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楽しいお茶会

本日は18時にも投稿します。


 社交シーズンも終わり、木々の緑が赤く色づき始めた。心地よい涼風を頬に感じながら、王宮のガーデンテラスでお茶会が始まった。

 

 本日開かれているお茶会は、年若いご令嬢方の集まり。花のように美しいドレスを身に纏った令嬢達は、座した姿も凛としていて絵画のように麗しい。しかし、刺々しい雰囲気がそこはかとなく漂っている。

 

 このテーブルに座る五人の内三人は、かつて王太子妃候補だったという令嬢方。フェリシアへ好意を抱いていない最たる令嬢方だろう。なにかと大変なテーブルであることは間違いなさそう。


 お茶会の大きな役割のひとつは、貴族間の情報収集の場である。フェリシアはこの場で少しでも多くの会話をし情報を得て、今後の関係性を見極めるつもりだ。



「今回の席では、モントクレイユのお茶をご用意いたしました。せひ、皆様にも香と味をお楽しみいただきたいのです。」


 令嬢方が少しでも和んでくれますようにと祈りながら、フェリシアはお茶をすすめた。


 まずフェリシアが口に含む。すると、次々に令嬢方も口を付け始めた。お茶は嗜好に合ったようで、令嬢方の好ましい感想に、フェリシアはホッと胸を撫で下ろした。


 刺々しい雰囲気がほんの少し和らいだ中、最初に口火を切ったのはセシル嬢。フォンティーヌ侯爵家のご令嬢で18歳。アルベルトのお妃候補だった一人。参加者の中でも一番手強そうだ。


「昨シーズンの話題は、やはり王太子殿下のご結婚でしたわね。次の社交シーズンではどのようなお話が聞けるのかしら。」


 年若い令嬢が集まるテーブルだ、この手の話題が出るのは当然だろう。けれど、セシルの言い方には棘がある。次のシーズンには離縁かしらと続きそうな言い方である。


 せっかく和らいできた空気に不穏な翳が襲ってくる。何か楽しい話題を提供して来襲を躱さなければ、とフェリシアは意気込んだ。


「皆様はこの時期を普段どのようにお過ごしになるのですか。わたくしエーヴェルトに嫁いで間もないので、よく存じあげませんの。エーヴェルトでの楽しい過ごし方を教えて下さると嬉しいわ。」


 令嬢方の過ごし方によってはお誘いに乗れるかもと、フェリシアはにんまりした。高位貴族の令嬢方とは、仲良く出来るものならしておきたい。


「この時期の楽しみ、と言ったらスパイ活動ですわ。」

「スパイ活動?とは、何ですの?わたくしにも教えて下さいませ。」


 漸く楽しい話題になりそうだ――フェリシアは期待に胸が高鳴った。

 美しいアイスブルーの瞳がキラキラと輝きはじめる。


「次のシーズンへ向けた準備ですわ。雑草は早めに刈り取るようにしておかないといけませんから!」

「えっ、セシル様、それはどういうことですの?」


 目の前の令嬢が物騒なことを笑顔で話している。


「どういうもこういうも、この時期にすることはまず情報集めです。今までとは比べ物にならない程ドレスを何枚もオーダーしたり、豪華な宝石を購入すれば、その資金源が気になります。異国の製品を沢山取り寄せていれば、その繋がりが気になります。羽振りが良くなる方には、たいてい何かしら理由があるものですから。変に力など持たれると厄介なタイプの方もいますから、早々に刈り取る準備を進めるのです。アリシアとジャスリンは収集だけでなく、情報作りや操作もお上手なのよ。」


 セシルをはじめ、二人の取り巻きも楽しそうに頷く。


「わたくし達だけでなく、こちらのシャーリー様やクリスティーヌ様も集めていらっしゃるはずよ。お二人とも優秀な子飼いを抱えているものね。わたくし存じ上げておりますのよ。」


 どうやら、このテーブルのご令嬢たちの情報量は半端なさそうだ。


「皆様、たくさんの情報をお持ちでいらっしゃるのね。殿方についてもたくさんお持ちなのでしょう。ご婚約はまだお考えではないの?」


 大好きな恋の話題が自然と零れた。

 令嬢方が怪訝な表情を浮かべる。


「それは…、元々わたくし達は王太子妃候補として育てられましたから。今さらですわ!」

「何をおっしゃるの、クリスティーヌ様。あなたはわたくし達と違って、未だに王太子殿下に近づく機会を得ようとしているそうじゃない。」


 なんだか雲行きが怪しくなってきた。


「わたくしの理解が及ばず申し訳ないのですが…、セシル様とシャーリー様はすでに誰かをお慕いされているけれど、クリスティーヌ様は今もなお王太子殿下をお慕いされているということですか?」

「セシル様のことは存じ上げませんが、わたくしにはその様な男性はいませんわ。」

「わたくしは居りますわ。王太子殿下の妃候補ではなくなったのだもの、もう自分の気持ちに嘘をつく必要はありません。」


 セシルの取り巻きのアリシアとジャスリンが、目を大きく瞠き固まってしまった。


「まあ、ではセシル様はずっと秘めた想いを抱えてお過ごしになっていたのね。一体どなたを?」

「フェリシアさま、それは申し上げられませんわ。でも……引きつけるための牽制も必要ですね。実は――、ベルナルド侯爵家のレオン様ですわ。」


 何とまあ、楽しいお茶会なのだろう。

 

 フェリシアはその後、セシルがどういう経緯でレオンを意識するようになったのかに加え、アリシアとジャスリンの慕う相手も、しっかりと聞き出した。


 大好きな恋の話が出来る素晴らしい席だった。情報の取り扱いには長けているセシルが、恋バナを簡単に披露したということは、きっと、レオンとの恋を成就させたいのだろう。


「セシルさま、わたくしとお友達にならない?王太子補佐官として働くレオンに近づけますわよ?」


 フェリシアはセシルの恋路に協力しようと思った。

 刺々しい話し方は、きっとそういうタイプの人なのだろうから慣れればいいだけだ。


「セシルさま、素敵な話を聞かせてくれてどうもありがとう。とても楽しい時間だったわ。」


 こうしてフェリシアは、セシル、アリシア、ジャスリンと友達になった。





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