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3話


朝の教室に、おはよー、という挨拶をする女の子の声と、男の低い挨拶と、教室の扉が開く音が交互に、そしてエンドレスに聞こえる。

隆は机に顔に突っ伏して、半分寝ぼなつつ、クラスのざわめきを、聞いて流していた。

昨日柏木と別れ、家に帰った後、布団に入った隆だが、いざ寝ようしてもなかなか寝付けなかった。

 頭が冴え渡り、ぜんぜん眠気がおきなかった。

 布団の中でゴロゴロと、そのエネルギーで発電できそうなくらい、寝返りを打ちまくった。

 結果、妙な目のさえに悩まされ、見る気もない通信販売のテレビを寝ぼけながら見て、夜中の長い時間を潰すという、自分自身が少し嫌になる寝不足の理由だった。

 それが原因で、周りの騒がしいのもなんのその。うつらうつらとまどろみと戦っていたが、あらかた席も埋まり、もうじき先生が来る時間帯。

「おはよー」 

 と、しばらく聞きたくないと思っていた声が教室に響いた。内容は誰もが言う言葉だが、使う人に係わり合いたくなかった。

 会ったら挙動不審になってしまいそうだし。

 でも気持ちとは裏腹に、その声に反応してしまい、思わず顔が上がる。

 うっすらと空いた目で、声の方に見ると、扉の前で柏木が笑顔で立っている。

 隆はおもわず、柏木と目があったわけでもないのに、視線を逸らした。

 意識しまいと思うが、そう思う時点で意識している。

「「おはよーー」」

 教室にいる女性陣から、鐘を打ったかの様に、一斉に返事が返る。その返事の多さは、彼女のクラスでの人望を表していた。

 柏木はもう一度、小さく「おはよ」と返すと、自分の席に、つまりは隆に近づいてきた。

 どんどん近づいてくる柏木。意味も無く顔が熱くなる。

 逃げたい。逃げたいが、ここで逃げたらまた意識してしまう。またトラウマを作るきっかけになる。挨拶をするしかない。

(さわやかにだ)

「あ、おは」

隆は柏木が通り過ぎるタイミングに、笑顔を浮かべ、顔を上げて挨拶をしようとしたが、柏木は隆を無視するかのように、横を通り過ぎて自分の席に座った。

 不発となった笑顔を浮かべたまま、どうしたらいいか分からず、隆は固まった。

 柏木の様子を、後ろを見て、ちらりと伺う。

(……)

そこには席に座り、前をしっかりと見て、決して隆と視線を合わせようとしない柏木がいた。

 いくらなんでも、挨拶をしようとした隆に気が付いていないわけが無い。

 だが、柏木はまるで隆がそこにいないかのように振舞っていた。

 その態度は、隆と知り合いであることを拒否しているように見える。

 その対応から、隆もさすがに悟る。

(……そっか。考えてみれば、昨日までイジメていたやつと仲良しこよしとはいかないし)

 柏木はおそらく、クラスの中での評価の為に、クラスのみんながいる所では隆とは友達付き合いをしてくれない。誰もいない所では友達付き合いをするという程度の関係を求めているのだろう。

 もっともそれは隆の想像に過ぎないが、こんなあからさまな態度を取られるということは、隆の思い込みであるとは考えづらい。

(それに俺みたいなキモいヤツと知り合いなんて、それだけで周りの評価が下がりそうだよな)

 クラスでは誰と友達付き合いをするかっていうのも、自分のクラスでのヒエラルキーを確認するいい試金石だ。

 隆と友達付き合いするということは、自分は隆と同じレベルの人間だと言う事を周りに宣言するということだと思う。

 悲しいかな、クラスでは隆の評価はあまり高いものではない。友達付き合いをしないのもわかる。

 寂しい。寂しいけど、納得がいく。学校での隆の立場はせいぜいキモオタって所だろう。キモオタと喋ってるなんて、自分もキモオタ、もしくはキモオタに近い人間だと宣言しているようなものだ。隆も好き好んで彼女の評価を落とそうとは思わない。柏木の態度にあわせようと決めた。

(それともやっぱ、昨日までの事は気まぐれで、やっぱ俺とは友達になんかなりたくないのかな)

