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ラズーン 5  作者: segakiyui
5.宿敵

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60/131

3

「だめじゃ」

「え?」

 予想もしていなかった答えに、ギヌアは呆気にとられて『太皇(スーグ)』を見つめた。

 その頃アシャは視察官(オペ)として『氷の双宮』を離れつつあった。姿を見せなくなった第一正統後継者に、僅かながらも不審が囁かれ始めていた。『太皇(スーグ)』がアシャの才能と人望に恐れを抱いて、密かに放逐しようとしている、そんな噂さえ流れかけていた。

 時は満てり。

 ギヌアはそう踏んだ。意気揚々と、けれど表面は深刻を装って粛々と、『太皇(スーグ)』に、アシャ不在で人心が惑う中、自分をこそ第一正統後継者にしてくれるように具申した。

 だが、『太皇(スーグ)』は、その願いを一言のもとに撥ねつけた。

「…どうしてですか」

 零れた疑問はまっすぐに投げかけられた。真実、なぜ拒まれるのか、ギヌアには全くわからなかった。

「お前はアシャに勝てておらん」

 『太皇(スーグ)』のことばは冷酷だった。

「アシャより劣っている者を、アシャが権利を棄てたと言って、その場所へ据え直すことはできん」

「では、ラズーンはどうなるのです!」

 ギヌアは激しく言い募った。

「後継者がいなくなれば、滅びてしまうではありませんか!」

「滅びはせぬ、が、『ラズーン』は無くなるかも知れぬ」

「そんな馬鹿な!」

「仕方あるまい」

 たった1人の後継者がその座を離れたからと言って、国そのものが失われてたまるか。それではギヌアや他の正統後継者に何の意味がある。『控え』でさえないというのか。

(馬鹿な……馬鹿な!)

 あいつ1人のために、このラズーンを滅ぼすだと?

「『太皇(スーグ)』! あなたは根本から間違っておられる! だがあえてお尋ねしよう、私のどこがアシャに劣っておりますか?」

 形は問いだが、意味は糾弾だ。

 だが、相手は動じた素振りさえ見せなかった。

「剣一つをとってみても」

「剣? 剣だと?」

 は、とギヌアは嘲笑した。

「それこそ馬鹿なことだ、私とアシャが立ち会って、あいつが勝てた試しなどない!」

「練習では、な」

 『太皇(スーグ)』は白い髪と髭に覆われた顔の奥から、深い瞳でギヌアを見つめた。

「真剣で立ち会ったことはあるのか?」

「…」

 ことばに窮した。

 世の噂はアシャの凄まじい戦士振りを、物陰で密かに伝えていた。ギヌアが『炎』と呼ばれれば、アシャは『息をも凍らせる冷気』と囁かれた。ギヌアが激烈に敵を屠ると言われれば、アシャは冷酷に敵を滅すと謳われた。

 そして何より、ラズーンに相対する敵が真の恐怖を持って語るのは、必ずアシャ・ラズーンの方だったのだ。

 それを真に受けていたわけではない。

 ならばなぜ、今まで真剣勝負を挑まなかったのか。

 『太皇(スーグ)』の瞳の色に、アシャと同じ気配を感じ取った。

 わかっているのだ、お前は、と。

 真の勝者が誰なのか、想いを馳せる前から理解しているのだ、と。

(そんな、馬鹿なっ!)

 ギヌアは髪を逆立てて、『太皇(スーグ)』の前から辞した。


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