第07話「ラプラス」
「ラプラス」それは魔王だったころの能力である。
ここで能力の解説をしよう。
能力とは生まれた際に持ってくる特殊な力の総称である。
向こうの世界の言葉でいうと「キネシス」である。
魔族はたいてい何かしらの能力を持っている。
といってもほとんど役には立たないものばかりである。
例えば、自分の周囲の温度を1℃上げ下げできる『エアーコントローラ』(名前は勝手に今俺がつけた)とか、30秒ならどんな言葉でもマネできる『レコーダー』など。
これ、どこで役に立つのってものばかりである。
もちろん魔族だけではなくヒト族や亜人族にも能力を持つものもいる。
しかし彼らの中では結構まれなようだ。
しかも魔族同様にほとんど役に立たないことが多い。
魔族でもヒト族や亜人属でもある一定の割合ですごい能力を手にする者もいる。
火や水、大地を操ったり、見えない壁を作ったり、目に見える2点間の距離を0にするなど聞いただけではよくわからないすごそうな能力まである。
もちろん、魔法や魔道具を使えば似たようなことはできるがやはり能力とは次元が異なるのが現状だ。
そういった能力を持ったものが勇者になることができるのだ。
前に転生したとされている勇者はなんと時間を操るらしい、それに今の邪神は空間を操る能力を持っていると噂がある。
これらはいわゆる神殺しの能力といわれている。
このぐらいのものになるともはや真実であったとしてもそれが本当かどうかは検証の余地がないのであった。
ちなみに魔族会の出世にはそこまで能力は必要ないが、他の部署の魔王は全員素晴らしい能力を持っている。
そして俺が魔王になれたのはこの『ラプラス』の功績が大きい。
もちろん魔王になるためにどんなすごい能力を持っていてもなれるわけではない。
コネや根回しなど、出世する力が大きい。
他の魔族は俺の能力をうらやんでいた。
俺もこの能力を気に入っていた、とても便利だからだ。
攻撃能力や派手な能力が便利だって?その考え方は甘いね。
前世がいくら魔族と亜人が存在する世界だといえど争いは多くない。我々も歴史から学んでいるのだ。
魔族と亜人の戦争などほとんどない。
せいぜい魔獣狩りや、勇者との小競り合いがある程度だ。
その確率さえもかなり少ないときた。
今の時代は力よりも地頭がものをいう時代であった。
そういった点でラプラスはすばらしい。
戦闘でけでなく、普段使いもできる。
実務にとても役立つのである。
と思っていました、こっちの世界にくるまでは。
実はこの能力事態はそこまで大したことがない。
今の俺ならすぐにわかる。
俺は気づいてしまった。
『ラプラス』とはズバリ
『Exc〇l』の下位互換である!!
ラプラスとは表計算ソフトである。
俺は表計算ソフトが使えるだけで魔王にまで上り詰めたのだった。
そしてなんならこの世界でいうところの総理大臣まで上り詰めようとしていた。
どんだけ周りに恵まれているねんて話だけど。
偏差値30の学校で1番になって喜んでいるだけじゃん。
そう思うのも無理はない。
この世界ではどうも社会人としてある程度使えるのは当たり前のようだった。
俺も最初に見たときにびっくりした。
英雄「ラプラスじゃん、これ!」
ラプラスをエク〇ルみたいなイントネーションで言っていた。
これなら俺にも使えると思っていたが甘かった。
何故ならこの表計算ソフトは上位互換だからだ。
しかもこっちの方が使いやすいしデータの容量も大きい。
数学の発展もあり関数の種類も多い。
ほとんどの関数は使いこなせない、ていうか知らない。
この鈴木英雄の体でも知らないということだ。
本当にこんな関数たちがいるのかと心配になっている。
みんなは使いこなしているのだろうか。
使いこなさないと出世できないのか。
そう感じたものだが表計算ソフトはあくまでもスキルの一つらしい。
社会人ならできて当たり前、そんな風潮がある。
俺はそんなことを改めて考えながらタバコに火をつけた。
風邪の時には全く吸いたいとは思わなかったが、体がよくなると吸いたくなるようだ。
英雄「うっま」
やはりタバコはおいしい。
英雄「どうしたものか、これからどう生きようか」
俺は若者が一度は通るであろう考えを頭の中で反芻していた。
英雄「転生はそもそもいいものか、俺は本当に勇者になれるのか」
いわゆる勇者なんてこの世界にはいらない。