 弱気な考えかとも思うが、冷たくされると、どうしてもそう思ってしまう。

 さっきまでの無理やり作った笑顔が一転、下を向き、暗く変わってくる。

(さすがは女。俺にトラウマを作ることに関しては右に出るものはいないな……)

「隆、おはよう」

 隆の頭上から待望の挨拶。もしかしたら柏木かと一瞬思ったが、男の声だったから違うなと思いつつ、見てみるとやっぱり違かった。

「おはよう。でもお前じゃあな」

「なんだよ、それ」

 そこにはメガネをかけたガリガリに痩せた長身の男、通称ガネ君が立っていた。

ガネ君は隆のクラスメイトである。高校生にしては言動が幼かったり、あまりにも空気が読めなかったりするので、みんなにはあまり相手にはされてない。

 

 例えば。


 クラス中で盛り上がろうという空気でも平気で、自分の意思を通して帰ってしまう。

 絶対に! この食べ物を食べないで下さい! やるなよ? 絶対にやるなよ! とフられても本当に食べないし、やらない。

「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ……」

 と言うが、本当に生き残ってしまう。

 最後はともかく、少なくとも嫌なヤツではないので、隆は普通に接していた。そうなるとガネ君も唯一相手をしてくれる隆に寄っていくので、自然と二人は友達になっていた。

「冗談だよ。おはよう」

「なんだよー」

 不服そうに唇を尖らせるガネ君。

「で、それだけか? 俺はもう寝るぞ。眠いんだよ。それでも話しかけるとしたら、お前の販売元のお客様センターに電話するぞ」

 ヤツ当たりと隆自身、わかってはいたが、つい強めに言ってしまう。

「いや、何お客様センターって」」

「よし、0120の」

「ちがうって、電話しようとしないでよ。ケータイ閉まって。そしてフリーダイヤルなのね」

「……速く言えよ。リコールすんぞ」

 隆はうまい、というか、ガネ君に的に少しでもかすっているツッコミをされ、非常にむかついたので、ガネ君をからかう流れをしぶしぶ元に戻した。

「聞いてよ! ついにベッカムに子供が生まれたんだよ」

「え! マジで!?」

 ベッカムとはガネ君が飼う猫の名前である。

 ちょっと前、ちょうどワールドカップで盛り上がっている時に拾ってきた猫だったので、その時の人気選手にあやかっての名前をつけた。。

「へぇー、ついに。ビクトリアに子供が……」

「いや、ベッカムだって。わざとでしょ?」

「あぁ、ゴメン。ベッカムね。でもあのクソ猫にねぇ……」

 隆がわざわざ秋葉原まで行って、買った高いイヤホンのコードを噛み千切る事に関しては、非常に定評がある猫だった。なので、少しトゲがでる。

「あ。それと、……隆、昨日の夜、なにしてたの?」

「へ、昨日? ……塾行って、家に帰ったけど」

「違う違う。なんか女の子と楽しげに話してたでしょ?」

「……」

 隆はガネ君の住所が、隆と柏木が通う塾の近くということに気がついた。昨日の一件が見られている可能性が高い。

「お、お前の、見間違いじゃないか?」

 悪い事をしているわけではないのに、隆は誤魔化しの言葉を口にしていた。

「え、でも、あれは隆だったような」

「いや、そんなはずないよ。昨日はすぐ帰ったし」

「そうかなぁ」

「そうだ。メガネ曇っているんじゃないか? お得意の超音波メガネ洗浄でもしとけ」

 黄色いドラック。駅のそば。

 別に隠す必要もないのだが、隆は条件反射のように昨日の事を隠そうとした。それも無理やりボケて。

 まるでドラマで見た、浮気の現場を恋人に見られた男のようだった。マズイ理由は自分でも分からない。強いて言うなら、なんとなくとしか答えれない。

「隆、前に童貞じゃないって、そんな風に押し通した事あったけど、結局は童貞だったって事あったじゃん」

「やめろ! というか、それを例えに使わないでくれ……」

 無意識にガネ君は、隆をもっとも傷つける例えをしてきた。この辺がガネ君が空気が読めないと言われる要因である。

 しかもこんな、教室の中で。女子の耳にもばっちり入ってしまう。だからどうだという情報だが。

「嘘をつくなよ隆。彼女か、彼女なんだろ?」

 ガネ君はにやけた顔で、隆を追及してくる。

 普段、空気が読めないだの、眼鏡が実は本体だの、体が壊されるとジオングみたいに眼鏡が飛び回るとか、いじられっぱなしなガネ君だけに、自分がいじっているという状況が嬉しくてしかたないのだろう。まるで鬼の首を取ったかのごとく、隆へしつこく追及の手を伸ばす。

