↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラズーン 5  作者: segakiyui
2.暗雲

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/131

5

「……ふぅ」

 アシャがじっとユーノを見つめ返していた視線をふっと落とした。俯きがちにもう一度吐息を重ねる。

「……仕方ない」

「じゃ、いいんだね!」

「…少々荒っぽいぞ」

「え?」

 するっとアシャの手が左腕を滑った。微妙に持ち方を変えられて、体の中に警告音が鳴り響く。危険を察して身を引いたときは遅かった。勢い良く、しかも容赦なく一気にねじ上げられる。

「ぅあっ!」

 ざくっ、とどこかがねじ切られたような激痛に思わず悲鳴を上げた。頭の中心を巨大な真っ赤な刃が断ち割り、身内の肉を抉ってズッポリと闇へ落ちる。吐きそうになった意識に、遠くアシャの声がくぐもって響く。

「ギヌアを甘く見るんじゃない。俺と同じく、正統後継者だった男だ、確実にここを狙ってくるぞ」

 落ちそうな意識を保つのに必死に呼吸を繰り返す。耳鳴りがして体が保てない。

「今みたいに扱われてみろ、剣を使うまでもなく、あっさり身動きできなくなる。その後は」

「……う…ん…」

 口にされなくとも、自分の未来は見えた。粋がってギヌアに突っ込み、一太刀浴びせるどころか、剣を手にするまでもなく、左腕を引きずられて踏みつぶされ肉塊となる姿。それならまだしも、『運命(リマイン)』と同化させられたりしたら、もっと不吉で苦しい命が待っている。

「…ご…め…」

 謝る声がもやもやと消えた。体を包まれ、抱きかかえられた感覚、続いて左肩にひやりとした塗り薬の感触、丁寧に塗り伸ばされた後に包帯が巻かれていく気配。緩くもなく、きつくもなく、しっかりと、だが動きやすいように。

 夢現でそれらを追いながら、また情けなくて惨めな感覚が広がる。

(どうして、私は)

 いつまでたっても、アシャに迷惑しかかけないんだろう?

(もっと強く、ならなくちゃいけないのに)

「……よし、いいだろう」

 声をかけられ、瞬きして顔を上げる。

 予想していた以上に近い場所にアシャの顔があった。しっかり抱え込まれた体は安堵して穏やかだ。このままずっと、この腕の中に居るのは、きっと幸福だろう。

(でも、この腕は)

 滲む視界に顔を歪めて、慌ててアシャの膝から滑り降りた。

「っ」

「まだ痛むか?」

 背後から、さすがに心配そうなアシャに、きゅ、と唇を噛んでから振り返り、できるだけ冷たい一瞥を投げる。

「誰がやったんだよ」

「仕方ないだろ、お前が無茶を言うから」

 アシャはほっとしたのだろう、からかうような笑みを唇に広げた。

「ボクのせいなのかよ」

「やりたくてやったわけじゃないぞ」

 今やアシャはユーノとの会話を楽しむような顔だ。

 そうだ、アシャはきっと変わった。

 以前のアシャなら、ユーノの憎まれ口に返事しながらも、少しは心配そうな目の色をしてくれていた。けれど、今目の前に居るアシャは、ユーノの強がりを楽しんでいる。さっきの遣り口だって、旅の途中ならあそこまでしなかっただろう。

 左肩のずきずきとした痛みはまだ消えないのに、アシャには、ユーノが気を失いかけるほど痛かったことを、気にしている表情はない。

(守ってくれなくなった、んだ)

 皇女の付き人としての役割が消えた。何があってもユーノを守ろうとする、その姿勢がなくなった。

(守る人が他にできたから)

 けれど、その代わりに、アシャはユーノを違う形に変えようとしている。自分がいなくても、ユーノが生き抜けるように。自分が守れなくても、闘えるように。

(付き人じゃなくて、同じ仲間、として)

 それは、背中を預ける相手と考えてくれているという『信頼』なのかも知れない。だから、ユーノはその『信頼』を嬉しいと感じなくちゃいけないのかも知れない。アシャの『信頼』はきっとかけがえないものだ、この先ずっと揺らぐことのないものだ。そしておそらく、レアナもリディノも、その『信頼』を得ることはない。ユーノだけが受け取れる、アシャの心。

(けど)

 けれど、それは。

(私が欲しいのは)

 波立つ胸に唸った。

「……わかった」

「何が」

「ボクを苛めて楽しんでるんだ」

「誰のことだ」

「アシャのこと!」

 言い捨ててユーノは部屋を出た。

 嬉しいのか哀しいのか、わからなくなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。