◆17 ウソぉ。騎士(ナイト)ってのは、綺麗なお姫様にお仕えするもんじゃん?
ワタシ、魔法使いヒナは、個性能力である〈魅了〉を軽めにかけて、尋問に来た青年騎士どもを、逆に言いなりにすることに成功した。
訊けば、騎士団の詰所に、騎士見習いの少年を何人も留守番に置いているという。
美少年の顔を見てるだけで、ワタシは幸せになる自信がある。
ワタシは青年騎士に命じた。
「なに、それ。ヤバい。
さっそく呼んできてよ!」と。
目の前でひざまずく騎士は、大きくうなずいた。
「承知しました。
俺たちの詰所はすぐ近くですから……おい!」
青髪の青年騎士がひと声かけると、黄色い髪の騎士が走り去る。
騎士団の詰所にトンボ帰りしたようだ。
王女殿下付きの護衛官も、本来なら騎士が務めていたはず。
要するに、護衛官というのは、今日、ワタシを取り囲んだ騎士連中と、ほとんど出自は同じーーお仲間ということになる。
だから、部屋の前の廊下を進んで曲がるとすぐに、王宮付き第二騎士団の詰所があった。
やがて、騎士見習いの少年が六人、オズオズと顔を出してくる。
「ヤバッ! めっちゃ可愛い!」
いまだ十歳にも満たない男の子までいる。
家によっては、八歳から見習いに出すらしい。
騎士爵は、貴族位としては最下層だ。
だから、末端は平民同様の貧しい暮らしをしているらしい。
ワタシは力一杯、お気に入りの少年を抱き締める。
「お姉さんが奢ってあげる。なに食べたい?」
「ーーお肉」
「よし、用意しな!」
いきなりの無茶振りに、青髪騎士は頭を振る。
「無理ですよ」
「そんなはずないでしょ!?」
ワタシは〈魅了〉を一段と強く発動した。
これほどまでに魅了がかけられると、ほとんど主人の奴隷である。
「ワタシのために、ありったけのお肉とお酒を持って来て。お願い」
〈ご主人様のご意向〉に逆らえる者など、誰もいなかった。
「喜んで!」
「われら、第二騎士団にお任せを!」
青年騎士たちは、顔を真っ赤にして飛び出していく。
しばらくしてーー。
大量の骨付き肉とワイン樽を大勢で運び込んで、帰って来た。
「ヤベェじゃん。
やっぱ、ある所には、めっちゃあるものね!」
ワタシが喜色満面になると、騎士たちはいっせいに片膝立ちとなった。
「はっ。厨房の氷室には、王妃様専用の肉や魚、酒が蓄えてありますから。
本来、此処で食べるものじゃありませんが、構いはしません」
「そうですよ。
王妃様は夜な夜な男を連れ込んでは、よろしくやってるんだ。
今宵ぐらいは、ホンモノのお嬢様ーーヒナ様にお仕えしたく思います」
「私もです」
「俺も!」
ワタシは、葡萄酒を満たした木製コップを、高く掲げる。
「みんな、良い男ね。それじゃあ、乾杯!」
「かんぱい??」
「いいからワタシの真似をするの! カンパイッ!」
「はい。かんぱい!!」
男どもがヒナの仕草をいっせいに真似てカップを掲げ、一気に酒を喉に流し込む。
ゴクゴクと、盛大に喉が鳴る。
酒宴が始まった。
少年たちも、楽しそうに肉を頬張っている。
彼ら騎士見習いには魅了魔法を効かせていなかったが、彼らは充分、〈魔法使いのお姉様〉に懐いていた。
ヒナは、大好きな肉を恵んでくれたお方である。
普段は残り物しか食べられない少年たちにとって、女神様のような存在に映っていた。
実際、いつも厳つい顔をした先輩騎士たちを巻き込んで、突然、豪勢な非日常世界を繰り広げてくださっているではないか。
「こんな夜遅くに宴会が出来るなんて! 初めてです」
感嘆の声をあげる少年騎士に、ワタシは尋ねた。
「夜の店はないの?」
「あるにはあるんですがーーもっぱら、お偉方専用の店ばかりで。
まして、見習いですから。
俺たちでは、とても踏み込めません」
「そう。可哀想に……」
見習いたちが〈ヒナ様〉との会話を独占しているのが、鼻持ちならない。
青年騎士たちも、強引に会話に割って入ってきた。
「ヒナ様。お偉方を信じちゃいけませんよ。
裏でどこにつながってるか、わかりゃしません」
「そうですよ。ヤツら、自分たちだけで楽しんでるんだ。
王妃様だってデミアスと連んでるし、教会のお偉方だって密かに女を囲ってるし」
彼らは口々に、お偉方の腐敗を暴露していく。
が、ワタシには、世を正そうなどという正義感は縁遠い。
「そりゃあ、そんなものでしょ。お偉方ってのは」
とだけ口にして、平然と酒をあおる。
しばらく飲み続けて酔いが回った頃、少し騎士たちを煽ってみた。
「それよりもマジで呆れるのは、アンタら騎士さんの不甲斐なさじゃね!?
