第十二章 西の御前
帝都の喧騒から遠く離れた古都・京都は、大正の近代化を受け入れつつも、未だ千年の闇が色濃く残る街であった。
その霊的中心地に鎮座する京都八咫烏神社。
帝都の八咫烏神社が前線での血生臭い死闘を繰り広げる動的な存在ならば、こちらは怨念の源流を京の結界で封じ込める静的な絶対領域である。
その最奥、豪奢な一室で、西国を統括する総斎院、二条葵は優雅に扇を翻していた。
「帝都の娘たちは、随分と賑やかに血を流しているようやね。」
葵の声音には、鈴の音のような美しさと、抗う者を平伏させる絶対的な支配者の威厳が満ちていた。
彼女こそが、全国の裏巫女から御前と畏怖される日本最強の存在。
その時、部屋の調度が不気味にガタガタと震え始め、障子の隙間からドス黒い陰呪が蛇のように這い出してきた。
お鶴の放った絶望の残滓が、西の首領を直接呪い殺さんと襲いかかったのだ。
凄惨な呪詛の波が葵を呑み込もうとした瞬間、彼女は眉一つ動かさず、ただ手にした扇をパチンと一回、 閉じただ。
「不敬ですよ。 立ち去りなさい。」
葵が凛とした言霊を放った瞬間、因果応報の神技が発動した。
葵自身は指一本、霊力の一滴すら消耗することなく、襲いかかった陰呪はその軌道を完全に反転させられた。
自らの何倍もの威力となって撥ね返った呪詛の刃は、陰呪の本体を内側から爆裂させ、純白の神気の霧へと霧散していく。
戦うことすらなく怪異を消滅させるその圧倒的な実力。
しかし、どれほど無傷で勝利しようとも、裏巫女の肉体は討伐の瞬間に陰呪の熱を強制的に蓄積させられる宿命にある。
「ふふ、 久しぶりに 良い熱が 昇ってきたわ。」
葵の白い肌が、 じわじわと 淫靡な 紅潮に 染まっていく。
生まれついての絶対的なリバである彼女にとって、この強制発情の劇薬は、 自らを 蕩かすための 極上の スパイスに 過ぎなかった。
葵は乱れた着物の胸元から、 自身の 豊かな 膨らみを 惜しげもなく 晒し、 部屋の 隅で 控えていた 専属の 従属巫女たちへと 妖しく 視線を向けた。
夜の調伏、西の地で行われる絶対的な支配の時間が、今まさに始まろうとしていた。




