10.
黒々とした炎がのしかかり、それはタカオを包もうとしていた。それには重さもなくなりはじめ、今ではサラではなく、禍々しい何かに変わりつつあるようだった。
実際に炎に包まれていたのは、サラに傷つけられた左腕だけだとタカオは気がつくと、その傷つけられた腕をゆっくりとサラに差し出していた。
一瞬、サラはその黒い炎を揺らめかせたけれど、差し出された腕を掴むように炎で包んだ。タカオの腕の包帯も黒い炎で燃える。痛みより、サラの黒い炎がタカオを苦しめていた。
腕はサラに差し出したまま、タカオはゆっくりと立ち上がる。それでもジェフが足にしがみついている感覚がある。
後ろでグリフが「やめろ」と叫んでいる声も聞こえる。倉庫の入り口で、悲鳴にならない叫び声も届いている。
タカオの腕は血を流しながら黒い炎で焼かれていた。けれど流れた血は一滴たりとも床には落ちていなかった。全てサラが飲み込んでいた。
タカオの左目はいまだ熱を持ったままだ。左腕はサラの炎で焼かれ、左目には強烈な痛みが走る。思わず右手で左目を押さえる。サラに顔を背けるように。
すると突然、何かの声が体に響くように聞こえた。
――大地の契約は、成立した――
それは声というよりもサラからでた振動によって伝わった。床を伝い、空気を伝い、そこにいた全ての者に伝わった。
押さえていた手をはずし、痛む左目をやっと開けてタカオはサラを見た。真っ黒のくぼみでしかなかったサラの目が、目覚めたように開かれた。それは黒い炎の中で黄金に輝いていた。
タカオの左目にはもう熱も痛みもない。そして、それは自然に口から出た。
「お前の魂は、いつも私と共に生き続ける。サラマンダー」
まるで、自分ではない何かに操られているかのように、言葉を発し、サラの炎から腕を引き抜いていた。タカオは、自分が放った言葉の本当の意味も知らなければ、サラの名前をなぜ知っているのか、それについても知らぬまま言っていたのだ。
黒々とした炎のサラは、その炎の中心から青く美しい炎を放っていた。その青い炎が禍々しい炎を蹴散らしたようにも見えた。
サラの青い炎は少しづつ小さくなっていき、最後にはタカオの両の手のひらに収まるほど小さくなった。それから突然爆発したように暖かい風が素早くタカオ達を通り過ぎる。それは、緑色の旋風だった。
あまりの風の勢いに誰もが身構えて目を固く閉じる。やっと目を開けると、サラはどこにもいない。
床には大きな白い卵だけが、ごろん、と残されていた。