「……だから、違うって」

 抑えているが、不機嫌な声が隆の口から漏れ出す。

「うらやましいなぁ。で、誰なの? ねぇ」

 隆は自分自身のイライラがどんどん膨れ上がっていくのがわかった。

 そしてガネ君のしまらないにやけ顔を見て、最後のタガが外れた。

「あー、もううるさい! さっさと席につけ。俺が嘘をついて何になるんだよ」 

 ついに怒鳴りつけるような声量で、ガネ君に返事を返した。

「……うん」

 さすがに隆の怒りを感じ取ったのか、ガネ君はさきほどのエスッ気溢れる口調とはうって変わって、悲しそうに返事を返した。するとちょうどチャイムが鳴り、ガネ君は自分の席に戻っていった。

さっきまでの楽しそうな様子とは対照的な、そのセカセカと帰る後ろ姿を見て、隆は自己嫌悪に陥る。

(……あー、やっちまった。ふざけてかまってきたガネ君に、キレて押し切っちまった。空気が読めないのは俺だよなぁ)

 隆は机に突っ伏して、目を閉じる。

(もっと言い様があったし、それに柏木との事を過剰に反応する必要はないしな。でも柏木にも悪い。彼氏がいるのに、俺なんかと噂がたっちゃあな。しかし、ちょっと探し物手伝っただけなのに、同じクラスのヤツに見られているとは。どこを見られているかわかんないな)

 今回はガネ君がまたなんか言っているよ。程度の事で終わるだろうが、二度、三度、繰り返すようなら、また、ガネ君以外の奴に目撃されたとしたら、状況が変わってくる。

(ま、でも、なんとかなるだろう)

 考え込んでも、一向に答えが出そうにないので、そう思い込んで考えるのを止める。

 それと今日の時間割は嫌いな体育がある。ただでさえ憂鬱なのに、余計な事考えたくない。


 前日から雨が降りますようにと、体育授業の前の日には恒例の、隆の雨乞いの成果もでず、天気は快晴。グラウンドのコンディションは万全。

雨が振れば、体育はビデオを見る授業になっていたはずなのに。隆は神と天気を呪わざるおえない。

朝一の体育の授業。二クラス分の男子生徒がクラス対抗のリレーをやる為、グラウンドの各所に移動をしていた。

 厳正なくじ引きの結果、隆の配置はアンカーに決定した。

(なんでよりによって……)

 お世辞にも運動神経がよいと言えない隆がアンカー。しかも、負けたクラスが後片付けをする罰ゲーム付き。隆がくじを引いたとき、クラスの連中から一斉にため息が漏れたのを確かに聞いた。

 無言に周りに糾弾されているのを感じ取り、隆は思わず下を向く。こんな注目を受けるのは落ち着かなくてしょうがない。

一クラスの男の数は二十人。二百メートルトラックを四等分にして、走る距離は一人約五十メートル。クラス全員が走って、グラウンドを五周してお終いである。

 ドナドナドナと、所定の位置に隆が着くと、こちらのチームと相手のチームがわらわらと集まっていた。

屠殺を待っているだけでは精神が落ち着かない。競争相手が気になり、ちらりと横目で見てみる。

(っ! 甲田が相手かよ? )

するとそこにはバスケ部のエース候補、甲田が立っていた。

(最悪だよ)

 小学生の時に同じ学校だったから知っているが、相手は運動神経抜群。当然、足も速い。間違いなく隆より足が速い。高校生になった今も、一年生で凄いヤツがいると、バスケ部で勇名をはせている。

(こりゃ、最初から負けていてくれればいいなぁ。接戦でバトン渡されても困る)

