◆17 やっぱ、崖っぷち? 本人だけが気づいてない……
わが社、東京異世界派遣株式会社に求職中の白鳥雛さんは語った。
自分は、ホスト狂いの〈ホス狂〉だと。(正確には、「もう卒業したい、とも思ってる」のだそうだが)
そう宣言した後、彼女の滔々(とうとう)とした大演説が始まった。
それは、彼女の日常生活を髣髴とさせる、一代ホスト遍歴の歴史だった。
あまりに長い話になるので、ご両親との確執などの詳しい事情は割愛して、かい摘んでまとめるとーー。
地元福岡で、彼女には親の決めた許婚がいたんだけど、婚約破棄して上京。
下宿先が新宿近くであったのが運の尽き。
女友達の誘いで、ホストクラブに通い詰めることになった。
企業での事務職も、ホスクラに通う資金稼ぎの方便にすぎなかった、とのこと。
ちなみに、白鳥雛のイチ推しのホストは、決まってオラオラ系(?)だったらしい。
「俺を漢にしてくれ!」
というホストのセリフを聞くたびに、彼女は金を貢ぎ続けたという。
好きなホストが店でNO・3だったから、彼をなんとかNO・1ホストにしてやろうと、とにかくシャンパンをあけにあけまくって、貢ぎまくったそうな。
当然、中小企業のOLでは、すぐさま資金が枯渇する。
だから、夜はガールズバーなどでバイトして、仕事の掛け持ちをする。
そんな状態で、寝不足が続き、職場で居眠りばかりしていたので、〈ホスト狂い〉が「会社バレ」して、失職。
ついには、
「ヤバい。このまんまじゃ、さらに沈んじゃう!?」
って危機感を持ったときに、この派遣会社の住み込み仕事を知った、という。
(う~~む、凄まじいまでの崖っぷち……)
(だから、求職にこれほどの熱量を持ってるのか……)
私たち兄妹は二人して腕を組み、唸るしかなかった。
大演説を終えると、頭を深々と下げ、白鳥雛さんは叫ぶ。
「お願い! 住まわせて。仕事下さいッ!!」
たしかに、文字通り、生活がかかっている彼女は、熱心に仕事してくれるかもしれない。
けれど……。
ためらって、言葉が出ない星野ひかり(私)に代わって、兄の新一が気になってることを口にした。
「白鳥さん、ひょっとしてオトコいたりしない?
本来、私生活をどうこう言うのは趣味じゃないけど、いちおう、ウチに来るとなれば部屋住みなわけだし……」
うんうん、と私も激しくうなずいた。
すると、雛さんは今にも泣きそうな表情になり、
「そんな心配、いらない。マジで!」
ときっぱり答えた。
「ええ? そうなの!?」
私は驚きの声を上げて、確認をした。
雛さんのような容姿と性格だったら、絶対に今でも男に操られていそうな気がしたから。
念押しするように、
「信じていいのね?」
と私が訊くと、雛さんは目を潤ませて、コクリとうなずいた。
そして半泣き顔で、
「ワタシ、マジでヤバい。呪われてるんです……」
と消え入るような声でつぶいた。
「どういうこと? なんか怖いわ」
私は一瞬、背筋が凍る思いがした。
目の前でーーそれもコッチの現実世界でーーオカルトな話を聞いたことがなかったので、胸がドキドキする。
それなりに可愛らしい容姿の雛さんを、マジマジと見つめてしまった。
兄は不思議そうな表情をして、彼女に問いかけた。
「君は呪いを信じているの?」
「もち、マジでヤバいんだって、呪いは!
だって、ワタシ、今まで何人も、王子をNO・1に育てたんだよ。
エースだったの、ワタシ。あ、担当ホストの太客ってこと。
でも、NO・1になったとたん、王子がみんな変わっていくの。ヤバくね?」
要するにーー彼女が貢いだホストたちはみな、傲慢になって身を持ち崩したり、身を固めるとか言って、よその女と結婚したりして、歌舞伎町から姿を消してしまう、という。
「結婚はワタシとするって、王子はみんな言ってくれてたしぃ……」
なかには心療内科のお世話になり、ホストを辞める男もいたそうだ。
白鳥雛さんは涙目になって、項垂れる。
「おかげでワタシ、歌舞伎町では〈プリンス・キラー〉ってゆう異名を持ってんの。
マジで怖がられてんだよね……」
私は兄と目を合わせ、小声で耳打ちした。
「どこまでが本当で嘘なのかわからないけれどーー。
ただひとつわかることは、雛さんからホストが逃げていなくなる、ということよね……」
兄は私の発言に目を瞬かせて同意を示すと、雛さんに向き直って、優しく声をかけた。
「おそらく、それは呪いではないと思いますよ」
思いがけず気遣ってもらえて、雛さんは意外そうな顔をする。
それでも幾分、訝しげに、上目遣いになった。
「マジで、そう信じられたら、良いのだけれど……」
今度は、私が雛さんの手を取って、軽く叩いた。
「大丈夫よ。雛さん。私も呪いなんて違うと思う」
彼女は口からハァと息を漏らして、ぎこちなく返答する。
「ありがと。少し自信持てた。
ワタシ、今まで、いろんな王子を育ててきた。
だから、オトコ見る目には自信あんの。
ーーそれが私の特技。マジで」
雛の答えを耳にして、私は彼女から手を離し、表面的に笑顔を作る。
(オトコを見る目ってーー全員に逃げられてるのに……)
口に出かかった言葉を、慌てて飲み込むしかなかった。




