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ラズーン 5  作者: segakiyui
3.魔手

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39/131

16

「レス……? レス?」

「う…ん……」

「やれやれ…」

 くすりと笑って、ユーノはベッドに丸くなって寝息をたてているレスファートの体に、起こさぬようにそっと掛け物をかけてやった。声をかけても微かに身動きし寝返りを打つだけ、ついさっきまで、今度こそ絶対にユーノと一緒に行くんだと言い張っていた少年は、もう起きているのが限界だったのだろう、ぐっすりと深く眠り込んでいる。頬や額にプラチナブロンドを乱し、小さく開いた唇が動いて、ユーノ、と寝言を紡ぐ。

「これでまた、黙って出かけるんだからな」

 また帰ってきた時が大騒ぎだ、と苦笑する。

 戦いに出かけることは苦にならない。各種の危険も覚悟している。

 だが、レスファートのような綺麗な子どもに泣きながらしがみつかれると、どうして扱えばいいのかわからなくなって困る。温かい吐息を耳元に吹きつけられ、ぎゅっと首にしがみつかれると、レスファートを置いて旅立つ自分がひどく悪者のように思えてくる。

「…必ず帰ってくるからね…」

 そんな確証など、これっぽっちもないことを十分知りながら囁いて、ユーノはちょんとレスファートの頬を突いた。

 何せ、今度は相手が相手、ラズーン四大公の1人が裏切っているかも知れないのだ。もしそれがアギャン公だとしたら、ユーノ達は真昼にかまどに飛び込むリュガ同様、自ら餌になりに行くようなものでしかない。

 今頃、アシャもリディノに泣かれて困っているだろう。

(アシャ…)

 荷物をまとめていた手をふと止める。

(神様も結構残酷なことをなさる)

 これからレアナが同行し、レスファートとイルファを連れる旅の日々で、ユーノとアシャが2人きりになる機会など、まずないだろう。このミダスの屋敷内でさえ、慣れない場所でレアナが不自由を感じないようにとの配慮で、アシャはレアナに付き添っていた。ましてや、ここを離れ、セレドに戻る旅の空は、動乱の世界を横切る危険なもの、アシャがレアナの側を離れるなどありえない。

 ならば、今度のアギャン公分領地へ向かう旅が、ユーノがアシャと2人になれる最後の機会かも知れない。

(2……2人か)

 くく、と自嘲に口を歪める。

(2になったからと言って、何がある)

 レアナに付き添うアシャ、その2人の柔らかな陽射しを思わせる気配。

 リディノと話し込むアシャ、その親密で温かな空気。

(私といるアシャは…)

 殺気立っているか、からかってくるか、警戒しているか、怒っているか。

(……喧嘩、友達、ぐらい、だよな…)

 寄り添えればよかったのだろうか。甘えればよかったのだろうか。無邪気に何も考えてないふりで、珍しい話に目を輝かせてみればよかったのだろうか。

(切ないだけだ)

 手に入らないものを、壊さないようにそっと包み守るだけしかできない。

「!」

 ふいに殺気を感じた。扉の方を振り返りながら、右手は既に剣に滑っている。

「誰だ」

 誰何は間合いを詰める時間を稼ぐためのものだ。身構えながら鋭く問う、が。

「…ジノです」

「ジノ…?」

 依然殺気が漂ってくる方向から、聞き慣れた声が響いて、ユーノは眉をしかめた。ジノから放たれるとは思えない気配、だが見抜かれていると気づいただろうに、なおも消えない殺気に、目の光を強めつつ、問いかける。

「何の用?」

「………お話が」

 姿を見せない相手からの殺気はますます強まる。ただの『お話』ですみそうもないのは、火を見るよりも明らかだ。

(だが、なぜだ?)

「レスがいる」

 じり、と少年を庇う位置に移動した。

「込み入った話なら、明日にしてくれないか」

「明日には、あなた方が発たれてしまいますので」

 何が何でも今夜ケリをつけなくてはならない、そう響いた。

「……わかった」

 ユーノは頷いた。

「じゃあ、外で」

「花苑でお待ち致します」

 気配は素直に移動した。

「……ちょっと行ってくるよ、レス」

 小さく呟いて、ユーノは花苑に向かった。

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