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◆42 ぎこちない再会、そして求婚!?

 魔王を討伐し、文字通りの〈勇者〉となった俺様、東堂正宗は、天守閣(キープ)から地上に降りたとたん、みなから怒涛(どとう)の歓待攻勢を受けた。


 まずは王国軍大将と歓談し、それからはドンチャン騒ぎ。

 王国軍将兵たちとともに、盛大に飲み食いをし、しばらくぶりの休息を得た。


 その夜は、魔王の寝室を占拠して休むこととなった。

 それはそれは豪華に装飾された、天蓋(てんがい)付きベッドであった。


 森の中で眠るときは、ゴツゴツした岩場や硬い地面に、シーツ一枚敷いただけだった。

 俺以外の男たちはもっと(ひど)く、馬と一緒に藁を敷いて寝たりしてる者もいた。

 白騎士や聖女様なんかは馬車の中で安らかに眠っておいでだったが、それも最初のうちだけ。魔物に襲われて馬車を失ってからは、みなと同じ境遇だった。


 当時、聖女様は、しきりに俺に馬車での睡眠を懇願していたが、正直、窮屈な馬車内よりも、視界が開けた野外で眠る方が、余程マシだった。

 周囲を警戒しやすく、いざ魔物から襲撃を受けた際にも、咄嗟(とっさ)に反応できるからだ。

 神経が過敏になり、敵勢力が近場でウロウロしている限り、俺は安らかな睡眠を取ることなんかできなかった。


 だからこそ、魔王の軍勢を壊滅させた今、魔王の寝室でゆっくりと眠るのは、極上の気分だった。

 ふかふかベッドの寝心地は、天国にいるかのようだ。

 シーツの触り心地も、本当に気持ち良かった。


 そして、翌朝ーー。


 空を見上げると、晴れやかな青空が広がっていた。


 俺は人々から大歓迎を受けて、もみくちゃとなりながらも、帰還の途についた。

 黄金の馬具や鎧に囲まれた白馬を与えられ、これに騎乗する。

 そんな俺様の傍らを、以前から行動を共にしていた白鎧の騎士レオン、そしてもう一人、白服の女性が馬を()いてくれた。


 俺は馬上から、(くつわ)を引く女性を眺め下ろした。


(おや、これは予想外……!)


 なんと、あの聖女様が生き残っていたのである。

 俺の馬を曳いてくれる白服の女性は、聖女リネットであった。


「生きてたんだ、聖女さん!」


 思わず叫んだ俺に、聖女リネットは伏し目がちにうなずく。

 彼女に代わって事情を説明してくれたのは、白騎士レオンだった。


「勇者様が魔王討伐に飛び立たれた直後、奇蹟が起きたのです。

 王国正規軍が〈漆黒の森〉を突破し、我々の許に大挙して押し寄せてきたんです。

 待望の援軍がやって来て、聖女様を救けてくださったのです。

 もちろん、軍が(とどこお)りなく進軍できましたのは、一重(ひとえ)に勇者様が森に巣食う魔物をあらかた退治し、さらには残る魔物や魔族の大半を引き付けて魔王城へと連れ出してくださったからでしたが……」


 レオンの説明を聞き流しつつ、当時の状況を思い起こす。


 俺は魔王城に乗り込むために、人間パーティーから離れて立ち去った。

 血塗(ちまみ)れになった聖女様を残して……。


 あのとき、聖女様は息も絶え絶えになっていたし、治癒ポーションも俺に手渡して残っていない状況だった。

 だから、てっきり天に召されたものと思っていた。

 ところが、彼女の神への祈りが通じたのか、俺様が立ち去ってからすぐに王国軍が援軍に駆けつけて来てくれたらしい。

 そして、聖女様は軍医から手厚い治療を受けることができた。


 彼女は勇者マサムネを庇った結果、影悪魔(シャドウ・デーモン)に深手を負わされた。

 そのまま、危うく死にそうになった。

 だがしかし、後続部隊が持ち込んだ治癒ポーションを何本も使って、間一髪で生命を取り留めた、とのことだった。


 白騎士からポツポツとそうした事情を聞き出し、俺は(ガラ)にもなく天を振り仰いで、


「神さまありがとう!」



 と感謝の念を口にした。

 ほんと、安心したよ。うん。

 さすがに、リネットは「聖女様」と称されるだけある。

 恥じらいと初々しさがあって良いよ。

 改めて見ると、やっぱ可愛いし、清楚な雰囲気が漂ってるもんな。

 死なれるには惜しい、良いオンナだ。

 やっぱ、女性は人間に限るね。

 騙して殺そうとした女魔王とは大違いだ。


 でも、なんかへんだな。

 今の聖女様、かつてのように俺様の方を見ないし。笑顔がない。

 今現在のリネットのテンション、ちょっと低めだよね。

 もっと俺との再会を祝してくれても良いのに。

 気のせいか、イケメン白騎士も、どこか沈んだ表情してるし。

 周りの人々が目一杯破顔して迎えてくれてるんで、逆に目立ってる。


 ーーでも、そうだよな。

 俺自身、ちょっとどういう態度を取ったらいいか、わからんからな。

 俺様は、聖女様を見捨てた同然の振る舞いをした。

 その手前、気恥ずかしさもあって、どうやって声をかけたらいいのかわからない。


 聖女様の方も、俺様に声をかけるのも遠慮がちにみえた。

 結果、しばらく沈黙が続いてしまった。

 聖女様のみならず、イケメン白騎士までもが目を伏せてばかり。


(気まずいな……そうだ)


 俺は、東京本部との通信機能を再びONにした。


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