新たなる敵
ニーナは、ナーシャさんの協力の下、体液の採取に成功。犯人のDNAを手に入れたわけだが……後はこれを、全身スキャンで配列チェックを地道にしていくだけとなる。
というわけで、僕とニーナは街を探索することとなった。
「とはいえ、日中から出歩いているかどうかはわからないよなぁ。死姦なんてするぐらいだから、夜中が多いと思うけど」
「行動を起こすのはそうだとしても、その人物にも日常生活というものがあります。むしろ、その時の方が相手は警戒しておりませんし、していたら挙動ですぐにわかります」
「なるほど。その通りだね。つまり、日中の探索はそれはそれで無駄ではないということか」
「はい」
物騒な事件だ。なので、店番にはジェシーがついている。カレンにも外出を控えるようには言ってある。まあ、カレンの実力はたしかなので、そこまで気にしなくてもいいのかもしれないが、そこは兄として、だろう。そんな資格はないのかもしれないけど。
「ところで、マスター。この後、いかがでしょうか」
「ん? 何をだい?」
「セックスです」
「……はい?」
「最低でも週一ペースぐらいでして欲しいのです。ぽっ」
照れた顔で、頬に手を当てて僕を見るニーナ。一方の僕は唖然としていた。
束縛系!? 束縛系女子なの、ニーナさん!?
昨今の女子に多い、一日一回は電話してとか、デートは週二とか。拘束したがる女子。正直、面倒で仕方がない。別に愛がないわけじゃないし、好きだから付き合っているんだけど、気が乗らない日だってあるし、一人で遊びたい日や、友人と遊びたい日だってあるだろう。だらだらしたい日もね。そういうのが女子ってどうも理解してないというか。
自分中心というか。そんな自分の思った通りに世の中は動かないし、彼氏も動いてくれませんよ、はい。
「あのね、ニーナ……そう、決まった日に何かするのは好きじゃないんだよ。毎週絶対とか、そういうのって何か義務的で、嫌じゃないか? お互いがそう思った時でいいと思うんだ」
「……そうですか。しょぼん」
ニーナさん、めっちゃがっかりしているんですけど! こんなキャラでしたっけ!
大体、殺人犯がどうのこうのって時に、セックスの話って……うーん。ニーナも女の子だなぁ。そういうのって女子には関係なかったりするもんなぁ。すぐ切り替えるからね。女子は。切り替えの早さは異常だと思う。男はそうは行かないし、なんかこう、その時の状況を大切にするよね。今は不謹慎だからやめようとか。そういう感じ。
さすがに僕もこの状況で性的行為はしたくないかなぁ……話を聞いた後じゃ、特に。なんか気持ち悪いし。後は……カレンのことを思い出したせいもあるけど。
「まあまあ。犯人が捕まるまではちょっと控えようって話だから」
「すぐに捕まえましょう。殺人犯ですし、やっちゃってもいいですよね」
「……あの、ニーナさん?」
「はい。やっちゃいます」
「だめだ、このロボット。早く何とかしないと……」
ヤる気満々(どっちの意味でも)のニーナは、手当たり次第にスキャンしまくっていた。その物凄い速度に、僕はハイウイングでようやく追いつくといったところ。飛ばし過ぎですよ、ニーナさん?
そして……ニーナは急に足を止めたのだった。
「ニーナ?」
「見つけました。配列適合率88%……間違いないでしょう。全身スキャンのみなので、完全適合はしませんでしたが、魔力もかなりのモノです」
「……やっぱり、男か」
僕の想像通りかもしれない。相手は魔力の高い女性を狙って、殺した後に犯して魔力を奪ったのだ。目的は何かは知らないが、力の誇示だろうか。よくある話だ。
「どうしますか、マスター」
「どうしようねぇ……まあ、ニーナがそういうのならほぼ間違いないだろうけど、それをこの世界の実情に置き換えて説明出来るかといえば、そうではないし。DNA鑑定もこの時代にはないものだから」
「そうですね。しかし、この者を捕らえて事件が起こらなければ、証明となるのでは?」
「ま、今の文明だとそんな感じになっちゃうのかな。最悪、ナーシャさんやオーラル公爵に頼んでもみ消して貰えばいいか」
「はい。あの者をここで逃すのは得策ではないと思います」
「わかったよ、行こうか」
そういって、僕とニーナは飛び出す。相手は驚くどころか、笑みを浮かべていた。
「なるほど、なるほどォ……てめぇらギルドの人間かぁ? 躊躇なく飛び込んでくるってこたぁ……もう、面が割れたか。そんなドジ踏んだつもりはなかったんだがよぉ……」
相手は勢い良く上空へ飛んだ。そして、屋根の上へと降り立つ。
そこへ、ニーナのレーザーが飛ぶ。相手は障壁で受け止めようとするが……瞬間的に、それを上手く使って回避した。
「あぶねえ、あぶねえ……なんだ、ありゃ。とんでもねえな。フィジーの野郎の魔法より、タチわりぃじゃねえか。俺の障壁じゃ防ぎようがねえな、ありゃ」
ニーナのレーザーを一瞬で判断して、回避に回った……いい判断力しているよ。思ったよりも、バカじゃないな……。
「やっぱり、結構な使い手かな……」
「そのようですね。ですが、私達なら十分やれるでしょう」
「言ってくれるじゃねえかっ!」