 既にリードが開いていて、みんな諦めているような状況なら、プレッシャーを感じずにすむ。けれども一進一退の攻防をしているところにみんなの期待を背負い、チャオズ登場! そんな展開、少年誌なら打ち切りである。

そんな後ろ向きな事を考えている間に、体育教師が各スタート地点を周り、走者の順番と位置を確認をする。

すぐに準備は終わった。スタート地点で先頭走者二人が、重心を低く、前傾姿勢で構える。

「位置について! よーい、スタート!」

 体育教師の声で、リレーが始まった。

互いのクラス、共に少し離れたと思うとまた追いつき、つかづ離れず、バトンを落とすなどの大きな失敗もなく、ぶっつけ本番らしからぬ、一進一退の攻防が繰り広げられる。

 その手に汗握る攻防は体育教師が、おもわずテンションを上げて、おらぁー、走れ! と、大声をあげるくらいだった。

(……うぜぇ。背中に元気一杯のセミでも入れてやろうか)

 楽しそうにしている体育教師を見て、まったく雰囲気に入り込めていない隆は、ヤツ当たり気味に思った。

そして転機が訪れたのは、レースも終盤に近づいた、双方のチームの十六走者目。

こちらの走者がバトンを受け取るや否や、相手を二走者分引き離すぐらいの走りを見せつけ、次にバトンをつないだのである。

 体育教師のテンションがさらに上がる。

 かなりうるさい。

 隆は体育教師をどうやったらマナーモードに設定できるのかと、考えさせられるくらいのテンションの上がりようだった。

(もう金輪際、電車の優先席の前に立つなよ。お前)

 残り四人。だんだんとバトンの順番が迫る。

 せっかくひらいた距離だが、相手のクラスの頑張りによって、じわりじわりと詰められてきている。

それでも隆が走る番、つまり最後の走者の頃には、ついたリードは縮められてはいるが、まだ少し差があった。

(これで負けたら、俺の責任だ)

 望んでいた展開とは逆の展開なのだが、ここまできたら、やるっきゃない。

 立ち上がり、スタート地点に向かう。

 最後の走者達に対する、普段浴びる事のない、クラスメイトの期待する視線が隆を突き刺し、体を震えさせる。

 みんなから期待のコールが聞こえる……!

『タ・カ・シ! タ・カ・シ! チャ・オ・ズ! タ・カ・シ!』

 決して聞こえてこないが、そう観客からコールされているような気がする。

 スタート位置までの距離が長い。足が震えてくる。

 自分で自分を笑ってしまう。たかが体育の授業のイベントだ。失敗しても命が取られるわけでもなく、人生がかかっているわけでもない。

 それでも隆はみんなの注目を集めること自体が嫌だった。

 スタート地点に着き、後ろを向く。

 カーブを回りつつ、猛烈な速さで走者が近づいて来ている。

隆はそれを見てスタートラインから軽く走り始めた。走者の勢いを消さないよう、駆け足をしながら、後ろを向き、右手を後ろに出す。

見ると後ろの走る二人の表情。ウンコがもれそうなのかと、思わず聞いてしまいそうな決死の顔。

「来て! テンさん!」

「はア!? 」

 隆の言葉に、バトンを持った走者がわけわかんないとばかりに声を出す。

 そう言うのも、もっともだ。

あっという間に走者が近づき、後ろ手にバトンを渡される。落とさないようにしっかりと握った。それがスタートの合図。

隆は目いっぱい、腕を振り、足を上げ、地面を蹴り上げる。おそらく顔も、先ほどの走者と同じように、ウンコがもれそうなせつない顔をしているだろう。

自分の呼吸がやけに大きく聞こえる。

 大げさな位、腕を振り、足を上げる。

隆は全力で勝ちにいっていた。真面目も真面目に真剣に勝負をしていた。

ゴールまで残りわずか、まだまだ走れる。

しかし、前しか見ていない隆をあっさりと横切る何か。

途端に湧き上がる歓声と悲鳴。 

(駄目か)


