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第二十話:侵入

 勘弁してほしいな。島についてからやることなすこと上手くいかないみたいだ。呪われてるんじゃないだろうな。

 隠密行動中にふたりもの人間に会っちまうなんて失態もいいところだ。

「穂乃歌、ここで会ったのは偶然ってことはないだろう。どうして俺が六寮に来ることがわかった?」

「うーんとっ、捜していたのは事実だけどねっ。六寮に来るってのはわからなかった」

「どういうことか、もう少し詳しく教えてくれ」

「そもそも気づいたのは京一なんだよねっ。さっきあたしたちがここにいたとき、京一は蒼輔の様子がおかしいと思ったんだって。そんで注意していたら、夕食後蒼輔が寮を出て行くのが見えたっ。尾行したんだけど、途中で見失ったって」

 つけられていたのか。気づかなかった。

「それでっ、見つからないからあたしにも連絡してきて、一緒に捜してたんだよ。ここで会えたのは偶然だけどねっ」

「穂乃歌にこんな遅くにまで捜させるなんて、京一はどうかしているな」

「京一を責めないで。あたしも心配だったからっ」

「……そうか。それは悪かった。俺はもう見つかったから、穂乃歌は帰れよ」

「なにいってんのっ。蒼輔がどうしてこんな夜中に寮を抜け出したのか、聞いてない」

「俺は実は夢遊病者なんだ」

「夢遊病者?」

「そう。夜になるとフラフラ〜とそこら辺を徘徊してしまう。今日もその病気が発症して」

「あのね蒼輔っ。からかってるっ? それとも馬鹿にしてるっ?」

「真面目に煙に巻いている」

「あのねーっ」

「冗談じゃないんだ。穂乃歌、今日のところは何も言わずに帰ってくれ。これは見澤灯を捜すために必要なことなんだ」

「わからないなっ。一体なにをしようって言うの?」

 それを言いたくないんだよ。

「な、穂乃歌、見逃してくれ。黙って帰って、俺を一人にしてくれないか? 成果は必ず報告するから」

「うーんっ、ダメ。せめてなにをするのか言ってくれないと、引き下がるわけには行かないよねっ」

 ……全く、勘弁してくれよ。

「ねっ、蒼輔。言って。なにをしようとしていても、今さら蒼輔を疑わないよ」

「やれやれ、仕方ない。穂乃歌、よく聞け。それから、質問は受け付けない」

「うんっ」

「俺は今から六寮に侵入する」



 勝手に人の住居に侵入することを不法侵入という。ましてやここは女子寮で、俺は男だ。

 友達に軽蔑されるのが好きな人間はいない。

「あのねっ、蒼輔」

「質問は受け付けないって言っただろ。もう帰れよ」

「じゃ、意見を言うよっ。そんなこと、無理だと思うんだけど……」

 俺は黙ってエントランスに向かい、そこにあった機械に懐から取り出したカードをかざす。

 ドアの向こうは死んだように静かで暗い。

 機械は小さな機械音を立てると、ドアが開いた。

「どうしてっ。なにが起こったの?」

「カードキーだ。これは夏海のものだよ」

 ドアが閉まらないうちに中に入る。案の定、穂乃歌は帰ってくれない。俺の後ろについてきた。

「どうして蒼輔がそんなもの持っているのっ?」

「拾った、って言っても今さら信じないよな。盗ったんだよ夏海から。今こうして六寮に侵入するために盗んだ」

「…………そんなっ、それって」

「言うな。俺を告発するなら、せめて見澤を捜し出すまで待ってくれ。全部終わったらいくらでも非難してくれていい」

 穂乃歌はまだ何か言いたそうな顔しているが、黙った。拳銃を持っていたら迷わず自分に使ってしまいたい気分だ。

 あ、そういえばナイフはまだ持っているんだった。今のなしな。

「ん、っと」

 突然立ち止った俺に穂乃歌がぶつかった。俺は人差し指を口に当てたしぐさを見せてから、その指を向こうの上隅へと持っていく。

 監視カメラだ。

 さて、どうするか。

 俺一人なら映らない自信があるが、穂乃歌にそれを求めるのは無理だ。

「蒼輔っ。やっぱりこんなの無理だよ」

 俺は穂乃歌をその場に留まらせておき、カメラの死角を通ってカメラの下へ行き、録画を停止させた。

「でもそれじゃっ、再生させたときにバレるんじゃない?」

「別にバレてもいいさ。事態が解決した後ならいくらでも騒いでくれればいい。それに俺たちの顔は映ってないんだから、バレたところで犯人まではわからない」――

 見澤の部屋だ。

 ドアのノブに手をかけるが、当然鍵がかかっている。

「どうするっ?」

 穂乃歌の問いには答えず、俺は用意していた針金を取り出して、鍵穴に差し込む。これくらいのことはアカデミーでいやというほど練習させられてきた。

「今さら驚かないけどっ、蒼輔、君って、何者?」

「ノーコメントだ」

「どうして灯を捜しているの?」

「……ある政府高官の娘があるとき失踪した。娘はある孤島にある私立の学園へ通っていた。八方手を尽くしても見つからない。業を煮やした高官は探偵事務所に娘の居所の調査を依頼した。別に秘密組織じゃない。電話帳にも載っている大きな事務所だ。場所が学園ということもあり、事務所は傘下の学校に通っているある学生を派遣することにした。そのほうが、孤島の学園の学生から話を聞くのに都合が良いと思ったんだ」

