第473話 魔法の花火
屋台で盛り上がり、お神輿で盛り上がり、リハーサルは今のところ完璧だ。
残すはラストを飾る花火のみ。
今日はそこまで多く打ち上げる予定はないものの、新作の花火を数発打ち上げてくれるとのこと。
花火を楽しみに待っていると、ヴェレスさんが離れた場所にいるのが見えた。
「シーラさん、ちょっとヴェレスのところに行ってきてもいいでしょうか?」
「もちろん大丈夫ですよ。……ヴェレスさんはあんなところで何をやっているんですかね?」
「うーん、分かりません。それを聞いてきたいと思います」
私はシーラさんと一時別れ、遠くの暗がりにいるヴェレスさんのもとへ向かった。
何やら空を見上げているようで、切り取ったら絵になるくらいの神々しさを感じる。
「ヴェレス、そんなところで何をやっているんですか?」
「あー、これは佐藤様ではないですか。私は空を見ていたところです」
空を見ていることは分かっていて、見ていた理由を知りたかったんだけど……。
夜の星空を見て、何か分かったりするのかな?
「空ですか? 星を見ていたというわけではないですよね?」
「ええ、何だかよくない空気を感じましてね。もしかしたら佐藤様に迷惑をかけてしまうかもしれません」
「えっ? 私に……ですか? すみません。いまいち理解できていないのですが」
「まだ勘のような段階ですので、そこまで深くは考えないでください。確信に変わったときはお伝えさせていただきますね」
最初から最後までよく分からなかったけど、深く聞いたところで理解できないと思う。
とりあえず私は頷いてから、シーラさんのもとへ戻ることにした。
「佐藤さん、何て言っていましたか?」
「うーん……ちょっと分からないですね。悪い予感がするとか何とか」
「ヴェレスさんは変わっていますもんね。せっかくなら、お祭りを楽しんでほしかったのですが」
「いえ、お祭りは楽しんでくれていたと思います。両手に縁日で購入したであろう食べ物のゴミを持っていましたし、口にはフランクフルトのケチャップがついていました」
私もお祭りに誘おうと思って近づいたんだけど、楽しんでいたことが分かったため、何も言わずに戻ってきたのだ。
「そうだったんですか? なら良かったです」
そんな会話をしていたところで――空に小さな火の玉が上がった。
この小さな火の玉は、これから花火を行うという合図であり、シーラさんと一緒に空を見上げる。
「佐藤さん、あの火の玉は花火の合図でしたよね!?」
「はい、そのはずです。新しい花火も打ち上げてくれるとのことでしたし、ワクワクしますね」
「ロッゾさんがドヤ顔をしていましたし、よほどの自信作とうかがえました。すごく楽しみです」
その会話の直後、小さな花火が連続して打ち上がった。
これは去年までと同じながら、一発一発の色に違いが見え、すごく綺麗だ。
それから花火は徐々にサイズアップしていき、最後は大きな花火。
去年のクライマックスに打ち上げられたものと同じで、どっと歓声が沸いたものの……まだ去年と同じ。
「うわー、大きな花火ですね!」
「すごいですが……まだあると思います」
シーラさんの感想にそう返事をした瞬間、空にヒョロヒョロとした火の玉が打ち上がった。
打ち上げ音もほとんどなく、一見ショボいように見えたその花火だったが……。
打ち上がった瞬間、カラフルな氷の花が咲いた。
恐らく氷魔法によるものであり、幻想的でもあるその氷の花に感嘆の声が漏れる。
祭りの文化とファンタジー世界が融合したような感覚があり、何とも言い知れぬ感動を味わっている。
私はそんなカラフルな氷の花火だけでも感動していたのだけど、魔法花火はこれで終わりではなかった。
空に打ち上がった氷の花は、最初はゆっくりと、そして徐々に高速で回転し始め、カラフルな氷の結晶となって霧散した。
どうやっているのかは分からないけど、風魔法によるものだと思う。
オーロラのようになっている夏の夜空を見上げながら、心の底から生きていて良かったと思った。
このとんでもない花火を製作してくれたロッゾさんたちには、本当に感謝してもしきれない。
「……すごい一発でしたね。佐藤さんが思い描いていた花火って、こんなにすごいものだったんですか!」
「いやいや! こんな花火は想像もしていませんでした。ロッゾさんたちがすごすぎるんです」
「なるほど……! ロッゾさんの成長が目に見えて分かりますよね。異世界の文化に触れたからでしょうか?」
「触発されたことは間違いないと思いますが、元々すごい方だったんだと思います」
ロッゾさん、シッドさん兄弟の技術力は、この世界で群を抜いている。
そんな方々が移住してきてくれたのは、今更だけど幸運だったと思う。
「佐藤なのじゃー! ちょー綺麗な氷の花を見ておったのじゃ!」
「……すごく綺麗でした。インスピレーションも湧いた気がします」
興奮した様子で駆け寄ってくれたのは、ヤトさんとローゼさん。
ヤトさんのシンプルな感想もいいけど、ローゼさんのインスピレーションが湧いてきたという言葉は嬉しい。
恐らくだけど、漫画のことであり、右肩上がりに売れていることもあって、早いところ二巻も製作したいからね。
……単純に私が読みたいのも大きいけど。
それから、出会う人みんなから氷の花火の感想を言われ、ホクホク顔でロッゾさんたちのことを自慢させてもらった。
お神輿も製作してくれたわけであり、縁日への多大な貢献には何かでお返ししたいな。





