◆14 2人の婚約者候補
一時間もしないうちに、ワタシ、魔法使いヒナは、ターニャ姫と連れ立って、侍女たちが待つ奥屋敷に戻っていた。
再び女性だけで、お茶会となる。
上級侍女たちも一緒に、大きなテーブルに輪になって着座する。
ワタシの対面ではターニャ王女が、穏やかな表情を浮かべてお菓子を摘んでいる。
話題は、お姫様の婚約相手についてであった。
レオナルドの突然の訪問で中断した話が、再開された格好だ。
「あのーーお姫様の婚約者候補は、どなたなのかしら。
すでに、候補者は絞られていると聞きましたけど」
姫様は微笑みを浮かべるだけだった。
が、ワタシの問いかけを起点にして、女性たちが口々に語り始めた。
その話によるとーー。
ドミニク=スフォルト王国唯一の直系王女、ターニャ・テラ・ドミニク・ランブルト王女殿下ーー彼女と婚約できる候補者は、二人に絞られていた。
一人目は、先程、面会した相手ーーレオナルド・フォン・スフォルトであった。
なんと、彼はああ見えて筆頭公爵スフォルト家のご子息であった。
公爵といえば、王家に次いで高い身分の爵位である。
しかも、このドミニク=スフォルト王国においては、準王家と言っても過言ではない。
王国名と同じ姓を持つことからわかるように、レオナルドは王族に連なる公爵家であった。
ターニャ姫様の隣に座る侍女長クレアが、淡々とした口調で説明する。
「現王家はドミニク家に連なり、レオナルド様はスフォルト家を発祥とする家柄なのよ」
ドミニク家とスフォルト家の者が協力して国家を起こしたのが、王国の起源となっているそうだ。
初期の頃は、ドミニク家とスフォルト家が交互に王位を継いで国政を維持していたが、六代ほど前に内乱があり、スフォルト家の責となったために、臣下の家格に落ちたという(実は混乱を収めるために、当時のスフォルト家当主自ら、臣下に身を退いたとも)。
それでも、スフォルト家は最も王族に近い血筋であるうえに、ドミニク家と複雑に入り組んだ家系となっていたのも六代前以前のこと。
現在では過去の遺恨もなく、近親婚の懸念も少なくなった。
だから、レオナルドは、血筋としてはターニャ姫のお相手として最適格であった。
しかも、金髪のイケメンである。
だが、ワタシは大きく横に頭を振った。
(でもでも、ヤバいよ、アイツは。
お姫様に相応しいオトコじゃない!
まじでオタだし。あの趣味はないわーー)
そう思ったが、そのままを口にするのは憚られた。
姫様にしたら幼馴染として仲が良いみたいだし、そうゆう人の悪口は言えない。
ワタシは、やんわりと釘を刺す程度で収めることにした。
「でも、あのお方ーーちょっとオドオドしすぎてません?
なんか、話す内容も自分本位だし」
するとターニャ姫は、まるで自分の無作法を窘められたかのように赤面した。
「人見知りなさるのよ。お優しい方ですから……」
充分釘は刺したと思って、ワタシは話を進めた。
「候補者は、お二人とか。もう一人はーー?」
「ああ、ヒナ様はお会いする機会がないかもしれませんわね」
ターニャ姫が素っ気なく受け流すのに応じて、服飾担当のスプリングが、バッと扇子を広げて口に当てた。
「会わなくて結構ですよ、あんな失礼なヤツーー」
婚約者候補の二人目は、現在の政権を担う宰相が推す人物ーー男爵家子息アレック・フォン・タウンゼントだという。
「男爵家の出自で、姫様に想いを寄せるなどと……」
スプリングは、扇子を閉じる指を震わせる。
男爵位は下級貴族だ。
事実、アレックの祖父は元平民で、娘を亡命貴族に嫁がせて準男爵位を得ている。
隣国デミアス公国ゆかりの血統らしい。
「爵位に問題があるなら、候補から外せばいいのに」
とワタシが声を漏らすと、隣に座っていた化粧担当のナーラが、黒髪を掻き分けて言い捨てた。
「それはね、宰相だけでなく、王妃様までもが、あの男爵家子息をご贔屓になさっているからなの」
ナーラの発言にうなずいてから、スプリングは、目線を庭園の方へと漂わせた。
「王妃様は……私のような装飾担当にとっては、仕え甲斐があるお方なのは確かなのでしょうけど……」
彼女たちの話によるとーー。
王権代理を務める王妃ドロレスの乱費癖は、有名らしい。
諸国から集めた宝石は100を超え、衣装にいたっては数えきれない。
毎日、新調させては、破棄しているとのこと。
現王妃ドロレスは、隣国デミアス公国と縁故が深い侯爵家の出身だ。
しかし、じつは妾腹だ、という噂もある。
当時、王に嫁いだ段階では側室であったが、ターニャ姫様の実母であるサリー王妃が病没したので、側室から正妃へと格上げになった。
王国の多くの民は、先代のサリー王妃様とターニャ姫様は大好きだが、現在の王妃ドロレスは好きではないとのことだ。
一部の貴族はともかく、国民からの支持は圧倒的にターニャ姫が得ているーーと侍女長クレアは得意げに胸を張る。
みなの話に耳を傾けながら、ワタシは考えた。
(お付きの友達の話すことだからね。
めっちゃ身贔屓があって当然ーー。
だけど、どうもマジで、そういった状況?)
つまり、姫様の婚約相手は、正式にはまだ未定で、ようやく候補者が絞られてきたという段階らしい。
が、とりあえず、正式に婚約の儀が整うまでの護衛の任務に、ワタシが就くことになったわけだ。
「それで、ターニャ姫様には、どなたか意中の人はおりませんの?」
正面に座るお姫様を、まっすぐに見据えて、ワタシは尋ねた。




