4話 異世界は殺伐としているらしいです
ゆっくりと意識が浮き上がる。
徐々に周りの状況を理解する。しかし、頭に入ってくる情報は少ない。
暗く、そして何も聞こえないのだ。日本の人里の夜なんかとは比べ物になら無い、暗闇と静寂。ここは一体何処なのだろうか。
『こ、ここは···俺の母親の胎内なのだろうか?それにしては、あまり暖かくは無いが···』
そこまで考えたところで、ふと無性に怖くなり、暗闇に腕を伸ばす。
何処までも続きそうな暗闇だが、わずかに腕を伸ばすだけで、すぐに何かに触れた。
導かれるようにして何かを強く押すと、呆気なく、今まで保たれていた暗闇が崩壊する。
『卵だったのか、今まで居たのは···。』
辺りを見渡すと、自分が今まで居たのであろう卵の殻と恐らく自分の兄弟であろう、他の卵が十数個もあった。どうやら俺の親は近くにいないらしい。動くものは俺だけしかいないようだ。
此処はどうやら洞穴の中らしい。近くに出口と外に広がる青空が見える。
まずは自分の種族を確認しないとな。そう思い、首を曲げて全身を眺めてみる。小さいが鋭く硬い爪、細長くしなやかな尻尾、腕の先から付け根まで広がる翼、間違いない、これは···
『ドラゴン···なのか···?』
人間になれる可能性が低いことは分かっていたんだが、哺乳類ですらないとはな。いや、とは言ってもゴブリンよりかはまだましか?
まあ、ドラゴンと言えば最強の生物だ。さぞかし凄い能力を持っているのだろう。そう思い、神様から貰ったスキルの内の一つを使う。
『鑑定』
ステータス
名前-nameless 種族-レッサードラゴン
性別♀ Lv-1
ステータス値
HP 190/190
MP 230/230
ATK 110
DEF 60
INT 90
MND 70
AGL 140
DEX 50
ギフトスキル
強奪 鑑定 千里眼 体術 翻訳 成長強化 捕食 危機感知
『突っ込みどころが多いな···。レッサードラゴンって···。』
まあ、現実はそんなに甘くないということか。
名前がnamelessというのも今のドラゴンの身体には名前はないということで、まだわかる。
けれども性別がメスというのは嫌だ。転生なんだから性別がどうなるか分からないのは知っていたけれど、メスっていう表記が凄く嫌だ。転生してもあくまで意識は男だからな。
あれ、もしかしてこのままだとドラゴンのオスに掘られるのか?不味くないか?
ヤバい、想像しただけで吐き気がする。これは絶対にいつかどうにかしないといけない問題だな。
『見覚えがないスキルが幾つかあるな。とりあえず、全部に鑑定をかけるか。』
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鑑定をかけた結果それぞれのスキルの効果が分かった。
翻訳は俺の知らない言語を、知っている言語に直すスキル。成長強化はレベルが上がりやすくなったり、スキルを覚えやすくなるらしい。恐らくこれらは神様から貰ったものだな。
そして捕食と危機感知は種族特性のようなものだな。捕食は対象の血肉を喰らうことによって、HPとMPを回復出来るスキルらしい。危機感知は読んで字のごとく、だな。
チート···かどうかは分からないが、中々に癖があるが故に、使いこなせれば強そうなスキル構成じゃあないかな。特に強奪と捕食の相性が良さそうだ。
これからどうしようか。俺の親はまだ姿が見えないが、何時現れてもおかしくない。そして俺が生まれた以上、兄弟達も近いうちに卵から孵るだろう。これからの方針を決めるなら今のうちにしなければならない。
まず、俺はこのままレッサードラゴンとして普通の生き方をするつもりはない。出来れば人里で穏便に暮らしたい。ドラゴンの群れの中で生きるにしても、ボス格として指図されずに生きたい。そう俺は思っている。
幸い、俺は他のレッサードラゴンよりかは力があるはずだ。それを実現するだけの能力は備わっていると信じたい。
そうやってこれからの事を考えていると、どこか近くで複数の争うような鳴き声が聞こえた。
『俺と同じ鳴き声···。俺の親竜と何かが争っているのか?』
どうする、だとしたら助けに行った方が良いよな。けれど、まだ産まれたばかりの俺には危険すぎるか?
いや、危険かどうか確認しないと逆に危ないか。よし、外を確認しに行こう。···まあ興味半分で決めたというのも否定は出来ないけどな。
そして俺は洞窟の外に出ようとする。が、
『なんだよ、これ···。』
生まれ変わって初めて見る洞窟以外の風景。眼前に広がる無惨な姿に成った木々は、元は自然が豊かな森林だったのであろう。今は大量の血液にまみれている。
そして、側には二体の竜。一方は体を縦に真っ二つにされていて、既に事切れているのだろう。流石にこの有り様で死んでいないとしたら、この世界の生物は怖すぎだ。
もう一方は俺と同じく、竜のようだが、翼がなく、フォルムが獣のようだ。どうやら俺の親は別の竜種に殺されてしまったらしい。会ったことは無いとしても、一応は親だ。弔いたいのだが、生憎そんな暇はないらしい。
逃げなければ。そう思い駆け出そうとするが、足がすくんで動けない。
内心で死を覚悟していると、獣のような竜が吠えて何処かへ去っていった。
『これが、これから俺が過ごす世界······。』