◆13 地下の大食堂
向かった先は、地下に広がる大食堂だった。
私、星野ひかりを先頭に、ゾロゾロと四人の男女が、一列に並んで廊下を歩く。
地下へと延びる階段を降りて、頑丈な鉄製大扉を開けた。
視界が大きく広がった。
その瞬間、私のすぐ後ろを歩く男性求職者が、ヒュ〜と口笛を鳴らす。
次いで、その後ろから、女性求職者が甲高い声をあげた。
「なにコレ。ヤバくない!? マジで、人も物もいっぱいじゃね!?」
私は胸を張って、紹介した。
「ここが、わが社の地下一階。大食堂です」
木造二階建てボロアパートのような外見からは、想像もできないほどの広大な地下室が拡がっており、そこには、わが社が誇る大食堂があった。
実際、この食堂こそが、この会社で一番の実績をあげているといっても過言ではない。
それほど利益をあげていて、連日、飲み食いする客でごった返していた。
地下にあっても、昼間のような明るさだ。
それもそのはず。
異世界から取り寄せた〈光明石〉を、天井や壁のあちこちに填め込んでいるからだ。
光明石はみずから光を放つ魔法の石で、しかも、時間が経つと光の色が微妙に変化して、飽きさせない仕様になっている。
食堂自体の広さは、百畳ほど。
広い調理場は、客席ホールから見えるように開かれていている。
調理が出来次第、料理が調理場と食堂の境界線にあるカウンターに置かれる。
これを客がセルフ・サービスで受け取り、自分の席へと持ち運ぶ。
ちなみに、お客さんはすべて、異世界からの訪問者だ。
この地下大食堂は、〈異世界の住人たち〉のための食堂である。
緑や赤の硬質肌をした、トカゲと人間の中間であるリザードマンたちが、大皿に盛られた〈昆虫唐揚げ〉を、舌なめずりしながら食べている。
リザードマンの親類で、蛇と人間の合いの子であるスネークマンも、身を寄せ合って、山盛りの河豚を生で食べている。
彼らは自らの頭に毒を持っているほど毒耐性が強く、河豚の毒程度にはやられないのだ。
ほかにも、半人半獣の種族や、一本角を生やした人喰いオーガ、背の低い地下種族などもいる。
地下種族の中では、ドワーフが有名だ。
彼らのたいがいは、百歳を超える白髭の爺さんのような姿をしている。
もっとも、そんな相貌ながら、彼らはみな筋肉隆々だ。
鍛冶職人が多く、日夜作業に明け暮れているから、身体が鍛えられているのだ。
彼らは今日も集団で、真っ昼間から、猪肉を肴に大酒を喰らっている。
食堂ならではの喧騒とともに、異様な雰囲気と匂いが充満していた。
そんなドワーフの隣り合わせの丸テーブルを陣取っているのが、彼らと犬猿の仲であり、ドワーフ以上の長命種でもある、エルフたちだ。
彼女らはほっそりとした身体つきをしていて、いずれも美男美女だ。
尖った長い耳が特徴で、自然を愛し、弓矢をよくする。
彼女らは菜食主義者なので、肉や卵だけでなく、乳が入った食物も受け付けない。それでも、それぞれの鉢に盛られた有機野菜サラダに、舌鼓を打っている。
東京で、異世界人たちが、気軽に食事できるのはこの食堂ぐらいだから、食事時になると連日満員になって当然なのだ。
東堂正宗も白鳥雛も、驚いて、両目を見開いていた。
「ヤバい。マジで異世界してんじゃん……」
「俺、断然興味持ったわ! 宇宙レベルで」
白鳥雛が小さくつぶやき、東堂正宗は目を輝かせた。
うん。
これだから、若者は良い。
ーーそう思って、私たち兄妹は、胸を撫で下ろした。