「その派遣されてきた学生が、蒼輔?」

「開いたぜ。どうする?」

「……入るよっ、私も」



 よく整理された部屋だ。もちろん失踪が判明したとき両親が掃除したんだろうが、それにしても綺麗な部屋だ。教科書や参考書の類はきちんと教科別にまとめて本棚に収められている。衣類もきちんとたたんでタンスにしまっているようだ。

「几帳面な性格だったんだな」

「そうだねっ、見た目より灯はしっかりしてたよ」

 ベッドに皺一つないのは、おそらく失踪後整えられたものだろうから判断の材料になり得ない。ゴミ箱にもゴミはない。

「でっ、なにを捜すの?」

「失踪の手がかり」

「具体的にはっ?」

「具体的に言えれば話は早いんだが……。穂乃歌はここに入ったことあるよな。何か変わった点はないか?」

「って言われても……特にはないと思うけど」

「タンスを見れば何枚か衣類を取った気配があるな。だがこれは……うん、こっちの旅行バッグの中に入っている。見澤は帰省前だったんだから――ぐふ」

「ちょっと蒼輔っ。なに女の子のタンス漁ってんのっっ」

 穂乃歌に一撃入れられたらしい。

「いやあのですね、これは真っ当な捜査の一環でして」

「下着持ってニヤニヤしながらなに言ってんのっ。このスケベ蒼輔っ。エロ魔人っ」

「ち、違うぞ。俺はただ何か手がかりがないかと思ってしたことで、断じて後ろ暗いことはない!」

 ニヤニヤしたのは、あのほら、生理現象なんだから仕方ないでしょう?

「ふんっ。こっちはあたしが見るから、蒼輔は別のとこ探してよ」

「なんか見つかったら言えよ?」

「ふーんだ」

 やれやれ、勘弁してくれよ。

 ……室内に争ったような形跡はない。拉致が行われたんだとしても、ここではなかったということか。

 見澤が取っていたノートを片端から目を通していく。部屋と同じく、綺麗なノートの取り方をしている。落書きをするような学生じゃなかったらしい。……と思ったら国語の教科書にパラパラ漫画があった。美術部だけあって、絵が上手いな。

 そのほか、特に変わった点はないみたいだ。ミニ冷蔵庫の中に何も入ってなかったが、帰省前ということを考えればむしろ当然のことだ。

「うーん、蒼輔、何もないみたいだよ」

「……そうだな」

 参ったな。不法侵入までしながら何もないのか。何か……いや、ないものはないだろうが。

「そういえば、絵はなかったか?」

「絵、って?」

「いや、美術部員の明神猛によれば、見澤は失踪前何か描いていたらしいんだけど」

「あ、あーあー、そういえばそうらしいねー。でもここにはないんじゃないかなー」

「あのなあ穂乃歌。お前、嘘が下手すぎる」

「え、え。なんのことですかー? あたしうそなんてぜんぜんついてないですよー」

「穂乃歌。これは見澤の安否に関わること大事なことかも知れないんだぞ?」

「うーっ、でもっ、灯と約束したことだから」

「その絵はここにあるんだな?」

「……この部屋にあるって言ってた。でもどこにもないよね」

「誰かが持っていったのか……?」

「それはないっ」

「どうしてそう言いきれる? 犯人にとってそれは不都合な絵だったのかもしれない」

「いやっ、そんなメッセージ性のあるような絵じゃなかったから……。なんというか、プライベートな絵というか……」

「穂乃歌はそれを見たことがあるのか?」

「うんまあ……。見れば一発で何かがわかってしまう絵というか」

「わからないな。誰かが持ち出したのでないということは、まだこの部屋にあるということか」

「ああでもっ、灯が自分で持っていったのかも」

「見澤が自発的に失踪した可能性は低いと俺は思ってるんだけどな……。なんにせよもう少し探してみる意味はありそうだ」

 しかし、どこを探してみればいいのか……。

 絵が隠れそうなところ。人が見られたくないものを隠す場所……。

 天板が出っ張っている関係で、机と壁の間に、指一本くらいの小さな隙間ができている。

 少し重いが、机をずらしてみるか。

 や。

 お、これは……紙、画用紙か。

 見澤が描いていたっていう絵は、どうやらこれらしいな。

 ……なんだこれ。

「穂乃歌、これは?」

「ノーコメントっ」

 絵は、鉛筆書きで一人の人物が描かれている。

 一言で言うなら、猛のくせにかっこいい明神猛。

「えーと、つまり」

「あのねっ、穂乃歌にもまだ自分の気持ちはよくわかってないんだって。だからまだ誰にも言いたくないんだって」

「あ、そう」

 多分、猛のほうも見澤灯が好きなそぶりを見せていたな。

 ち、猛には絶対見せてやらねえ。

「しかし、これじゃ失踪の手がかりはやっぱりゼロか……。ん?」

 なんだ? 絵のほかに、まだ何か転がっている。

 ノートだ。

 表紙にはただ、「日記」とだけ書かれている。

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