◆16 面接:白鳥雛の場合
次に、星野兄妹は、もう一人の求職者ーー白鳥雛さんの方に視線を移す。
それにしてもーー。
改めて彼女の姿を眺めると、面接の雰囲気にそぐわない格好をしていた。
藍色のワンピースの上に、派手な桃色の布地をした、端に白いヒラヒラが覗くジャッケをはおっている。
ワンピにもジャッケにも、所々にラメの刺繍が入ってるようだ。
持ってるバックは、ブランド品ーー。
私、星野ひかりは内心、つぶやいた。
(なんだか、いかにも〈お水あがり〉っぽいんですけど……)
兄とともに、手にする履歴書に、目を落とす。
名前は、白鳥雛。
二十七歳……。
(ーーあ、そうなんだ。
さっきの正宗くんよりも、年長さんなんだ。
兄貴と同い年か。
ふうん。
言われてみれば、そんな気がする……)
アラサーまで、あと一歩……。
「二十五歳を超えると、年月の歩みが早いぞぉ〜〜」
と言っていた、〈兄貴の口癖〉を思い出す。
私は首を振って、気を引き締めた。
(今は仕事中よ。集中、集中……)
再び白鳥雛さんの履歴書に目を通す。
(ーーなになに……。
福岡の博多から上京したのは、料理関係の専門学校に進学するため、と……。
そのくせ、料理学校は一ヶ月もしないうちに退学ってーー。
親泣かせだなぁ。
その後、都内中小企業に事務職で就職……)
そこまでの履歴を見て、私は顔を上げ、雛さんを見つめた。
中小企業って言ったって、就職は楽ではなかったはず。
今は一昔前に比べたら就職しやすいっていうけど、それでもパートやバイトならともかく、正社員として会社に入り込むのは難しいはず。
兄の新一と同世代なんだし。
こんな学歴で……。
そんなことを思っていると、まるで私の内心の声が聞こえたかのように、白鳥雛さんが甲高い声をあげた。
「マジで、そんな履歴書じゃ、〈ワタシらしさ〉はちっとも出てないし!」
いきなりの発言で、私は面喰らって黙り込む。
が、兄は問いかけた。
「あなたにとって、〈ワタシらしさ〉とは?」
雛さんは両目を爛々(らんらん)と輝かせ、口を開いた。
「マジもんで、沼にハマってるトコが、ワタシ自身を表してんのよ。
わかる?」
異様に高いテンションで言い放った。
「沼にハマってる」ーー要するに、「のめり込んでる」ところが、自分らしさを表してる、と言っているらしい。
「あなたが、のめり込んでいるものって?」
と、兄が重ねて質問すると、待ってましたとばかりに、雛さんはフフンと鼻息を荒くした。
「ワタシ、〈ホス狂〉なの!
あ、でもね、もう卒業したい、とも思ってる。
マジで、お金いっぱいかかって、ヤバいんだから。
オキニを推すと、キリがないーーみたいな?
でも、あの雰囲気と場所が好きなのよね」
「なに?」
兄がわからないという顔をして、私の方に目を遣る。
なによ、私も知らないわよ、そんな言葉。
首を横に振る。
そしてーー。
「ほすきょう……??」
と、私も雛さんの発した言葉を鸚鵡返しするしかない。
すると、再び、「その問い、待ってました!」とばかりに、彼女は声を荒らげた。
「決まってるじゃない。
〈ホスト狂い〉の略称よ!」




