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イボリアス⑦


「おい、そろそろ起きろ」


 声をかけられ目が覚めた。


 感触で分かる。後ろ手に(かせ)()められていた。

 手だけではない。膝も足首も拘束されていた。


 全身が、熱を帯びていた。


 そうだ。ボコボコに殴られ蹴られ、意識を失ったのだ。

 そうか。まだ生きていたか。ならばまだ再起の芽は潰えていないな。


 どう切り抜けるか。それだけを考えて目を開けた。


「閣下……」


 目の前に、ジブンが揚々と裏切ってやった雇用主が座っていた。


 グラッパレット・トライハント。


 アリス王国の大貴族。爵位こそ伯爵だが、その権勢と名声は王家に次ぐとまで評される、雄獅子のたてがみ(・・・・)のようなざんばら髪をした、筋骨たくましい偉丈夫。


 天幕の下、その威圧的な目がジブンをジッと睨んでいた。


「くっ。ああ良かった。傷は治されたようですな。やじゅ──シビカ男爵の家臣に僧侶(ヒーラー)がいましたからな」


「ああ。また借りをつくってしまったよ」


 ニコりともせず、伯爵は苦い顔のままだった。

 いけない。機嫌を取らねば。


「ご、ご子息と会いました。いやはや、立派な勇者になられてましたぞ」


「ほう。あれが? ……なるほど、目当てはロゼか。シビカには変な気遣いをさせてしまったかな」


 少し思案するように伯爵は目を伏せた。


 どうだ? いまならイケるか?


「……閣下、それで、ジブンの処遇ですが」


「ふむ。では聞こう。この者、おまえたちはどうしたらいいと思う?」


 その言葉は、ジブンの背後に投げかけられたものだった。


 おそるおそる、後ろを見た。


「はぁ?」


 ジブンは七人の忠士を従えていた。


 一人目のイッサは下層種(ノワール)の女に片足を斬りとばされた。もはや戦士としては再起できまい。

 二人目のダラワ、四人目のアパトは、共に野獣男爵の家臣であるロサリグにあっけなく斬り殺された。

 三人目のタトロも家臣ベギナラに喉を裂かれ、六人目のエイニムも奮戦むなしく毛玉野郎の力押しに敗れ去った。

 五人目のリーマ、七人目のピトーの最期は確認していない。状況的に敗勢は明確で、ジブン一人が居残ったところでひっくり返せる筈もなかったからだ。


 全滅したと思っていた。


「あ、やっと気づいた。どうも〜」


 イッサが、おそらくはいまのジブンと同じ、さんざんに殴られ蹴られた後の、前歯の全損した腫れ上がった顔で笑いかけてきた。


「…………」


 リーマがいた。

 ピトーがいた。


 二人ともイッサとは違い、ジブンに白い目を向けてくるのみだった。


 三人いずれも、ジブンと同じ手枷足枷を嵌められた状態だった。ただし足が片方しかないイッサだけは手枷のみだった。


「おまえたち──」


「死んでると思いましたか? さすがにね、戦う気も失せたので投降しましたよ」


 リーマが突き放すように言った。


「投降だと」


「まさか非難しないですよね。我々を見捨てて逃げたあなたが!」


 ピトーが語気強く噛みついてきた。このガキが。


「閣下、まさかこの裏切り者たちにジブンをどうすべきか聞いたわけじゃありませんよね?」


「そうだが?」

「なぜ」


「わしはな、此度(こたび)の不始末、責の一端はわしにもあると思っておる。何もかもをおまえに丸投げしすぎた。信用しすぎておったわ。なのでな、これを手痛い教訓とし、戦車隊を(イチ)から再編し直すつもりよ」


「閣下は我らを赦して下さるとおっしゃった。もはやこの生命(いのち)、すべて投げ出し忠義を尽くすのみ」


 リーマは泣きながら伯爵に頭を下げていた。


 芝居だ!


 ジブンには分かる。リーマの奴は、伯爵に取り入るための三文芝居を打っていやがるのだ。


「騙されてはなりませんぞ! 裏切り者は何度だって裏切るのです!」


「黙れ卑怯者!」


 ピトーがジブンに体当たりをしてきた。


 この。やりやがったな。


 ジブンも拘束された不自由な身体のまま、体当たりをやり返す。


 ごっつん、ゴロゴロ。

 ゴロゴロ、ごっつん。


 みにくい芋虫バトルに終止符を打ったのは、この状況をニコニコと見守っていたイッサの一言だった。


「オレと同じにしてください」


 酷く冷たい響きだった。


「うん? どういうことだ」


 やめろ。詳しく聞くんじゃない。


「さすがにこの身体ではもうオレは戦えません。ですが戦車隊には様々な役割があって、オレも下働きとしてなら何とかお役に立てると思うんです。だから、オレの部下としてその人、くれませんか?」


「ふむ」


「あ。当然、足は斬っといてくださいね」


「何を言う!」


「ははははは!」


 ピトーが笑い出した。


「お似合いじゃないか。下働きの下働きだってさ!」


「我らとて身の程は(わきま)えているつもりです。戦車隊で日の当たる役職には二度と就けまいと。そういう意味ではあなたと我らは同士だ。お互い、置かれた場所で花を咲かそうではありませんか」


 リーマが手で涙を拭いながらおためごかしな美辞麗句を吐いた。しかし伯爵の死角にあるその顔はジブンを(わら)う鬼のそれだった。


 馬鹿な。


 ジブンは、豊かな国キィーフで貴族になる男だったのに。


 下働きの、下働き?


 嘘だ。こんなの、嘘だろ…………?














※登場キャラ解説

〇イボリアス・コレトリオ

トライハント伯爵家の騎士長。

実力は確かで職能も騎士であり、スキルも使いこなす。

シビカは彼の実力を冒険者なら白銀級と見なしていた。

しかし、グラッパレットに振り回される危険と隣り合わせの生活にウンザリしており、ポッツの調略をこれ幸いと受け入れてしまった。桃色の髪を長く伸ばした色男。女に不自由したことはないが、DV気質で長く続いたことがない。ティアージュをテラスエンドのポケッツ兄弟に献上し、キィーフでの新たなデビューを華々しく飾る筈だったが、その末路は無惨なものとなった。


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