揃って片膝立ちになって、顔を上げる。
「はい。頭がスッとしました」
「なんだったんだ、今まで……」
「長らく朦朧として、悪い夢にうなされていたようだ……」
イケメンたちが無条件に自分を慕うさまを眺めて、ワタシは満足した。
(ふふふ、ヤベェくらい、快感だわ。
よく、わかんないけど、質の悪い魅了が掛かってたから、悪酔い状態だったんだよね、きっと。
でもワタシのは、もっと質が良くて強力だから、めっちゃ安心!)
そして、小さく舌を出す。
(ちょっと、イタズラしちゃお!)
手にした杖をちょっと振って、魅了をさらに強化した。
すると、イケメン騎士たちは片膝立ちのまま、熱い眼差しでワタシを見つめる。
尻尾が生えてたら、犬のようにブンブン振りまくってるところだ。
なかには涙を浮かべる者までいた。
(魅了の力は、ワタシだけのものだしぃ!)
手を腰に当て、ふんぞり返る。
でも、男に下手に出られるのは、じつはワタシの趣味じゃない。
オトコには、あくまでオンナをリードする立場でいてもらいたい。
だから、騎士たちが傅くさまを見ているうちに、興が醒めてしまった。
「あ〜〜あ。まじ、ダリぃ。
ちょっと魔法を使いすぎたかも。
疲れた。眠いわ。
もう、寝かせてもらうし!」
ワタシは、女王様のごとく、テーブルに腰掛けて脚を組み、騎士たちを睥睨する。
そして、彼らの面相を物色して、指示を出した。
「あ、そこの可愛い子。
それから、あの子とその子。
さっきまで、骨付き肉をしゃぶってた男の子。
此処に残って、ワタシに子守唄を歌って。
この世界に来て以来、ワタシ、寝付きが悪いの。
よろ!」
ワタシが選んだ見習い騎士たちは、無言のままに立ち上がる。
彼らの上官である青髪の青年騎士が立ち上がって、ワタシに進言した。
「わかりました。
でも、さすがはヒナ様ですね。
コイツらは教会の聖歌隊でした。
ボーイソプラノで、歌が上手いです。
眠る際の歌い手として、最適です」
「マジ!?
そりゃ、めっちゃ嬉しいわ」
ご主人様であるワタシが、場を和ませる。
青年騎士は、後方に控える見習いたちを振り返って、命じた。
「間違っても、ヒナ様にご無礼のないように」
「ハッ!」
少年たちはいっせいに片膝立ちになり、顔を真っ赤にする。
顔を上げた際、主人であるワタシの顔を直視してしまったからだ。
今では少年たちにも、魅了魔法がしっかりと効いていた。
青年騎士たちは見習い少年たちを残し、雁首を揃えて、スゴスゴと部屋から出て行く。
ことさらに紳士ぶるのが、ちょっと滑稽だった。
昼間の初対面のときの様子とは、大違いである。
(ああ、マジでスッゴイ魔法じゃねぇの、魅了って。
サイコーじゃね!? ゲロやばなんですけどぉ)
ガッツポーズをして、テーブルを離れる。
それから、隣の寝室にあるベッドへと歩を進めた。
そして、寝巻きに着替えて、真っ白なシーツを被る。
本気で眠くなっていた。
いまだ声変わりのしていない、澄んだ少年たちの歌声が夜に響き渡る。
そんななか、白鳥雛は、満足の笑みを浮かべたまま眠りについた。
ゴーゴーいびきをかきながら……。




