9.
精霊によって町が壊された。タカオはその時、大きな矛盾を言わずにはいられなかった。
「それって、おかしくないか?精霊は森を守っていたって……それなのにどうして町や村を襲うんだ?」
グリフは木の根本に腰を降ろすと、少し眉間に皺を寄せて言った。
「理由はいまだにわかっていない」
タカオもグリフの横に座った。タカオが座るとグリフは話し始めた。
「この森は昔、王家と四大精霊によって守られていたんだ。森にはエルフやドワーフや色々な種族がいたが、ゴブリンやレッドキャップのような闇の者は、その存在すら誰も知らなかった時代だ」
グリフは淡々と話をする。時折タカオの知らない言葉が出て来たが、話を遮りたくなくて聞くのを我慢した。
「それは、四大精霊と大地の契約を交わした王子が存在していたからだ。王子の力には誰も太刀打ち出来なかった。けれどある日、闇の者が現れると森は変わってしまった」
グリフは無表情で語るが、王子の話になると静かに怒りを押し殺すように眉間の皺が深くなった。
「闇の者は各地で村や街を襲っていた。同時に水の精霊が街を襲う事件が起きて、王はすぐに生き残った者達の為に移住施設を建設させたんだ。そこに重要な人物も移住施設に送り、闇の者の手に落ちないようにした。それがエントとサラだ」
グリフはそこで話を切ると、少しのあいだ遠くを見ていた。
「王は闇に打ち勝とうとしていた。もちろんエントも。けれど、王子は姿をくらませて王都には戻らなかった」
グリフはそこまで言うと言葉を切った。その瞳は悲しく地面を見つめていた。
「王都が襲われてから、しばらくしても王子は戻ってこなかった。誰もが言ったんだ。王子は逃げ隠れたと。俺達を裏切ったと」
その話をすると、ジェフもイズナでさえ、悲しそうな顔をする。そして、静かに言う。
「水の精霊が何故、街を攻撃したのか理由は分からない。その後も水の精霊に襲われたという村や町は続いた。それから、王が殺された後に、"精霊殺し"が行われたという噂が出た。精霊を闇の者と思う者が出始めて、精霊自体を恐ろしいと思う者がいることもたしかだ」
タカオはその時、あの移住施設にいたガラを思い出していた。他の精霊と同じようにサラも殺すべきだと叫んでいた。あのガラを。
「あれから100年ほど経つが、森はあの時から何も変わっていない。王家が滅んだ時のまま、何一つ変われないんだ」
グリフの話はそこで途切れ、終わったようだった。
「100年か……ん……?ということは、サラもエントもそんなに長く生きているのか?」
タカオは驚いて最初の主旨をすっかり忘れていた。ジェフはタカオの驚いた顔を見て、呆れたように言った。
「種族によって寿命が違うんだよ。当たり前でしょ。エントは森の番人だからね、たぶん……この森で一番長く生きてるよ!何千年なんだろうね。本人もきっと覚えてないんじゃないかな」
ジェフはあくびをしながら、そんな事は普通だというように言い放った。
何千年も生きるだなんてどんな気分なんだろう。タカオは途方もない事を考えながら、色々な疑問が浮かんでは消えていった。




