#71 巨悪落つ、正論と詭弁の狭間で
22:50(ロードレイジ流星群まであと40分)
ヘルバラード・マウンテン 標高1150m地点
ユイ「はぁ、もうすぐ山頂か。結構かかっちまったな」
ユイ(マリアはとっくにカズたちと合流しているはず。山頂に到着して、待ちくたびれてカズとイチャイチャしてたりして・・・)
ユイ「はぁ、急ぐか・・・って、あれは?」
アイン「はぁっ・・・はぁっ・・・!(前方から走ってくる)」
ユイ「・・・っ、敵か!?(杖を構える)」
アイン「だ、誰だ・・・お前もあの殺人鬼の仲間か!?」
ユイ「あ、殺人鬼?悪いがそんなヤツの仲間になった覚えはない」
ノイン「違うよアイン兄、この子はアタシを庇ってくれた男の仲間だよ!」
ユイ「あっ、お前はたしか・・・昨日カズの財布を盗んだ女だな。ってことはお前ら、脱兎九族か」
ノイン「あぁ、うん・・・」
ユイ「まだ9分の2が残ってたか。ったくめんどくせぇな、さっさと山頂に行かないといけねぇのに。まぁいい、2人まとめて相手になってやる・・・!」
アイン「・・・私はお前と争うつもりはない」
ユイ「え、なんで?・・・あぁそう。まぁ、それならそれで好都合。じゃあ山頂で仲間が待ってて急いでるから、おめーらくれぐれも邪魔すんじゃねぇぞ」
アイン「・・・ただし、私はお前に警告する。山頂には行くな(ユイの腕を掴む)」
ユイ「んだよ邪魔すんなって言ったばっかりだろうが。耳ついてるよな、ちゃんと聞こえてるよな?それとも、お前の頭の両側面についてるそれは耳じゃなくて、歪な形のドアノブなのか?」
アイン「・・・何とでも言うがいい。とにかく、山頂に行ってはならんのだ」
ユイ「なんでだよ、山頂に行くな行くなって・・・山頂に行ったらどうなるってんだよ?」
アイン「殺される―――」
ユイ「・・・あ?」
ユイ「・・・そういえば、お前さっき言ってたな。『お前もあの殺人鬼の仲間か!?』って。おいお前、山頂で一体何があった?」
アイン「そ、それは・・・」
ユイ「濁してねぇでさっさと言え!!!ぶっ殺すぞ!!!」
ノイン「・・・アンタの仲間が殺された」
ユイ「・・・は?」
アイン「言うなノイン・・・言えばこの娘は余計に・・・!」
ノイン「左手が刃になってる男の攻撃からアタシを庇って・・・心臓を貫かれて・・・!」
ユイ「・・・」
ユイ「・・・はぁ、何を言い出すかと思ったらこの期に及んでわけのわからん戯れ言を抜かしやがって」
ノイン「・・・嘘じゃない、本当のことよ」
ユイ「・・・」
ユイ「じゃあさ、ちなみによ、その殺された私の仲間っていうのは誰のことだ?」
ノイン「仲間の女2人から、カズって呼ばれてた男・・・」
ユイ「・・・」
仲間の女2人って・・・マリアとネロのことか?マリアとネロがカズと呼ぶ男はクロエ・カズしかいない・・・
え、じゃあなに?あのカズが心臓を貫かれて死んだってこと?山頂で?
いやいやいやいや、そんなわけないじゃん。カズが死ぬわけないじゃん。心臓貫かれるって、そんな分かりやすい死に方するわけないじゃん。あんな強い男がそんなあっさり死ぬわけないじゃん―――
ユイ「―――いや、もういいって。分かった分かった。咄嗟にでっち上げた作り話にしては上手いことできてるよ。だがな、そんなんで私の動揺を誘おうったってそうはいかねぇからな?」
ノイン「・・・」
ノイン「・・・じゃ・・・んだ」
ユイ「あ、なんて?」
ノイン「・・・嘘じゃないんだ(落涙)」
ユイ「!」
ノイン「アタシのせいなんだ・・・アタシが油断して背後からの攻撃に気がつかなくて・・・カズは敵であるアタシを押し飛ばして助けてくれた代わりに、ヤツに刺されて・・・」
ユイ(この女・・・泣いている?嘘泣き、か・・・?)
