↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/7

7.僕は君を

「今度こそ、もう来ないと思ったよ」

 法月紗羅は言った。

「水戸ゆりなと話をしてきたんだろう?そうしていろいろ聞いたんだろう?」

 探偵部室の黒皮のソファに脚を投げ出して、法月紗羅は本を読んでいた。とても綺麗な顔を僕に向けると、にっこりと微笑みかけた。

「あれかな、もしかして殴りに来たのかな。それならやめといた方がいいよ。私はこの学校の理事長の孫娘だから、退学じゃすまないよ」

 僕はぎゅっと両手を握りしめながら、扉の前に立っていた。

「理事長の孫ってことは知ってるよ。さっき聞いた」

「そう。じゃあ、馬鹿なことはしないと思っていいのかな」

「それはわからない」

 僕は大きく息を吸い、吐いて言った。「あれは誰」

「あれって?」

「動画を見たんだ。君にそっくりな顔で、そっくりな声の子が水戸さんと話してた。君……双子なの?」

 法月紗羅の顔から、笑みが消えた。

「君は信じたくないあまり、低い可能性にすがりつこうとしているの?」

「可能性の高さと真実は無縁だ、って君が言ったんだよ」

「言ったけど……でも、君、ほんとうに」

「それだけじゃないよ。だって顔も声も君にそっくりだったけど、あれは君じゃなかった。……君がいつも言ってる気持が、少しわかった気がする。明確な根拠なんて言えない。一つ一つの理由は弱すぎる。でも総合的に見て、『そう』としか思えない。あれは君じゃなかった。君じゃないのに、君を騙って、水戸さんに自分は法月紗羅だと思いこませてた。あれは誰なの?前の、美術室での事件の時も、君の名前を騙って山科さんを脅した奴がいたよね。同じ子なの?こんなことはしょっちゅうなの?」

 法月紗羅は、目を見開き口もぽかんと開けて僕を見ていた。それから下を向いた。しばらくうつむいていた。それから吹き出した。額を押さえて、泣き顔のような顔で笑っていた。

「君は本当にすごいなあ」法月さんは言った。

「私は私自身、そんなことを信じ切れないでいるのに」

 これまで見たことのない、ふにゃりとした笑い方をすると、法月さんは立ち上がり、電気ポットのところへ行った。僕は法月さんがさっきまで座っていたソファの隅っこ、いつも依頼人を迎える時の定位置に腰かけた。法月さんは戻ってきて、僕の前にソーサーとティーカップを置いた。自分の前にも置くと、お盆をソファの隅に縦にした。

「私には双子の妹がいた。私たちは八歳まで一緒に育った。でも、ある日彼女は別の家の養女になることが決まって、うちを去った。私たちは幼等部からこの学園に通っていたけれど、彼女は転校して、私の前から完全に姿を消した。誰の養女になったのか、どこで暮らすことになり新しい学校はどこなのか、そういったことを、大人たちは誰も教えてくれなかった。私も特に気にしていなかった。……いつも一緒にいたくせに、私はずいぶん冷たいのかもしれない。そしてもしかしたら、彼女はそれを恨んでいるのかもしれない。

妙なことが起こり始めたのは、中等部に上がってからだよ。私が言った覚えのないことを言ったと言われたり、やった覚えのないことをやったと言われたりするということがぽつぽつ起こり始めた。私は自分がおかしくなったのかと思った。それで保健の五条先生のところに相談に通うようになった。探偵の真似事は初等部の頃からやっていたんだけど、部にしたのは、五条先生が顧問をやると言ってくれたからだった。いろんな依頼が来て、順調だった。でもふいに、忘れた頃に、また身に覚えのないことをやったと言われる。私は、彼女じゃないかと思う。その子……真梨亜がこの学校に入り込んでやってるんじゃないかって。でも証拠はないし、私自身、まったく確信はない」

「その、変なことが起こり始めてから……彼女がどこでどんな風に暮らしているのか、誰かに訊かなかったの?」

「訊いた。でも、たぶん元の家族とは会ってはいけない契約か何かがあるんだと思う。私が興味を持つのをおそれて、親も親戚も、私には双子の妹なんていなかったと嘘を言うんだ。ねえ、そんな風に私は認識しているのだけど。でももしかすると、本当に私には双子の妹なんていなくて、彼女と遊んだ記憶は全部私の妄想に過ぎなくて、やっぱり私がおかしいのかもしれない。わからない」

 テーブルの上に置かれた法月さんの手が震えていることに、僕は気づいた。

 僕は彼女の傍らでティーカップを傾けると、

「この紅茶、すごく美味しいね」と言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。