僕らの発言にキレたのか、両手を広げて魔法をぶっ放してくる男。僕はそれを回避しつつ、障壁で防ぐ。ニーナは全てレーザーで弾き落とした。
しかし、周囲に飛び散った魔法の弾は、町を無残に破壊した。
僕はそれを見て、歯噛みする。
「ハッ、やるじゃねえか。腑抜けのギルド連中にこんな使い手がいたとはなァ。ナーシャのクソ野郎だけじゃなかったってことか」
ナーシャさんを知っていることは不思議でもなんでもなかったが、今のニュアンス……ギルドに何か恨みでもあるのか? 警察サイドの人間か? いや、それはないな。こんな露骨なことはするわけがないし。まあ、ナーシャさんは色々と問題を解決しているからなあ。それも、単独で。そりゃ、恨みも買っているだろう。今回もその類だろうなと僕は思った。
しかし、ここでこれ以上戦うと、被害が大きくなる……が、逃すわけには行かないし。僕はともかく、ニーナなら上手くやれるだろうけど、相手は結構な強敵だ。時間がかかりそうだな……。
「風よ、切り裂け! エアスラスト!」
僕は風魔法を使って、相手に揺さぶりをかける。相手は障壁で僕のエアスラストを簡単に防いだ。威力を抑えたとはいえ、僕の魔力で強化されたエアスラストは並の威力ではない。かなりの障壁レベルだろう。
「効かねえよっ! なんだぁ、おい。そっちの女はともかく、こっちの男は大したことなさそうだなぁ! 魔力だけは無駄にたけぇみたいだけどよぉ!」
「言ってくれるっ!」
僕はルーンソードを取り出して、接近戦に持ち込もうとするが、相手はそれを許してはくれない。魔法を連発しながら、後退する。
くそっ……町での戦いに慣れているな……僕は高出力の魔法を使うわけにはいかないし、一極集中型の魔法はまだ使いこなせていない……ニーナみたいな芸当が出来ない為、接近戦に持ち込むか、威力を抑えて撃つしかない。
しかも、相手はそれをもう理解している。だから、下がった。それも、民家を背後にして。
だが、ニーナはレーザーを繰り出しながら、接近していた。そのあまりの的確さに相手は焦る。
「このぉ……引っ付いてくるんじゃねえ!」
男は魔法を連発するが、ニーナはそれを全て回避か、撃ち落とす。異次元の強さに男が初めて、焦りを見せる。
「バケモンかよぉ……てめぇえええええええええええええっ!」
男は怒り狂って、ついにニーナと対峙する。ニーナに向かって突進したのだ。ニーナはこれを待っていた。瞬間、ブレーキをかけてエネルギーを貯める。
「なっ!」
男に目掛けて放たれた高出力の球状のエネルギー弾。障壁では決して防げない。
それが、男に当たろうとした瞬間だった。男の姿が消えたのだ。
「えっ……」
僕は驚いていた。何が起こったんだ? 男が、消えた? しかし、僕とは違い、ニーナは一点を見つめていた。僕はニーナの目線の先に目を向けると……。
「何やっているのよ、ジャメル」
「はっ……はっ。た、助かったぜ……フィジー。マジやべえ。死ぬかと思ったぜ、今のはよぉ……」
フィジーと呼ばれた女性は空中から、ニーナを見つめていた。
「魔力は殆ど感じないわね……おそらく、古代遺跡の遺物ね。ガーディアンか何かかもしれないわ。たしかに、あれと正面からやり合うのは得策ではなさそうね。あんたは、さっさとそれを判断して逃げなかったせいよ」
「う、うるせえよ! 男が背を向けて逃げれるかっつーの。それも、女相手によぉ!」
「ふん……あんたが死のうがどうでもいいことだけど、計画に支障が出るわ。さっさと帰還するわよ」
そういって、フィジーとジャメルは退散した。
今の女……フィジーとか言ったっけ。ニーナのことに気づいていた……? ニーナが古代兵器のロボットってところまではわからなかったようだけど、古代遺跡の遺物だと確信していたように見える……となると、遺跡攻略者か。厄介だな……。
相手も何か古代の遺物を所有しているかもしれない。
「マスター、ご無事ですか」
「あぁ、僕はね。けど、さっきの連中……」
「はい。私のことを少し、知っているようでしたね」
「みたいだね。これは、少し……いや、だいぶ厄介なことになりそうな気がしてならないよ」
「同感です。それに、あの者……フィジーと申した者ですが、『空間転移』の使い手のようです」
「え……く、空間転移だって!?」
「はい。紛れも無く、空間転移でした」
空間転移……禁術の一つだ。現在では、大賢者クラスでなければ使用出来ないほどの秘術(大賢者クラスの魔力や技術力が必要)であり、禁術書も三大国の一つ、ヴィルヘルム帝国が保管しているはず……何故、それを? まさか、帝国の……いや、それはないと思うけど。
「これは、私の予想ですが……エスニークが関与しているかもしれませんね」
「エスニーク……」
やっぱり、戦いは避けられないってことか。こことは離れているとはいえ、リルムウェール王国は三大国の一つである、ヴィルヘルム帝国と同盟を結んでいる。標的になるのは当然と言えた。
「もしくは他の勢力の可能性もございますが……あれほどの使い手となると、やはり背後には強大な組織か国が関与していると思った方がいいでしょうね」
「……ナーシャさんに報告しよう。それと、オーラル公爵にも」
「はい」
ずっと感じていた予感は、現実として降りかかろうとしていた。




