◆41 われ、勇者マサムネ、凶悪なる魔王を討ち取ったり!
俺様、勇者マサムネは、いまや廃墟と化した魔王城〈謁見の間〉で困惑していた。
腕を組み、口をへの字に曲げる。
せっかく魔王討伐を果たしたのに、その成果をみなに示すことができそうもない。
魔王の顔が、焼け爛れてしまったからだ。
ほんと、困った。
ナノマシンは肉体を物理的に修復する機能を持っているが、俺のナノマシンは、俺の身体専用である。
(俺様の身体と同じように、ナノマシンで女魔王の顔も修復することが出来れば良いんだけど、なんとか打つ手はーーそうだ。
俺様のスキルに、なんか便利なものがあるかもしれない。
そうそう、まだ使ってない能力があったんだ……)
俺はステータス表を開く。
スキル:鑑定・雷撃・火炎・索敵・加速・飛翔・反射・復元……
そう、これ。〈復元〉だ!
俺は〈復元〉を選択して強く念じ、能力を発動させた。
すると、俺が掴んでいた魔王の首が、うっすらと輝き始める。
そして、輝きが消えた時には、魔王の顔がかなり修復されていた。
どうやらナノマシンのように新たに細胞を形成して新たに肉体を作り出すのではなく、文字通り〈復元〉ーー壊れたモノを、元の状態に時間的に遡る効果があるようだ。
つまり、今、〈復元〉されたこの顔の状態こそが、〈雷炎〉によって破壊される直前の魔王の相貌なのだろう。
すでに雷炎の発する熱に炙られた状態とみえる。
俺は復元された女魔王の顔を、しげしげと見つめる。
(随分と火傷しちゃって……せっかくの美貌が台無しだ)
それでも、どうにかこうにか、女魔王本来の顔相が拝めはする。
両眼を見開き、口が大きく開けられた状態で、驚愕の色を残した表情のままだった。
美しい顔が一瞬のうちに焼け砕けて、首から切断されたことがわかる。
それにしても、雷炎のうち、火炎の働きで焼け爛れたのはわかるけど、なんで首がちょん切れたんだろ。
雷撃の効果によることは、想像つくけどーー。
まあ、それでも、首が残っていて良かった。
爆散していたら、それこそ証拠がなかった。
でもーー。
やっぱり、本来の問題は解決してない。
元々の女魔王の顔を知る者が人間側にはいないんだから、俺様がこの首を翳して雄叫びをあげたところで、魔族の美女を斬殺して得意になってる〈痛いヤツ〉と、俺様が思われるのがオチである。
さらにいえば、長い髪を持って首を上げるのも、なんだか安定しないし、次いで魔王の巻き角を握って首を持ち上げてもみたけど、やっぱどうにも気持ち悪い。
ついさっきまで会話を交わし、挙句、調子づいて俺様を嘲笑ってすらいた彼女が、見るも無残な状態になってしまったのは、いかにも諸行無常にすぎる。
それにーー。
(やっぱ、首を掲げて晒しものにするってのは、なんかグロくねぇ……?)
そんなことを、俺が思い巡らせていると、妙なことに気がついた。
「お!?」
なんと、女魔王の額に、大きな楕円形の物体が浮かび上がってきていたのだ。
そいつを指で摘んで力強く引っ張り上げてみたら、その物体を額から抜き出すことに成功した。
陽光にかざすと、紫色にキラキラと輝く。
まるで宝石ーー紫水晶のようだ。
「おお、ドロップかよ。まるでゲーム世界だな!」
さすがに宝石をドロップした途端、遺体が霧散することはないみたいだが、このドロップした宝石を見せれば、俺が魔王を倒したことが、こっちの人間にはわかるってことだよな。きっと。
よかった、これで魔王の首を掲げる必要がなくなる!
俺様は再びバルコニーに戻り、今度は堂々とした振る舞いでマントを手で払って、胸を張った。
(宇宙レベルでカッコイイ俺様の勇姿、とくとみやがれ!)
俺は一発、盛大に空に向かって雷撃を放った。
ドオオオオンーーと轟く雷鳴とともに、みなが顔をあげて、目を見開く。
城内に押し寄せようとしていた人間たちだけでなく、力無く屯していた、負傷した魔族たちも、いっせいにバルコニーに立つ俺の方に、目を遣った。
いまだ戦禍が冷めやらぬ戦地にあるが、場違いなほどの静寂が、空間を支配する。
そんな中、俺は巨大な紫水晶を右手に掲げて、宣言した。
「われ、勇者マサムネ、凶悪なる魔王を討ち取ったり!」
敵味方、人間、魔族の別なく、魔王城内外にいた者みなが、息を呑む。
そして声のする方ーー勇者マサムネと彼が掲げる宝石に目を見張った。
宝石は、日中にもかかわらず、新たな月でも出たかのように輝いていた。
紫色に輝く巨大な宝石ーーまさにあれこそ、強大な魔力を秘めた、魔王の証だった。
魔王を討ち取れば、紫色の巨大宝石がドロップすることは、この世界の住人ならば、誰もが知っていることだった。
おおおおおおーー!!
人間たちはみな、剣や槍を振り上げ、大歓声をあげた。
中には冑を取って素顔を見せて涙に咽ぶ騎士もいたし、抱き合って互いを讃え合う兵などもいた。
その一方で、いままで頑強に抵抗していた魔族兵たちは、項垂れて、へたり込んでいく。
みなの反応をみて、俺、勇者マサムネは、密かに胸を撫で下ろした。
(よかった……やはり、ドロップした紫水晶の輝きを見ただけで、みなさん、魔王の討伐が現実のものと理解できたようだ)
それにしても、人間ども、異様に盛り上がってんな。
わあわあとした歓声が鳴りやまないばかりか、軍歌みたいなものも聞こえるし、節をとった雄叫びまでが、響き渡っていた。
俺の関知しないところだが、王国軍将兵は今まで、相当魔族に苦しめられてきたのだろう。
そうだよな。
でなかったら、異世界から俺なんかを派遣してもらおうなどと思わないだろうからな。
紫水晶を手にしたまま、俺は深い安堵の吐息を漏らした。
突然、後続してきた王国軍の大将らしき者が、騎上で大声を張り上げた。
「我らが世界を救いし勇者様に、喚呼の礼を!」
続いて、将兵みながいっせいに立ち上がって、雄叫びをあげた。
ウラアアアアアアーー!
声の波動が、天守閣のバルコニーに立つ俺にまで、ビシビシ伝わってくる。
折良く風が吹いて来て、真紅のマントが翻り、陽光が雲間から覗いて、俺の全身とともに紫水晶が輝いた。
俺は腹の底から、熱く込み上げてくるなにかを感じた。
そう、これは昂揚感だ。
全身が震えるほどの歓喜だ。
そうなのだ。
本当に、日本東京から派遣バイトしてきた、俺、勇者マサムネが、魔王を討伐し、一つの人類社会を救ったのであった。




