#86 今夜は眠れない不可侵領域
パーティ終盤、カズは自分が想いを寄せていた少女の正体がネロだと知らされると、静かに息を引き取った。
・・・ゴメン嘘ついた。引き取ってはいません。気を失っただけです。話は、ユイとマリアがカズを部屋のベッドまで運び、軽い看病をするところから。
ユイ「・・・熱はない、単に気絶してるだけだ」
マリア「一応、お水とタオルくらい用意しておいたほうがいいですわね」
ノイン「じゃあアタシが持ってくるよ(退室)」
マリア「お願いしますわ」
ユイ「・・・はぁ。しかし、カズが片思いしていた子の正体がネロだったとはな」
マリア「わたくしたちの恋敵は、こんな近くにいたんですのね」
ユイ「灯台もと暗しってやつだな、完全にノーマークだったからな」
マリア「まぁ、ネロさん自身には恋愛感情なんてなさそうですしね」
ユイ「・・・しかし、イマイチ理解が追いつかないのだが」
ユイ「ネロが言ってた『昔の名前』って、一体どういうことだ?」
マリア(・・・)
マリア「『アリス・フォン・レフィルリガート』でしたわね。改名したということでしょう」
ユイ「・・・改名にしては変わりすぎだろ。『ネロ・ミカエラ・フェザーライト』て、『アリス・フォン・レフィルリガート』の名残まったく無ぇじゃねぇか」
マリア「そんなこと言われましても・・・。もしかしたら、あえて名残を残さないようにしたんではありませんの?」
ユイ「へっ、まさか。だとしてもそんなことする必要性がどこにある?」
マリア「知りませんわよ。少なくとも両親の離婚で名前が変わったわけではなさそうですし、名前を変えなければならないほどの事情でもあったと仮定するのが正しいと思いますが」
ユイ「じゃあ何があったか聞くしかねぇな」
マリア「おやめなさい」
ユイ「あ、なんでだよ。何があったのか気にならねぇのかよお前は」
マリア「・・・ユイさん、この世には部外者が立ち入ってよい領域とよくない領域があります」
ユイ「・・・あ?」
マリア「恐らくこれは後者。わたくしたちが立ち入って良い領域ではありませんわ」
ユイ「なんでお前にそんなことが分かるんだよ」
マリア「・・・ノインさんが、ネロさんの昔の名前を間違えて『アリス・ウォン・レリルリガート』と口にした際、ネロさんの表情が曇っていくのを見ましたの」
ユイ「それは、名前を間違えられたから・・・」
マリア「違いますわ。あれは、忌まわしき過去を思い出したがゆえの豹変。恐らく名前を変えるにあたって、壮絶な経験をなさったのでしょう。先ほどネロさんは、それを訴える目をしていましたわ」
ユイ「忌まわしき過去・・・あいつに限ってそんなことあるとは思えんのだが」
マリア「分かりませんが、少なくともこれはわたくしたちが深掘りすることではありません。思い出したくないことを思い出させることは、ある意味『暴力』に等しいですから」
ユイ「・・・まぁそれもそうか。分かったよ、とりあえずネロの過去については当分自粛で。『アリス』という昔の名前も出さないように」
マリア「えぇ。しかしカズさんはどうしましょう」
ユイ「カズの好きだった人がネロだった・・・っていうのは夢だったってことにしておこう」
マリア「それがいいですわね」
ネロ「お~い、ユイ殿、マリア殿~!(入室)」
マリア「っ!」
ユイ「ど、どうしたネロ?」
ネロ「ノイン殿に渡すよう頼まれてな。水とタオルだ」
マリア「あぁ、ありがとうございますわ」
ネロ「うむ!しかしカズ殿はどうしたのだろう。まだ酔いが覚めていないのだろうか?」
ユイ「そ、そうだな」
ネロ「まったく、未成年だというのに酒など飲むからこんなことになるのだ」
マリア「・・・あの、ネロさん?」
ネロ「ん、どうしたマリア殿?」
マリア「大丈夫ですか?」
ネロ「ん、何がだ?」
マリア「えっ、いえ・・・なんでもありませんわ!なんでも!」
ネロ「そうか。マリア殿、顔が青ざめているが具合でも悪いのか?」
マリア「いいえ大丈夫ですわ!ご心配なく!」
ネロ「そうか、ならいいのだが。では私は疲れたから寝る!」
ユイ「お、おう、お疲れ」
マリア「おやすみなさい、ネロさん」
ネロ「うむ。お2人も疲れが溜まっているだろうから、早めに寝るのだぞ!(退室)」
ユイ・マリア「・・・」
ユイ「なんだ、何も気にしてるようには見えなかったじゃないか。マリアの考えすぎなんじゃないのか?」
マリア「・・・そうかも、しれませんわね」
ユイ「安心しろよ、だからと言って改名の理由を聞こうなんて思ってはねぇからよ。人にはそれぞれ事情ってモンがあるだろうからな」
マリア「やっと分かってくださりましたか」
ユイ「おうよ。つーわけで私たちも寝ようぜ。お互い疲れただろうからよ」
マリア「お先にどうぞ。わたくしはもう少しカズさんの様子を見ますから」
ユイ「んだと、そんなこと言ってカズにちょっかい出そうとしてんじゃねぇだろうな」
マリア「ギクッ!そ、そんなわけ有りませんわ!」
ユイ「現実世界に『ギクッ』って言って動揺する人初めて見たんだが。ていうかやっぱりお前をカズと2人きりにするわけにはいかねぇ!私もここに残る!」
マリア「わたくしはまだ眠くありませんからいいですけれど、ユイさんはもう眠いんでしょう?無理はよくありませんわ、無理は」
ユイ「んぐぐぐぐぐ(睡眠打破を飲む)」
マリア「なっ、それは睡眠打破・・・!いつの間に!?」
ユイ「ぷは~っ、フハハハ目が覚めたぞッ!!!残念だったなマリア!キサマの野望はたった今、潰えた!!」
マリア「なんて人・・・肉体に無理をさせてまでわたくしに邪魔をしようということですのね・・・でしたらッ!!(モンスターを飲む)」
ユイ「なっ、それはモンスター・・・!お前こそいつの間に!?」
マリア「ぷふぅ~・・・ふふ、こんなこともあろうかと常に持ち歩いているのですわ!」
ユイ「ケッ、なかなかやるな・・・じゃあどっちが先に寝るか根性比べと行こうじゃねぇか・・・!」
マリア「望むところですわ・・・あなたが眠りに落ちる様を拝んで差し上げますわ!」
ユイ「面白ぇ・・・せいぜい楽しませてくれよ!!!」
マリア「ふっ・・・ふふふ!」
ユイ「へっ・・・へへへ!」
ユイ・マリア「ふへはははははははは!!!!」
深夜テンションで乙女らしさの欠片もなく下品に笑うユイとマリア。そして、カズの独占看病をめぐる壮絶な戦い、『先に寝た方が負け対決』が幕を開けた!しかし、勝負が始まってわずか5分、先ほどまでの勢いはどこへ行ったのか、2人とも仲良く夢の中へ落ちてしまった・・・
ネロ(・・・)
ネロ「『アリス・フォン・レフィルリガート』、か・・・」
Season6 ~魔女、失格の章~
ちょっと不穏な章、始まります




