『憧れのキミ』
地面いっぱいに広がる緑。それを外に出さないようにするかのように広がる青々しい空。その中で君は、笑っていた・・・。
某県の中心部にそびえ立つ中学校、『近江中学校』。季節は秋。2学期も始まったところだ。
「暑ぃ~・・・死ぬ~」
3年5組の廊下側の前から3番目、それが今回の主人公である栗山雅紀(くりやままさき)の席だ。雅紀は残暑厳しい教室の中で一人うな垂れていた。だが、それは雅紀に限ったことではなく、全員が授業と授業の間の10分を休憩時間にしている。
「栗山、次は移動教室だよ」
雅紀は閉じていた目をあけた。目先には、雅紀の『憧れのキミ』。
「あぁ・・・。分かった」
顔が赤らめいているのを隠すかのように理科の教科書とノートを探す。
「今日は遅れちダメだよ」
「分かってるよ、いつもうっせぇんだよ」
つい、強く当たってしまう。その度に、後悔をする。だが、正直に言おうと思えば上手くいかない。
理科室。今日は実験の日だ。よく分からないうちに号令が始まって、ノートをとり始める。
「今日の実験の後にノート提出ね」
中年の先生が黒板にチョークで文字を書きながら独り言のように呟いた。
「ゲッ・・・マジかよ・・・」
雅紀は今まで開いていなかったノートを開いてシャーペンを持つ。
「早く書かないと。先生に目つけられてるんだから」
真正面に座っている『憧れのキミ』からの声。本当だったらその台詞をチャンスに話を進めたいが、今はそんなことはムリだ。ノートをとらなければいけないのと・・・、告白を失敗した相手に向ける顔がない、ということ。
2日前。国語の授業中。隣の席になったのをいいことに、さりげなく聞いてみた。
「お前って、好きな人いるの?」
「・・・いる」
「ふぅ~ん・・・」
自分から話しをはじめたのに、素っ気無く答える。もちろん、興味があると思われたら終わり。
「栗山は?」
まさか・・・と雅紀は耳を疑った。『憧れのキミ』が、自分の好きな人に興味をもつとは思わなかったからだ。
(どーする?素直に答えるか?)
雅紀は、本気で悩んだ。




