変わった名前
「俺は、・・・いるよ」
雅紀は静かに答えた。たとえその質問が、『憧れのキミ』の社交辞令だったとしても、雅紀は自分の気持ちを少しでも気づいて欲しかった。
「やっぱりいるんだぁ。ねぇ、誰?」
ドキンッ!雅紀は自分の心臓が口から出ないか心配だった。
「・・・な、なんでお前ぇに教えなきゃいけねーんだよ」
「えぇ~、だって気になるじゃん♪」
(おいおい・・・、この展開だったらいけんじゃねーのか?)
雅紀は、告白をする前から、妄想を爆発させていた。雅紀の妄想頭脳では、デートのシーンまでが観えていた。
「ねぇ、誰?」
「・・・お前が教えてくれたら言うよ」
この台詞は、雅紀がだした唯一の賭けだった。もし、『憧れのキミ』の好きな人が自分じゃなかったら、違う人物をてきとうに答えるか、ごまかそうと思った。
「私?私はぁ・・・」
「ストップ!やっぱいいや、俺から言う」
その言葉を発したとき、雅紀には緊張がなかった。もう、覚悟はできていると、自分で決めていた。
「俺の、・・・好きな人は・・・・・・お前だよ」
「・・・・・・ハハッ、何冗談言ってんの?」
「なぁ~に間ぁ空けてんだよ、嘘告に決まってんだろっ」
「最悪・・・」
『憧れのキミ』は、そういって、授業に戻った。大きな後悔が、雅紀の心を渦巻いた。
「あのさっ、もし、本気だったらどう?」
「は?」
「だからさっ、」
「ムリ!」
はっきりと、『憧れのキミ』は言った。
「だって、好きな人いるんだもん。ごめんね」
『憧れのキミ』は笑いながら言った。それにつられて、雅紀も笑った。自分の心に、嘘をついた。
「ごめんって、何言ってんだよ。俺だって、お前のこと好きじゃねーっての」
そう自分の心に嘘をつき続けた瞬間、雅紀の好きな人は、『憧れのキミ』から、ただの、『松本織』になった。
「・・・・・・」
理科の授業も後半に入り、実験の準備が始まった。
「スポイト1つにビーカーを2つ。硫黄も持っていってね」
先生の言葉が途切れたと同時に、4人1班のうちの2人が立ち上がる。
「・・・・」
「・・・・・・」
雅紀と織の中に会話はない。
(やっぱ、コイツの中で、俺はただのクラスメートなんだろな)
あの時の後悔が、ただ、闇となっていた。とてつもなく大きい闇。いずれ、開花してしまうかもしれない、純粋な、後悔・・・。




