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04 悪虐領主と囚われの姫君①


「お父様でしょうね。男爵様に非をなすり付けるための作り話……。本当に申しわけありません」


 ティアージュは肩を落とし、頭を下げた。


「いや、そっちが悪いわけじゃないだろ」


 せっかく楽しく遊んでくれたと思っていたらこれだ。


 サクリ・メーギッド伯爵の使い、老執事ホルダ・マレードの説明した内容が、そのままキィーフ王国で広まっているのだとしたら、俺の評判たるや、地に落ちるどころかドリルで掘削して墓穴までこさえてる勢いだろう。


 血統魔法こそ発現しなかったが、ティアージュ・ドラナークは間違いのない美少女だった。

 男なら庇護欲をそそられ、無視することなどまずできない。手を出していいとなれば、ほとんどの男が「え、いいんすか!?」となる筈だった。


 婚約者であったカルアン殿下とやらがお手付きしなかったことは、ある意味で偉業なのではないかとさえ俺は思っていた。

 もし殿下に直接の御目通りが叶うなら、是非とも敬意を(ひょう)したかった。その、プライドが変にねじくれ曲がった下半身に。


「しかしこれ、放っておいていいとはならんよな」

「早馬でトライハント伯に使者を出しておきます。そしたら向こうで上手いこと取り計らってくださるでしょう」


 アリス王国の有力貴族、グラッパレット・トライハント伯爵は、俺を貴族に取り立てるよう王家に推薦してくれた恩人であり、俺の属する貴族派閥の長だった。


 つまり、困った時に頼る上司である。


「ロゼ、使者を立てるんじゃなく、俺が直に会いに行くべきじゃないか」

「いいですよ、シビカ様が行っても。だけどお留守の間にティアージュ様は何者かにさらわれてしまっているでしょうね」


 淡々と、ロゼは未来を予測してみせた。


「屋敷にはベギナラもハビィも詰めてる。それでもか」


 モヒカン頭のベギナラは職能(クラス)盗賊のスキルを生かし、泥臭く幾多の戦場を渡り歩いてきた猛者だった。いまは短く落ち着いてしまったが、全盛期のトサカはヘルムを突き破るほどだった。


 一方ハビィ・バッシャはパッと見、文官タイプの髪の長い男だ。騎士爵家の三男で、きちんとした教育を受けたゴロツキ部隊唯一の良心。だが、普通の兵士であったなら俺の隊に配属されるわけもなく、その本性はナゼこいつが解放されているのか眉をひそめるレベルの凶状持ちだった。


 それでも、ロゼを除けばこの二人がうちのツートップだ。俺も当然、信頼してる。


 また、頭数にこそ入れなかったが、ティアージュの従者シキも相当な実力者だった。今回やってきた四人の冒険者たちと比べても、けっして負けてない。


 彼らがいても、そうなるのかと俺は聞いたのだ。

 それに対し、ロゼは「はい」と簡潔に返答した。


「相手が魔物や普通の兵隊とかでしたら、全然問題はありませんよ。私やベギナラさんたちで対処可能です。でもそうじゃない。やって来るのはおそらくキィーフ貴族の関係者です」


 あー。そうか。


 どれほど厳重に、入念な警戒配置を敷いたとて。


 敵はそれを、嘲笑うように転移──飛び越えてくるのだ。


「メーギッド伯の使いのかたは、おそらくこの場所の地点登録を済ませている筈です」


 声も小さく、ティアージュは悩ましい推論を述べた。


 時空魔法使いは自らの足で踏んだ地を、練度の向上に伴い、複数箇所記録することができるらしい。


 今回ホルダは四人の護衛を引き連れて転移してきた。


 初期練度なら、術者一人しか転移できないというのに。


 もうその情報だけで、ホルダがそれなりの使い手だと分かってしまう。


「俺がいないと、守り切れないか」


 観念するしかなかった。


 そんな俺の背中を、ロゼがバンと平手で叩いた。


 シシシと、いつもの俺をからかう時の顔で笑った。


「甲斐性の見せどころですよ、シビカ様」



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