ーーアンタたち、そんなに王妃様のご意向が恐ろしいわけ?
ぶっちゃけ王妃なんて、もう若くもないオバさんじゃん?」
青髪騎士が、口を尖らせて反応した。
「だって王妃様ですよ。今現在、最も勢力が強いお方なんですから」
これを機に、騎士連中との問答が始まった。
「めっちゃ、情けない。ダサい。
こんなに逞しい身体を持っていてーーそれでも男なわけ?」
「仕方ないですよ」
「そうですよ。騎士は、王家に仕えるものなんス」
「ウソぉ。
騎士ってのは、綺麗なお姫様にお仕えするもんじゃん?
悪役のオバさんじゃねぇし。
まじ、ウケる」
「……」
「それにさぁ。
ワタシのような〈異国から来た女性〉には、めっちゃ礼儀正しく、優しくするもんじゃね?」
「そ、それは……」
「す、すいません。俺たち、どうかしてました。
なんだか、貴女様がとんでもなく怪しく思われて……」
「怪しいって……まじヘコむわ。
そんなにワタシが嫌いなわけぇ?」
「いえっ! そのようなことは決して!」
「失礼致しました。これからは、たとえ王妃様のご命令であろうとも、決して嫌がらせは致しません」
「……サンキュ」
ヤバいよ、ほんと。
やっぱ、嫌がらせだったんだな。
ほんと、イケメン揃いだけど、信頼できないわね、コイツら。
ワタシはあえて憤然とした態度で、手を大きく振った。
「ーーだったら、もう出てけよ!
ワタシ、酔いが醒めないうちに、休みたいし。
それとも、この世界の騎士さんたちは、集団で若い女性の寝込みを襲うのが、趣味なのかぁ?
王妃様の言いなりになってさぁ。
まじで、ウザいんですけどぉ」
涙目になってる青年たち。
イケメンをいたぶるってのも、ソソるわねぇ。
新たな発見だわ!
ーーなどと感慨に浸っていると、青い髪をした騎士が、オズオズと小さな袋を差し出してきた。
「ヒナ様も、お試しになられたらどうですか?
ハイになれますよ。
私どもが王妃様に従う理由が、おわかりになるかと……」
袋を開けると、白い粉が詰まっていた。
「これ、なに?」
疑問に思ったワタシは、さっそく能力を使った。
「鑑定!」
ステータス表と同じように、鑑定結果がワタシの眼前に表示される。
〈魔石を細かく砕いた麻薬。魅了の効果あり〉
(えっ。ま、麻薬ーーってクスリのこと……!?)
鑑定結果に身をのけぞらすワタシに対し、青髪騎士が身体ごと迫る。
「コイツをほんの少し匙で採って、パイプに詰めて火で炙れば……」
「まさか、これを吸えって言うの?
それも、王妃様のご命令ってわけ?」
「……ハイ」




