収穫
「ここがわたくし達の畑です」
わたくしは、エイヤを畑に案内しました。厳密には御前菜園を勝手に使っているだけですが、細かい説明は省いておきましょう。
「ぽふぃ~」
スイもどこか誇らしげです。
「へぇ~私、畑って見るの初めて」
「貴女は元平民ですよね」
「平民が全員農民だというのは偏見ですよ。王都じゃ畑なんて見掛けないし、旅行なんて贅沢もできないからね」
「そういうものなのですね」
平民文学には詳しい方だと自負していますが、そもそもそういった物語は、本になる時点で上流層向けなのです。登場する平民といえば行商人、農民、貧民あたりで、王都に住むありふれた一般庶民にスポットライトが当たることはまずありません。その暮らしぶりは、高価な羊皮紙に書き記すには余りにも些細な事だからです。綿布紙が普及しつつある現在も、まだまだありきたりの日常を描くにはコストが高すぎるのでしょう。
そうこうしていると、エイヤは何かを見つけたらしく、きゅうりのやぐらに駆け寄りました。
「あっ、すごーい! 美味しそうな、ズッキーニ」
「きゅうりです」
「あ~そっちだったか~」
……こいつが、特別に無知という可能性も出てきました。
「それで、毎日、水をやってるの? 王女様自ら?」
「さすがにそれはできません。スキルを使って、スイボの力を借りています」
「見たい!」
「ええ、では」
わたくしは、アピィの小屋の扉を開け、エイヤに中を見るよう促します。
「この子がアピィちゃんです」
「ちっちゃくてかわいい~」
「アピィちゃん、よろしくお願いします」
「はぴぃ?」
アピィは曖昧に微笑んで、傘を傾けました。まだ人語の文は難しかったようです。
「スキル発動〝C#〟! お手!」
``` csharp
var builder = WebApplication.CreateBuilder(args);
builder.Services.AddSwibo();
builder.Services.AddSkillDiscoveryMetadataGenerator();
var app = builder.Build();
app.ExposeSkillDiscoveryMetadata("csharp.お手");
app.MapPost("/", async (ISwiboContext context, CancellationToken cancellationToken) =>
{
var swibo = context.Swibos.OfType<SwiboBot>().First();
await swibo.PressAsync(cancellationToken);
return Results.Ok();
});
app.Run();
```
「はぁぴ!」
小屋の中からアピィの元気な声が聞こえます。そして、アピィがレバーを押さえると、樽から水が排出され、少しだけ間を置いて、畝に小さな噴水が上がりました。
「おお! すごい……けど、地味」
エイヤはあからさまにテンションが下がっています。
「何を期待していたのですか?」
「王族のスキルって、もっとキララランボワーンキュインキュインキュインみたいな派手さがあるのかと」
「キュインキュインが何か知りませんが、スキルを魔法か何かと勘違いしていませんか? スキルとは、古代文明の産業遺産といわれています。実用品に、そんな華やかさは不要です」
「えぇ~そうかなぁ?」
「それに、これはCランクスキルです」
「王族なのに?」
「……悪かったですね。王族なのにCランクで」
「あは~ごめんて」
「そういう貴女のスキルは何なのですか?」
「ひっひっひ、我が力が見たいか?」
「……はい」
「発動せよ! スキル〝ピアリング〟!」
……。
…………。
ただ、小鳥のさえずりと、木の葉の揺れる音だけが聞こえていました。
「何が起きたのですか?」
「さあ」
「A++スキルなのですよね?」
「そうなんだよね~。何かは起きているけど、何が起きてるのか分からないんですよ」
「よくそれで人のスキルを地味だとか言えましたね」
「てへへ」
それにしても、あまりにも漠然としたスキル名です。意図的に発動するものではなく、パッシブスキルの系統なのかもしれません。
とはいえ、A++ランクとはいえ、使い道のわからないスキルで入学を認める学園も学園です。まさにお役所仕事です。
「ぽふぃ! ぽふぃ!」
スイがきゅうりの蔓の周りをくるくると泳ぎ回り、その実をつんつんとしました。
「そうでした。早く収穫しましょう」
「ぽふぃ♪」
「エイヤ、貴女も手伝ってください。わたくしに倣って、これぐらいになっている実を収穫してください」
アピィの水遣りのおかげで、きゅうりは鈴なりに実っています。皆への感謝を込めて、きゅうりを一つ一つ丁寧に鋏で収穫して行きます。収穫したきゅうりは、樽の水に浸けて冷やしておきましょう。
「ぽふぃ~」
スイは葉に隠れて見落とした実を見つけては、教えてくれました。
「ありがとうございます」
そこへ、エイヤの素っ頓狂な声が割って入ります。
「うわでっか!」
「あぁ、これは育ちすぎてしまいましたね」
棍棒のようなきゅうりがそこにありました。書物によると、育ちすぎた実は、あまり美味しくないのだとか。
天候に恵まれたお陰か、生育も良く、樽はあっという間に収穫したきゅうりで満たされました。