ノイン「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!」
ユイ(いや、これは嘘泣きなんかじゃない。本物の涙だ。この女、マジに泣いている・・・。ってことは、まさか本当に・・・)
ユイ「や、やめろ・・・」
ノイン「アタシが殺したようなものなんだ・・・本当にごめん・・・アタシが、アタシのせいで――」
ユイ「やめろ!!!!!!!」
ノイン「・・・っ!」
ユイ「いい加減ジョークだと言ってくれ・・・その涙は嘘泣きだと言ってくれ・・・そういうくどい芝居、私は嫌いなんだ・・・」
ノイン「ごめんなさい・・・ごめんなさ・・・」
ユイ「謝るな!!!頼むから謝らないでくれ・・・お前らの作り話に、危うく動揺してしまいそうになる・・・!!」
アイン「・・・ノインの言っていることは全て事実だ。私もその光景を見ていたのだから」
ユイ「・・・」
ユイ「カズと一緒にいた、マリアとネロは?」
アイン「横たわる男の名を呼びながら、泣いていた」
ユイ「・・・」
ユイ「・・・っていうとなにか?お前らはカズが目の前で殺されたっていうのに、マリアもネロもほったらかしにして、2人だけで山頂からノコノコ逃げてきたってのか?」
アイン「・・・そうだ」
ノイン「・・・ごめん、なさい」
ユイ「なにがゴメンナサイだ!!!!!」
ノイン「うぅっ・・・」
ユイ「さっきから聞いてりゃ泣きながらゴメンナサイゴメンナサイって・・・そんな心にも思ってもねぇ言葉連呼してんじゃねぇぞクソアマが!!!」
ノイン「そんな・・・アタシは本当に申し訳ないって思って・・・」
ユイ「お前は自分の命が惜しいから、己が命を賭してまで身代わりになったカズのことを放って逃げたんだろうが!!!」
ノイン「そ、それは・・・」
ユイ「行動の伴っていない謝罪に何の意味がある・・・?お前はな・・・謝罪の言葉を並べて自分の罪をもみ消そうとしてるだけなんだよ!!自己満足のためにな!!違うか!!!??」
ノイン「・・・」
ユイ「なにが脱兎九族だ・・・なにが世紀の大盗賊だ・・・聞いて呆れる・・・!守ってくれた男を見殺しにして・・・目的だった聖杯も手に入れられずに尻尾巻いて逃げ出すなんてよ・・・お前らそれでも盗賊か!!?プライドってモンがねぇのか!!!!??」
アイン「・・・本当にすまない。どうしても許せないというのなら、私を殺せ。あのカズという男の命に、到底釣り合えるとは思えんが・・・」
ノイン「ア、アイン兄・・・!」
ユイ「・・・」
ユイ「そうやって逃げ出すのか、本当に哀れな連中だな」
アイン「・・・っ!」
ユイ「悪いけど、私はお前を殺さない。理由は2つ。1つは、人殺しをしたくないから。もう1つは、お前は殺す価値すらないからだ」
アイン「・・・」
ユイ「じゃあ私は行くから。せいぜい逃げろ。お前たちの顔なんて二度と見たくない。私に殺される資格もないゴミどもがよ・・・」
ノイン「・・・どうしても、行くのか?」
ユイ「くどい」
アイン「相手は何の躊躇いもなく人を殺せる化け物だ・・・死にに行くようなものだぞ」
ユイ「・・・最後に教えておいてやる。カズはその程度で死ぬような男じゃない。舐めるな―――」
あぁそうだ、カズが死ぬわけがない。心臓を貫かれて死んだとアイツらは言うが、きっと何かの見間違いだ。動揺していたあまりに咄嗟に見たアイツらの勝手な幻覚だ。それに、たとえ重傷を負っていたとしても、私が治してやればいい。これぞ回復役の真骨頂!だから、どうあっても私は山頂へと辿り着かなければならない・・・
大丈夫だ、きっと大丈夫・・・。それに、山頂にはマリアとネロもいるんだ。まさに鬼に金棒。相手が凶魔だろうとなんだろうと、やられるわけがないんだ。そうだ、絶対にありえないんだ・・・
あれ、おかしいな。なんで泣いているんだろう、私は。大丈夫だって分かってるのに、絶望的な状況に陥ることなんて絶対にありえないのに・・・あいつらが、私を置いてどこか遠い所に行ってしまうような気がしてならないのは、なんでだろう・・・
もうすぐ山頂に辿り着く・・・。みんな頼む、頼むから私の名を呼んでくれ・・・。
お疲れ、ユイ―――
そう笑ってくれ、カズ・・・