リレーも終わり、だるがっているクラスメイトをよそに、戦犯である隆はみずから進んで仕事を買って出て、黙々と一人でカラーコーンを回収していた。

 しかしクラスメイトは嫌々ながらやっている為、作業がはかどらない。隆一人の頑張りでは、なかなか作業が進まなかった。

 チャオズなんだから、しょうがねぇだろと、思いながらもひたすら作業に従事していると。

「これを持ってけばいいのか?」

さっきから昼休みを潰した事に対する怨嗟の声しか聞いていないのに、珍しい隆に対して協力的な、嫌味ではない声が聞こえてきた。顔を向けると、この状況を作りだした男が気持ちいい笑顔をうかべながら立っている。

 着ている服こそダサい学校指定ジャージだが、短めの、厳しい校則に引っかからない程度の、ファッション雑誌で見るモテ髪型、二重瞼、子顔、長身、ボクサー体型。

 これからの人生、イケメン路線で間違いない男。甲田が立っていた。

「久しぶりだな。甲田」

「やっぱ、隆か! 久しぶりだなー。小学校以来か。どう元気してる?」

 隆が女だったら、確実に好感度が上がる微笑みを浮かべ、人懐っこく喋りかける甲田。

 加えて声までもが、なにか自信に満ち溢れ美声。イケメンボイスとはこういうものかと、ゲーム実況でもしたらいいのに、と、隆は思った。

「なんとかな」

「そうだよな。元気に走ってたよな」

「いや、お前のせいだよ」

 せっかくの再会だが、こんな状況の原因を作ったのにいけしゃあしゃあと、ニコニコ笑って喋る甲田を見たら、嫌味ったらしい文句の一つでも言ってやりたくなった。

「しょうがねぇーだろ。罰ゲームかかってるんだから」

 甲田は笑いながらそう言って、軽く流すと、隆が持つカラーコーンを、半分持ってくれた。

「手伝うよ。せめてもの罪滅ぼし」

「……いいのか? ありがとう」

 甲田はどういたしましてと、笑いながら隆の横に並ぶ。

「でも、負けてくれた方が俺は嬉しかったがな」

「いや、それは俺も困るよ」

 甲田は苦笑いをしていたが、隆は愚痴を言わずにはいられなかった。

「見ろよ。俺のクラスの連中の俺を見る目を。昼休み返せっていう目だ。俺完璧、耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍びを作り出した戦犯だよ。俺のトラウマを増やしやがって」

「そう言うなよ。悪いと思っているからさ」

 隆のわかりにくい例えにまだ苦笑いをしつつ、甲田はさらに隆が持つカラーコーンを一つ代わりに持つ。

「それにしても隆、お前、足速いな。中学は陸上でもやってたのか?」

「……ふざけんな。ばっちし、ぬいてたじゃねぇかよ。お前はネブチューンモーターでも積んでるのか?」

 現役の陸上部に足の速さを褒められて一瞬嬉しかったが、根拠がないことを褒められているにに気づき、思わず反論してしまう。

「ミニ四駆か? ハハッ、懐かしいな。一緒に改造して遊んだね」

「ネプチューンじゃなくて、ウルトラダッシュだっけ?」

「俺はそうだなぁ、モーターつうか、せいぜいチョロQかな?」

「嘘つけ。タミヤから出てない、大会では使えない違法モーターだな。なんだ? 『男根』って名前?」

「それ、『弾丸』だろ。いや、そっちの方がなんか早そうだけどさ」

 そんな久々に会ったとは思えない、馬鹿馬鹿しい掛け合いをしながら、全てのカラーコーンを片付けた。やる気がある二人でやると凄く早い。これで罰ゲームは終了。案外仕事は少なかった。 

 隆が作業が終わった事を先生に報告し終えると、甲田が隆の事を待っていてくれたようで、おもいっきり伸びをしていた。

「んーー! 終わったか? じゃあ、隆。学食で一緒に飯食べないか? 久しぶりの再開を祝ってさ」

「……あー、悪いな。今日、俺、弁当なんだよ。だから悪い。手伝ってくれてありがとな。今度、飯を食いながら、思い出話をしようぜ」

「そっか。じゃあ、今度、絶対食おうな」

 そう言って甲田は前方の、こんな時間になっているのに、甲田を待っていただろうクラスメイトの所に走っていった。

途端に楽しそうな笑い声がこちらに聞こえてくる。

 隆には待っているヤツがいなかった。

「……人徳」

 切なげに呟かれた。


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