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◆10 やっぱり、念には念を入れないとね!

「あなたが勇者様でしたか。

 危ないところを助けていただき、ありがとうございました!」


 精悍(せいかん)な顔つきの若者が、俺の前に駆け寄ってきて、挨拶をした。


「わたしの名前はレオンです。騎士をしております」


 白い鎧をまとって、腰に長剣ロング・ソードげている。


「ああ、騎士さんですか。

 俺はマサムネ・トウドウといいます。

 あ! 今は〈勇者マサムネ〉でいいのか。

 まあ、死ななくて良かったね。

 俺様のおかげで……」


 俺が話す途中で、そこに居合わせた誰もが、感極まったような様子で、口々に叫び始めた。


「さすがは聖女様!」


「お見事です!」


「聖女様に祝福を!」


「聖なる乙女、我らの命の恩人」


「聖女様に幸あれ!」


「聖女様」と称される少女に対する賞賛の言葉が、雨あられのように、次から次へと発せられた。


 俺は「聖女様」とか言われている少女の方へ、視線を向けた。


(なんだよ!? 俺様が魔物を退治してやったんだろうが。

 お礼を言う相手を間違えてるぞ!)


 大いに不満であった。

 納得がいかない。


 そんな俺様の様子に気が付いたのであろう。

「聖女様」は、俺に向かって慌てて会釈(えしゃく)した。

 次いで騎士レオンが聖女様を(ともな)って、俺の前にやって来た。


「この方が、リネット様。

 勇者マサムネ様を召喚なされたお方でございます。

 中央神殿において、神官の聖務についておられます」

 リネットと呼ばれた「聖女様」は、輝くような銀髪を(なび)かせ、澄んだ蒼い瞳をしていた。

 その蒼い瞳の色が、白磁のように白い肌に良く映えている。

 森の中に場違いなほど綺麗な白い神官服を纏った少女ーー歳の頃は十六、十七といったところか。


 俺の前に出ると、彼女はほんのりと頬を染めた。

 照れているさまが、なんとも可愛いらしい。


 正直、こういった清楚な雰囲気の女性ーーしかも〈少女〉なんぞと会話を交わした経験がほとんどない。

 遺憾ながら、少々、声がうわずってしまった。


「へ、へえ〜。若いのに偉いんだね、キミは。恐れ入りました」


 言葉とは裏腹に、俺は胸を張って尊大なさまをみせる。

 聖女様は頭を垂れて、謙遜した。


「いえ、私など。

 勇者様のお力添えが無ければ、みな死んでいました。

 本当にありがとうございます。

 勇者様は、私たちの命の恩人です」


「リネット……とか言ったか。

 キミは本当に、物事の道理を良く(わきま)えている。

 見かけ通り、賢いとみえる」


 俺は人々の前で腕を組み、仁王立ちする。

 が、そうした外観上の勇ましさとは反対に、かなりビビっていた。


「勇者様」としての相応(ふさわ)しい態度ってのが、わからない。

 どうにも、上から目線の言葉使いになってしまう。

「聖女様」と呼称される相手に、そんな態度で大丈夫なのか?

 正直、危惧(きぐ)の念を抱いていた。

 加えて、その内心を見透かされないように振る舞おうとして、余計に尊大な態度になってしまう。


 それでも幸いなことに、聖女様は出来た女性だったようだ。


「お褒めの言葉、嬉しく思います」


 リネットは満面の笑みを浮かべて、俺様を見つめていた。

 その瞳からは、〈勇者様〉に対する尊敬の念が、(あふ)れんばかりに発せられていた。


 それでも、他の面々は違う。

 彼らの熱い視線は、聖女リネットに向けて注がれていた。


 彼らは今まで、ともに死線を(くぐ)り抜けてきた仲間同士である。

 だから、見ず知らずの怪しい〈異世界人の勇者〉よりも、その勇者を召喚することに成功した〈聖女リネット〉に対しての尊敬の方が深かったようだ。


 騎士のレオンが、


「リネット様が召喚魔法陣を地面に描いて、異世界に向けて祈りをお捧げしてくださったからこそ、勇者様が召喚なされてきたのです。

 リネット様のお力こそ、我々には必要でした」


 と、みなの意見を代弁すると、(俺様を除く)誰もが強く同意する。

 それでもリネットは頭を横に振った後、周囲を見渡した。


「でも、危ないところでした。

 儀式の途中で、魔物の群れに取り囲まれてしまったのですから……」


 異世界から勇者を召喚するよう王家から依頼されていたのに、なかなか召喚魔法を起動する条件が揃わなかった。

 しかも、召喚に必要な、濃い魔素が漂う場所をようやく見つけたと思ったら、そこは〈漆黒の森〉ーー凶悪な魔物が生息する地域の只中であった。


 召喚魔法の術式を展開するには、優に二、三時間はかかるらしい。

 大勢の騎士や冒険者に守られながら、召喚儀式を始めたものの、すぐさま周囲を魔物に取り囲まれてしまった。


 そのうえ、予定されていた王国騎士団の派遣が急遽(きゅうきょ)取り止めとなったため、召喚の魔法陣が描かれた場所を放棄して、森からの離脱を余儀なくされる始末。


 ところが、今度は魔物が執拗(しつよう)に追い(すが)ってきて、森から出ることすらままならない。

 鳥型や犬型の魔物については、多くの犠牲を払いつつも、なんとか撃退できた。

 しかし今度は、知性をもった猪の魔物に、集団で包囲されてしまった。


 はじめパーティーには八十名ほどの人員がいたのに、すぐさま何十人もの仲間が殺されてしまう。

 リネットもさすがに、全滅を覚悟した。


 そんなときであった。

〈勇者マサムネ〉が颯爽(さっそう)と登場してきたのはーー!


 つまり、勇者を異世界から召喚する儀式を完遂(かんすい)出来なかったが、時間差がありながらも、上手く術式が発動し、見事、勇者召喚を果たした。

 ーーその功績は、すべて聖女リネット様のものだ、という理屈らしい。


(ま、野郎ばかりの集団じゃ、味気ないからね。

 (あが)められるアイドルぐらい欲しくなるさ。

 弱者ゆえの信仰心ってやつだ)


 俺はウンウンと納得しながら、憐れみの瞳を連中に向けた。

 すると、ようやくにして、俺様のおかげで命が救われた、と思い至ったような顔になって、辛うじて生き残った、三、四十人もの連中から、熱い眼差しを向けられた。

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