第428話 キャピキャピ
マシューさんのお店を後にした後、すぐにミラグロスさんの家へと戻ってきた。
玄関にはマーサさんが出迎えてくれている。
「おかえりなさいませ。お食事の準備ができておりますので、こちらへどうぞ」
「もう準備ができているんですか。それと、わざわざ出迎えてくださり、ありがとうございます」
「いえいえ。これも私の仕事ですからね」
優しい笑顔を浮かべながら、そう答えてくれたマーサさん。
そこからしばらく無言でマーサさんの後を追う時間があったのだが、せっかくだし気になったことを尋ねてみることにした。
「あの、1つお伺いしてもいいですか?」
「もちろんですよ。私にお答えできることなら、答えさせて頂きます」
「ありがとうございます。さっそく質問なんですが、どうやって私たちを出迎えているんでしょうか? 初めて来た時もセバスさんとマーサさんが出迎えてくれていましたが、何かトリックみたいなものがあるんでしょうか? それとも、単純に玄関で待っているだけですか?」
「……佐藤さんは変なとこ気にする。一度も気になったことなかった」
「ふっふっふ、私も初めて質問されましたね。先にお答えしてしまいますが、常に待っているわけではありませんよ。アバスカル家の皆様の気配は感知できますので、近づいてきたら玄関に出迎えるようにしているんです」
へー、気配を察知していたのか。
気配で感じ取れるというのは便利だなぁ。
「私も知らなかった。気配を感知して出迎えてくれてたんだ」
「はい。なので、佐藤さんだけで戻って来られても、出迎えには行けないと思います。――っと、そうこうお話ししている間にダイニングルームへ着きましたよ。ごゆっくりお楽しみくださいね」
「質問の返答に、案内までありがとうございました」
笑顔のマーサさんにお礼を伝えてから、案内されたダイニングルームに入る。
中は大きな部屋となっており、ど真ん中の大きなテーブルには大量の料理が並んでいた。
そして……食事に目を取られて気づくのが遅れてしまったけど、見知らぬ女性が1名座っている。
ミラグロスさんに似た凄く美人な方で、弾けんばかりの笑顔を見せてくれていた。
座っている位置から考えると、ミラグロスさんのお母さんだろうか?
「タイミングよく戻ってきたなァ。ちょうど食事が全部準備できたところだったぜ」
「ねーねー、食事の前に自己紹介させてよ!」
「まずは座ってからでいいだろう。佐藤さん、シーラさん、空いている席に座ってくれ」
ミラグロスさんのお母さんは私の方を見て手招きし、自分の隣に座るよう誘導してくれたが、割って入るようにミラグロスさんがその席に座った。
必然的に端の2席が残ったため、私とシーラさんは端の席に座る。
「なんでミラちゃんが来るのよ。佐藤さんと近くでお喋りしたかったのに!」
「客人に面倒くさい人の相手はさせられない」
「ぶー! ミラちゃんのケチ!」
ミラグロスさんはお母さんにほっぺたをツンツンとされ続けているけど、完全なる無視を決め込んでいる。
他のみんなも相手にしている様子はないし、これがいつもの日常なんだろう。
「それより、自己紹介を済ませてあげたらどうだ? 佐藤さんとシーラさんがこの中で知らないのはエストリエだけだぞ」
「エストリエ? ねぇ、なんでエストリエ呼びなの?」
「…………リエちゃん、自己紹介をしてくれ」
「そうそう! んふふ、人前だからってかっこつけなくていいのに! 佐藤さん、シーラさん、はじめまして! ミラグロスやゼパウル、ファウスティナの母のエストリエです! 気軽にリエちゃんって呼んでね!」
横ピースを決めながら、そう自己紹介をしてくれたエストリエさん。
ファウスティナさんもアバスカル家の中では明るい方だと思っていたけど、エストリエさんが断トツで明るいし、何だか若々しい。
見た目も相まって、ミラグロスさんのお姉さんと言われても信じてしまいそうだ。
それから……ゴッドフリードさんがリエちゃんと呼ばされている事実がかなり面白く、あとからジワジワときてしまっている。
「――んんっ、はじめまして。私は佐藤と言います。ミラグロスさんには大変お世話になっています」
「ミラちゃんのお友達なだけあって硬いねぇ! で、シーラちゃんは?」
「佐藤さんにお仕えしているシーラと申します。よろしくお願いします」
「あはは! これまた固いね! みんな暗すぎるって!」
固い自己紹介をした私とシーラさんがツボに入ったのか、エストリエさんは楽しそうに笑っている。
「おいおい、お袋のせいでせっかくの料理が冷めちまう。とっとと食べようぜ」
「こら! ゼー君、お袋呼びは可愛くないから駄目って言ってるでしょ? ちゃんとママかお母さんって呼びなさい!」
「今はいいから、早く料理を食べようっての」
「よくない! 口調が悪いのも、ママは許してないからね!」
「リエちゃん、今は佐藤さんたちもいるから後でにしてほしい。変な感じだが、ご飯を食べよう。――ミラグロス」
「ん。感謝を込めて、いただきます」
頬を膨らませているエストリエさんを置いておき、食前の挨拶をしてから食事会が始まった。
正直、食事よりもエストリエさんの方が気になってしまっているけど、貴重な料理を二の次にしてしまうのはもったいない。
気持ちを切り替え、私は用意してくれた食事を楽しむことにしたのだった。





