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第四十六話「猛者」

「「「我ら、生まれた日は違えども――死す時は同じ日、同じ時を!再び、ここに誓わん!!」」」



万雷の拍手が会場を包み込んだ。

建安二十五年(220年)正月。新野城近郊――桃源郷。


三十六年ぶりに、“桃園の誓い”が再現されたのだ。

劉備、関羽、張飛。

三兄弟はそれぞれの武器を高く掲げ、穂先を交差させる。



「うぉおおおおおお!!」

「ヒャッヒャッヒャッ!」

「かっこいいわ〜!」

「素敵〜!」


家臣たちの歓声が響き渡る。

今日は正月の大花見会。

この時代では春が一月にあたり、

桃の花も見頃だった。


半年前――樊城の戦いが始まる前。

俺は関羽と茶を飲みながら、

ひとつ約束を交わした。

“桃園の誓い”を、生で見せてほしい。

その願いが、今こうして叶っている。


関羽救出作戦は成功した。

皆のおかげだ。

特に大きかったのは、

徐庶を迎えられたこと。

そして孫権との不戦協定。

この2つだ。


……その孫権も、

実は今、普通に宴会へ参加している。

しかも、もうかなり酔っていた。


「誰かァ!!

この鈴の甘寧と腕相撲する根性ある奴はおらんのかァ!?」


孫権が真っ赤な顔で叫ぶ。


「あぁ!?甘寧が何ぼのもんじゃい!!」


当然のように張飛が立ち上がった。

すると劉備が慌てて駆け寄る。


「兄者! 止めねぇでくれぃ!」

「止めるわけねぇだろ!

オイラは益徳に千だ!」

「ええやん玄ちゃん!ウチは甘寧に千!」


「益徳五百!」「張将軍だ!」「甘寧!」「興覇ァ!!」「甘親分ー!!」


賭け声が飛び交う。


「ヒャッヒャッヒャッ!

アッシも甘寧に五百!」

「憲和ァ!!テメェ、

なんで俺様に賭けねぇんだァ!!」


張飛が簡雍へ絡み始めた。


「ヒャッヒャッヒャッ!オメェ、

もうベロベロじゃねぇか。

誓いの前からガバガバ飲んでただろ」


「うるせぇ!!損さへてやる!!」

「やっぱ酔ってんじゃねぇか!

クセェ!!」

「こんな川賊!酔ったくらいで充分じゃァ!!かかってこいやァ!!」


「ンだとォ!!」


もはや腕相撲というより喧嘩だ。

血の気の多い猛者ばかりだから、

宴会の熱量も戦場級だった。



……でも。

本当に勝てて良かった。

先月の新野大戦。あの時、俺は孫呉の援軍を知らされていなかった。


曹魏の偽書を信じ、荊州が奪われたと思い込んでしまったのだ。

だが実際には――。

五虎将軍たちは最初から策を知っていた。

わざと撤退し、曹操軍を深く誘い込む。そこへ孫呉軍と馬超軍が横合いから突撃。包囲網を完成させ、最後に陸遜が火を放つ。

完璧な包囲殲滅戦だった。


どうやらこれは、

“人を信じすぎる謙信への教育”


――徐庶と父上の作戦だったらしい。


苦い教訓となった。

今は玄徳や雲長がいてくれる。

しかし、

俺の代になったらそうも言ってくれない。

甘い若者の理想論だけでは

国が滅びると叩きつけられたんだ。

それに、

銀ネェの綺麗な顔に俺の汚い液を

たくさんかけてしまった。


ちなみに

馬超と馬岱も参加している。

二人は樊城へ向かい、

龐徳の説得に成功したという。

俺が会った時は、

まるで話にならなかったのに。

だが、龐徳の家族を無事救出できたこと。さらに西涼時代の仲間たちが迎えに来たことで、ようやく心を動かされたらしい。


今は張飛の力比べ大会に

西涼三将軍も参加している。


「錦がナンボの者じゃい!」


甘寧が馬超に絡んでる。


「リンリンリンリンと

鈴がないと迷子になる小童か?」


馬超も馬超で煽りよる。

ますます不穏な力比べになっていく。


西涼三将軍にはこれから長安攻めにも

大いに暴れてほしい。


家族といえば、

于禁の家族も救出できた。

樊城・襄陽陥落の混乱で、

許昌では大規模な反乱が起きていた。

その隙を突き、家族を脱出させたのだ。

これで正式に、

于禁も劉備軍の将となった。


名将は宝だ。

特に俺の代になると、

猛将不足は深刻になる。

だからこそ、少しでも曹魏から人材を引き抜けたのは大きい。




そして今日のお花見大会。

“桃園の誓い”再現だけじゃない。

俺の婚礼の儀も行われる。

……俺、まだ十三歳なんだけど。

早すぎない?

