第五話
それから数週間経った頃にシロイヌ運輸側からライセンス契約の打診があったとラクレットさんから連絡がきた。
契約内容は先日の話し合いでこちらが提示した内容そのままであった。その提案を受けてシロイヌ運輸側が作成した契約書を精査し、ラクレットさんに了承して頂いて無事に契約締結となった。
承認印が押された契約書のコピーを手にして、ようやくリョウマは肩の荷が降りるのを感じた。やはり大企業を相手にするのは骨が折れるなとリョウマは改めて感じていた。
「リョウマさ~ん! お茶を淹れたよ〜。今日のお茶請けはアイスクリームです!」
「お、これどうしたの? これもクライアントからのお礼か何か?」
「えーっと、これはラクレットさんからもらったやつだよ。シロイヌ運輸の時のお礼だって、この前持ってきたんだ」
「なるほど、そうなんですね」
リョウマは既視感を覚えながらアイスクリームを口へと運んだ。
「うーん、バニラが香り高くてすごく美味しいですね!」
「でしょ? 私もさっき食べて美味しいなって思ったんだ〜」
「今度は何個食べたんですか?」
「4つ!」
ルナマリアのお腹には冷凍魔法がかかってるんじゃないのだろうか? リョウマは疑いの目でルナマリアのお腹に視線を送った。
「そういえば、どうしてリョウマさんはそんなに特許に情熱を燃やすの?」
ルナマリアがアイスを食べながら突然リョウマに質問をしてきた。
「それはですね、私は特許というより、魔法が大好きなんですよ」
「魔法が?」
ルナマリアがスプーンを口に咥えて首を傾げた。
「そうです。私がまだ小さかった頃に事故に巻き込まれましてね、その時に魔法使いに命を助けてもらったんです」
「それで、魔法に興味を持ったの?」
「そうですね。魔法ってすごいんだ! と子供心に強く印象に残ったんです。それから私は、魔法について勉強を始めました」
リョウマは昔を懐かしむように目を閉じた。
「それで、魔法学校にも入学したんです。ですが、残念ながら、私には魔法を使うための素養がありませんでした」
「ああ、生まれつき魔力を持たない人っていますもんね」
「ええ、だから私には魔法は使えません。それが分かった時は本当に辛かった」
リョウマは声のトーンと一緒に肩を落とした。
「それでも、私の魔法に対する情熱は消えませんでした。どうにかして魔法に関わる仕事をしたい。それで思いついたのが弁護士になる事だったんです」
「弁護士? 弁理士じゃなくて?」
ルナマリアはアイスを食べ終えてスプーンとお皿をテーブルに置きながらリョウマへ尋ねた。
「はい。最初は弁護士になって、魔法使いを支える存在になりたいと思ってたんです。そして弁護士になってしばらくした時、特許法が魔法にも適用されることが法律で決まったんです」
「最初は魔法って特許にならなかったんだ?」
「そうなんですよ。それを知った時、私はこれだ! と思ったんです。これならば魔法が使えなくても魔法というものに直接関わることができる! って。それで弁理士に転向したんです」
「はえー、そうなんだ」
ルナマリアが感心したように頷いた。
「それで特許についても勉強して、特許の面白さにも気づいて、今に至るわけです」
「なるほど。リョウマさんにとって、この仕事は天職なんだね」
「はい、そうだと思います」
そう言ってリョウマは、テーブルのお茶を一口飲んでホッとため息を吐いた。
そんなことをやっていると、事務所の出入り口の扉が勢いよく開いた。
「先生! 居るかい?」
ラクレットさんが慌てた様子で飛び込んできた。
「おや、ちょうどラクレットさんからもらったアイスを食べてたんですよ。良いものをありがとうございます」
「あ、それ美味しいでしょ? 北の町からわざわざ取り寄せて……ってそうじゃないんだ!」
「どうしたんですか? また会社の存続危機ですか?」
「いやいや逆だよ! 今度うちの会社が拡大することになったんだ! 北の町に支店を持つことになるんだよ!」
「おお、それは良かったですね! それでアイスクリームを送ってきたんですね」
「そうそう! いやー、あの契約のおかげですごく運営が楽になったんだ! 先生には礼を言っても言い足りないよ! ガッハッハ!」
ラクレットさんは上機嫌で高笑いしている。その様子を横目にルナマリアが麦茶を持ってきた。
「ラクレットさん調子良い〜。この前はあんなに青い顔してたのに」
「そりゃ顔も青くなるさ。大企業と敵対なんかしたくないからね!」
「それが今や業務提携したようなものですものね。ホント、うまくいって良かったです」
そう言うと、ラクレットさんとリョウマはお互いに笑いあった。
「でも、特許を取ることでこんな風になるなんて思いもよらなかったよ。特許ってこんな使い方もできるんですね」
「ええ、そうですよ。特許は守りに使うと思われがちですけど、攻めにも使うことはできるんです。私はそのことをもっとみんなに伝えたいですね」
リョウマは満面の笑顔でそう言った。
「ああ、今回のことで私も思い知ったよ。これからも何か特許になりそうなことがあったら先生に相談するよ!」
「はい、いつでもお待ちしていますよ!」
ラクレットさんは麦茶を一気に飲むと、仕事があるからと言ってすぐに事務所を出て行ってしまった。
「よかったね! ラクレットさんの会社が無事で!」
「そうですね」
ルナマリアの元気な笑顔を見ながら、リョウマはアイスクリームを一口頬張った。
「これからもどんどん魔法の権利を取って行くんで、ルナマリアさんもお手伝いお願いしますね!」
「了解~」
ルナマリアは笑顔で敬礼をした。リョウマはそれを見て、笑顔でテーブルの上の書類を手に取った。
「次の依頼は……魔法燃焼機関の権利侵害について……? これも面白そうですね!」
そう言ってリョウマは笑みをこぼしながら、次の依頼へ取り掛かるのだった。




