即席ピクニック
収穫を終えた後は、その場で喜びを分かち合います。
「えっ、ここで食べるんですか」
「はい。宮廷料理人には、このように不揃いな実はきっと歓迎されません。よし、充分冷えてますね」
きゅうりは流水でよく洗い流してから、籠に引き上げます。
畑のすぐ側の木陰で、ピクニック用のシートを広げました。スイとアピィ、そしてわたくしとエイヤが並んで座ります。
「瑞々しくておいひ~」
エイヤは早速、棍棒のようなきゅうりに齧り付いていました。
「本当に美味しいですか?」
「こんなにでっかくて新鮮な野菜、私食べたことないかも」
まあ、この満面の笑みに水を差すのも無粋でしょうか。育ちすぎた実は大味だったり、種の食感が悪かったりすると書物には書かれていますが。
「まあ、流通しませんからね。そのように不揃いな野菜は」
「半額のはカスカスで、あんまり美味しくないんだよねぇ」
「半額?」
「知らないの? 売れ残りの処分価格。市場の終わりかけの時間に行くと買えるんだ」
「なぜそのようなものを、わざわざ買うのですか?」
「節約するために決まってるでしょ。これだからお貴族様は」
「食べる物まで節約を?」
「家賃とか税金とか公衆浴場の代金とかはコントロールできないけど、食べ物だけは我慢すれば節約できるでしょ。都民にとって新鮮な野菜は、お祝いの日に食べるものなんだ」
「……それは、存じませんでした」
「不勉強ですわね~」
「不勉強とは自ら謙遜して言う言葉であって、人に対して使う言葉ではありません」
さて。
わたくしも、エイヤのように、きゅうりに齧り付きます。なんとはしたない食べ方でしょう。けれど、このウリ科特有の香りとえぐ味、それでいて瑞々しく爽やかな味わいは、きっとこの食べ方でしか楽しめません。
「スイちゃんも、アピィちゃんも、ありがとうございます。食べてくださいね」
「ぽふぃ♪」
「はぴぃ?」
二匹には、きゅうりの欠片に、砕いた幻素水晶の粉末をまぶして渡しました。
スイボは現の物質を食べることはできませんが、テイムされたスイボは、幻素に混じった少しぐらいの不純物なら食べることができるようです。こうして混ぜることで、一緒に味わうことができるのです。
スイとアピィは揃って口腕を伸ばします。
「ぽふぃ~♪」
「はぴぃ~♪」
二匹は嬉しそうに揺らめきました。
どうやら、お口に合ったようです。あとで、ラックスとラクシアにもお裾分けしましょう。
それでも、樽にはまだまだ大量にきゅうりが残っています。この先も、きゅうりはどんどん実り続けることでしょう。いくらスローライフとはいえ、きゅうりばかりでは飽きてしまいます。
「近衛兵」
「はっ」
「日々の護衛の御礼です。どうぞ皆様でお召し上がりください」
残りのきゅうりは籠に入れて近衛兵に託しました。
「感謝いたします」
目深に被ったヘルメットの下の表情は読めません。
しかし、近衛兵には下級貴族出身の者も多い故、兵舎の食堂は王宮の晩餐会場ほどは格式高くありません。これでも少しは食糧の足しになることでしょう。
「すっげえ! でっか!」
「オレこんなズッキーニ初めて見たよ」
「きゅうりだろ」
近衛兵達のひそひそ声が聞こえて来ます。貴族子息であるはずの彼らにも嘆かわしい現状があるようです。
何はともあれ、こうして、わたくしたちはつかの間のスローライフを満喫したのでした。




