1話
つたない文章ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
正直な話、隆は死にたくなっている。
「なにあれ?」
「マジ? キモい。ヒくんだけど」
どこにでもいるような眼鏡な高校生の男が、なぜそんな事を思っているのか? なぜなら後ろの席の女の子達がひそひそとその男、隆に対する陰口を叩いているからである。
一学期が始まったばかり、高校生活がスタートしたばかりの状況にも係わらず、もう舐められている先生の授業中。
ノートはとっても、話を真面目に聞く生徒はいなかった。先生も積極的に注意をする気はないようで、よっぽどうるさくしていなければ怒ることもなかった。ただ淡々と授業を進めている。
厳しい先生なら授業中に私語は許さないのだが、この先生の授業だと話し放題だ。それは隆にとっては、一時間まるまる悪口を言われることを意味する。隆もただ黙って耐えるだけ。それが余計に攻撃をエスカレートさせていた。
彼女らに何かをしたわけではない。いや、もしかしたら隆自身気づかずに、何か嫌な事をしたのかもしれない。
しかし、隆は自分がイジメの対象になりやすいと自覚しているし、なにかやったという覚えもない。おそらく、ただ陰口を言いやすい相手だけだからだな。と思っていた。
そしてさっきから女子からの攻撃で、隆が持っている、機はどんどん減っていっている。ちょっと1UPキノコをとったくらいでは追いつかない。
(女は苦手だ……)
面と向かって注意する度胸があればいいのだが、隆にはそんな度胸はない。ずっとそうやって、学校生活を過ごしてきた。波風を立てて、後で後悔するようなトラウマを増やす事をあまりしたくない。
(とりあえす、今夜のオカズはあいつらだ。相当エロイ目にあわせてくれる)
だが、自己完結な、ささやかな復讐はする。
「えーと、じゃあこの問題を……、柏木。お前解いてみろ」
ざわざわとした騒がしさが、先生の一言によって、途端に静まり返った。
舐められているはずの先生の一言である。さっきまで何度か注意をしていたのに、生徒達はまったく聞く耳を持たなかったにも係わらずである。
それもそのはず、急に先生は次の問題を隆に対して陰口を言っていたやつらの中心人物、柏木に解かせようとしていた。
「え、えーと……」
指された生徒、柏木は楽しそうに悪口をのたまっていた状態から一転、慌てふためき教科書をめくり始める。しかし、さっきまで夢中で喋ってたせいか、何を聞かれたのかすら、わかっていないようである。
先生も自分の授業中に騒がれて気持ちいいわけがない。この先生の癖として、騒いでいる生徒を黙らす為に、騒いでる生徒を急に指名して、問題を解かせたりする事がよくあった。
(ざまあみろ。せいぜい晒し者になればいいさ)
柏木のページのめくれる音だけが、教室に響く。一向に答えが出る様子もなく、先生も黙って柏木の動向を見ていた。
ちなみに隆は答えが分かっている。
出された問題が、どちらかと言うと一般常識の範囲の問題だったので、こんな問題もわかんないのかよと、優越感で非常に愉快であった。
柏木の席は隆の一つ右斜め後ろだ。隆はちらりと目線だけ後ろに向ける。すると、あたふたしている様子が見えた。そのみっともなさに笑いがこみ上げてくる。
一緒に喋っていたまわりの連中は途端に静かになって、我関せずとばかりに授業に集中するふりをしていた。
いざとなったら、友達がいのない奴らである。
仲間に見捨てられる。そんな姿にほんの少しの同情はするが、それまで仕打ちから考えて、隆は手助けをする気がまったくおきなかった。その日のオカズにも積極的に活用する気満々である。
内容はスケベな先生に攻められるシュチエーションでいこう。
「どうした。喋っていたくらいなら、これくらい答えられるはずだよな」
(嫌々言っているわりに、ここはこんなになっているよ)
隆の脳内のフィルターを通すと、こんなセリフになっていた。
運も悪い。いつもなら軽く注意をして終わらせる先生も、今日は虫の居所が悪いのか、普段は言わない嫌味まで言い、柏木への追求を終わらせようとしない。
愛想笑いを浮かべて、その場を逃れようとした柏木だが、先生は開放する様子もなく、追求の手を緩めなかった。
「……」
痛々しい沈黙が続く。
それまでのその場の中心が、一転して晒し者。しかもその問題が一般常識みたいな簡単な問題だったから、たちが悪い。
何にも悪くない隆を嘲笑っていたから、当然の報いだ。
可哀想となんか思わない。それどころか、ダサい、ざまあみろ。と、隆はほくそ笑みながら思っている。
愉快で愉快で、もう一度、そんな情けない女の姿を確認する為、後ろを見る。
(……)
そこには周りの無言の圧力に押されて、泣きそうになりながら、教科書をめくっている女の子の姿。
強い者が弱っていると、普段とのギャップを感じて、つい同情してしまう。
(……まぁ、いいか)
隆はノートを少し破り、その切れ端に答えを書いて右の女に渡した。
すると女は一瞬驚いたようにこちらを見たが、すぐに心得ているかのように、切れ端を後ろ手に柏木に渡した。
それを受け取った柏木は、無事に答えることが出来た。
普段なら絶対にやらない事をやったという自覚が隆にはあった。紙を渡した女も席は近いが、まったく喋ったことがないし、うまく紙が回るかどうかも疑問だった。答えも分かってはいたが、絶対当たっているかと言われると、実は不安だった。
間違った答えを渡していたら、かなりかっこ悪いし。
そもそも自分を攻撃しているやつをなんで助けたのだろうか。助けるからイジメないで下さいという媚びた気持ちだろうか。それとも柏木に対する単純な下心だろうか。
もう後から思い出して、自分を攻めるトラウマを作りたくないはずなのに。
授業が何事もなかったかのように、進み始める。生徒達も一難去ったとばかりに、ガヤガヤと騒ぎ始めた。
柏木たちも騒ぎ始めた。しばらく聞いているとまた隆の話。感謝して陰口を止めるかとも思ったが変化もなく、また陰口だった。
それからいつも通りに学校が終わって、放課後。
駅のホームにつくと、隆は読みかけの文庫を鞄から出した。
すると、本の間に挟まっていたのか、なにか、紙が落ちた。
拾ってみると、授業中に柏木に渡したはずのノートの切れ端だった。
不思議に思い、見てみると、隆が答えを書いた裏面に
『ありがとう』
と書いてあった。
続けて、
『急に指されたから焦ったよ。今度は私が助けてあげるね』
と、書かれていた。
カラフルな色で書かれた文字をおもわず見返す。
意味がわからない。
柏木が書いたのであろうか? 書いたのが柏木であれば、じゃあ、なんでその後悪口を言い続けたのか。もしや俺のことが好きなのか。いやいやそれこそ意味わからん。
(ちきしょう。死にたくなってたくらいなのに)
電車がきた。足取りが軽い。混んでいるのに、珍しく優先席でもない、席にも座れた。
椅子にもたれ、力を抜きながら考える。
(……ま、今日のオカズにするのは決定だがな)