戦争なんてこの国では起きていないからだ。今後起きるにしても一人に能力でどうこうできる勇者になることはできないであろう。
他国ではどうも小さいものが起きているが世界を巻き込んだものというものというのはまだ2回しかないらしい。
英雄「しかしどこの国にも問題というものはある。俺はそれを解決するための勇者になるために転生してきたのか。なんの能力も持ってないけど。そもそも俺をこの世界に送った奴は誰だよ、出てきて説明してくれ。どこのRPGだよ、『あなたは勇者である可能性があります。でもこの世界に争いはありません』って言われているようなものじゃん」
俺は次のタバコに火をつけた。
英雄「いったいどうしたらいいのか、俺は邪神になるために頑張ってきたのに。邪神になって魔力を操り、一生遊んで暮らそうとか思っていたのに。こんななんの能力もない人間なんかに転生して」
前の世界に戻り魔王としてまたやり直すことも考えたが、
前の世界への戻り方もわからない。
そもそも戻ることなどできるのか、それすらわからない。
俺は自分の部屋にある本棚に目を向けた。
そこには漫画やライトノベルなどがずらっと並んである。
暇なときに読んでいた。
異世界転生談が多くとても勉強になった。
ほとんどがすごい特殊能力を持って異世界で大活躍している。
転生した当初から強かったり、あることをきっかけに強くなったりと様々だ。
なかには眼を背けたくなるような境遇があったり、どうしようもない壁が立ちふさがり絶望する場面も多々描かれていた。
しかし、どの主人公にも共通しているがみんな輝いていた。
今の俺にそれはあるのか。
毎日同じような、似たような生活を送っている。
大きな逆境もなく、越えるような壁もない。
しかし漠然とした不安だけが、見えない沼のように存在する。
その沼に俺はゆっくりと沈んでいる、ゆっくりとゆっくりと。
英雄「俺も異世界から転生してきたはずなのに」
こんなどうしようもない怒りがというかイライラというか、そういったものが心の底に泥のようにたまっている。
本当にあるかどうかもわからないような物語と比較してはいけないことはわかっている。
いわゆる現実の厳しさである、昔はこんな言葉にできない不安なんてなかったのに。
俺は改めて実感している最中である。
英雄「はぁ、あんなに頑張って魔王になったのに、」
俺は思わずため息をついた。
英雄「どうせなら早く引退して余生を楽しんでいればよかった。後悔先にたたずだけど」
この負の感情はずっとループしてる、転生している時から心の底に泥のようにたまっている。
どうやらこの世界のヒトは65歳まで働くのが一般的らしい。
その後は年金なるもので生活をして余生を堪能する。
英雄「65歳ってどんだけ働かすねん、余生なんてほとんどないようものだしヒトの場合だと体力が衰えてしまってやりたいことができなくなるでしょ。からだ次第ではただ死ぬのを待つだけってこともありうる」
ますます負の感情になってしまった。
英雄「はぁ」
俺はまたため息をついてしまった。
呼気がすべてため息になってしまったのだろうか。
英雄「大分はらも減っているし、昼にするか。なにかあったっけな?」
俺は重たい腰を上げて台所までいった。
冷蔵庫を開けたが食材はほとんどな。
昨日尾にもらったヨーグルトがひとつあるだけだ。
英雄「外に食べにいくか。お金ってあったっけか?」
今は給料日前で財布は寂しい。
生活は一ヶ月いきるだけで厳しいのである。
財布にはお札が3枚と小銭が少々あった。
お札はもちろん千円札だ。
英雄「はぁ、こんな惨めな生活なんて昔じゃ考えられなかったぜ。さて近くの牛丼の並みを食べるとして、給料日までの日数とをかんがえると、、、」
頭のなかで銭勘定をしていると懐かしい感じがした。
と同時に目の前に数字が現れた。
5,321円/日。
一瞬なにが起こっているのかわからなった。
回りを見渡してもこの数字はついてくる。
眼を閉じても見える、というか脳に直接投影している感覚がある。
これがスマホの新しい機能なのか。
いや、この感覚は知っている。
英雄「これは、ラプラス?なのか」
どうやら俺も特殊能力をもっているみたいだ。
長年慣れ親しんだ能力「ラプラス」、「Exc〇l」の下位互換だけど。
英雄「この日から俺の本当の異世界ライフが始まるのだった。なんつって」
俺はそう苦笑混じりでそう呟いて布団に倒れ混んだ。




