16.
「あのね、木の根っこをガシッて掴んでぐるんってなってまた根っこ掴んで登ったんだよ!」
ジェフは目を輝かせて自分の雄志を一生懸命に伝えた。それから少し落ち着いたのか、タカオを不思議そうに見た。
「なんで泥だらけなの?」
ジェフの言葉でタカオは大切な事を思い出した。
「そうだった!グリフが変なんだ!」
そう言うと慌てて坂の下に降りて行った。小川はすでに消え去り、水が通った後と、小さな水溜まりがいくつかあるだけだった。
タカオはなかば足を滑らせながら降りて行く。するとグリフはうつ伏せのままで倒れていた。
「グリフ!」
タカオがグリフを抱きかかえるように仰向けにすると、グリフの顔は青白く意識がなかった。イズナは坂を滑り降りてくると、グリフを見て渋い顔をした。
「さっきグリフを転ばせたせいで、それから様子がおかしくて……」
イズナはグリフの首に手を当て、ため息をついた。
「謝ることない。そろそろだと思ったから」
イズナは静かに言った。
「そろそろって、どういう意味?」
タカオがそう聞いた時、ジェフも重たい荷物を担いで心配そうな顔で降りてきた所だった。
イズナは大地色の瞳をタカオに向けて、はっきりと言った。
「普通なら、もう死んでる」
一瞬、タカオもジェフも言葉を失った。
「グリフ、助からないの?死んじゃうの?」
ジェフは自分で言葉を発する度に、その言葉の恐ろしさで泣いてしまいそうだった。
「サラから受けた傷が深すぎたの。何回も止めたけど……もう今から街に戻っても助からない」
表情は変えないけれど、イズナのその言葉からは深い悲しみと、グリフを止められなかった後悔がにじみ出ていた。タカオはグリフを抱えている自分の手が、血だらけになっている事に今さら気がついた。
「どうして……」
グリフの背中の傷は、治るどころではなく悪化していたのだとタカオはやっと理解した。
「グリフは最初から死ぬつもりだった」
イズナはグリフがコートの下で掛けていた鞄を外しながら言った。ジェフは信じられないような表情でイズナをみる。
「どういう事?死ぬつもりなんておかしいよ!グリフはいつだってみんなを守って……」
ジェフの言葉をイズナは遮った。その顔は苦しそうにグリフを見つめていた。
「違う。タカオが現れた夜から、グリフはタカオ1人を守る為に死ぬ事を覚悟してた……じゃなきゃ、こんな、助からない傷を負わない。いくらでもかわせたはずなのに」
イズナが泣いているように見えたが、それはタカオの見間違いだった。けれど、イズナは自分が傷を負っているように苦痛に顔を歪めた。
「少ない時間でも、タカオを守りたかったんだと思う」
イズナはため息をつくようにそう言うと、その場に座りこんだ。足の力が抜けてしまったみたいに。
「どうして?なんでタカオなの?グリフはいっつも冷静なのに、こんな無理するなんて……変だよ」
そう言うとジェフもグリフのそばにしゃがんだ。タカオもグリフが何故、自分の事を守るのか理由が分からなかった。あんなに嫌われていると思っていたのに、こんなに無理をしてまで、何故なのか。