そう思いながら壇上へ上がると――

なぜか、向かい側から二人の少女が現れた。

「なんで貴女がいるのよ、星!」

「銀、早い者勝ちよね?

ウチの親父が先に玄徳様へ話つけましたー。

アタシが先よ!」


関羽の娘――白雪の肌 関銀屏

張飛の娘――豊満な胸 張星彩。


二人とも、完全に火花を散らしていた。

「ええやん、二人一緒に仲良く嫁入りしぃや」


孫尚香が面白そうに笑う。


「一緒は嫌よ!

私が先。

星は後。

最初に謙信との子を産むのは私なんだから!

私の次だったらいいわよ星」

「アタシだって、阿斗の初めてがいい!」

「なんですってぇ!?」

「だったら勝負したらええやん!」


完全に酒が回った孫尚香が煽る。


「いいわよ! 何だってやるわ!」

「じゃあ、おっぱい比べね!

はい、アタシの勝ち〜!」

「ふざけるなぁ!!」

「いやいや、おっぱいなら

ウチの方がデカいねん。

はじめてはウチがもろとくわぁ♪」


「香姉様!それズルいです!!」

「なんやねん、このオバハン」

「今、なんつったワレェ!?」


「ヒャッヒャッヒャッ!

勝負したれぇーい!」


強気な猛者が女性にも多いなぁ

……こっちも地獄だった。



一方その頃。

孔明と徐庶は静かに杯を交わしていた。


「元直。新野での采配、感謝します」

「いや。馬超殿と孔明の到着が遅れていれば、こちらも危なかった」

「黄忠と劉封を組ませた配置。

あれは私には出来なかった」


孔明は静かに微笑む。


「あの配置で、

夏侯淵の仇を取りたがる魏将の心理。

血気盛んな猛者による未来の火種まで消してくれた。

見事な策です。

感謝しています」

「……たまたまですよ」

「そういう事にしておきましょう」


そんな軍師たちをよそに。

張星彩と関銀屏の“女子力対決”は続いていた。

腕相撲。

料理対決。

舞踊対決

演奏対決。

尻相撲。

しかも簡雍のおっちゃんが

毎回賭け事にするせいで、

無駄に盛り上がる。


男の猛者たちも負けていない。

飲み比べ対決。

棒倒し、

瓦割り、

拳骨対決。

……拳骨対決って、もうそれは

ただの喧嘩じゃないか。


「オバハン舐めたらあかんデェ!

3人で勝負や。

誰が最初に男児産むか勝負やで!」


こちらも喧嘩じゃなくて

明るい家族計画かな。

強い一門衆は沢山作らないとね。

今夜の俺はどうなってしまうんだろう。


俺は怖いので

関羽のところへ逃げていった。


「早く孫の顔を見せてくれィ!

俺が名付けてやるぞぉ」


軍神はヘベレケに酔っ払っていた。

関羽がここまで酔っ払うのは

相当珍しいらしい。

玄徳親父が言っていた。


荊州の責任者として

ズッと睨みをきかせていたんだ。

今日はみんながいる。

責任者は玄徳だ。

酔い潰れたって問題ない安心感が

更に関羽を酔わせてるのだろう。


いつのまにか関羽は

異民族の山が付けていたお面をしている。

孫権が持ってきたのだろう。

この軍神さん

意外とノリが良いなぁ。


俺もお酒をだいぶ飲まされた。

足元もあぶない。

フラフラ近づき、

足がよろけて関羽の胸に飛びついてしまった。

関羽はガッチリと身体を支えてくれた。

嗚呼、なんて頼もしい両腕だ。

関羽を救出できて本当に良かった。


挿絵(By みてみん)


第一部 関羽救出作戦  完  


最後まで読んでいただき、

誠に有り難うございました。

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